第9話 5月の白薔薇の憂鬱

最近、第3王子がつきまとってくる…。

例の人形事件の後、私を見ては真っ赤になっていた第3王子は、クラスでもよく話しかけてくるようになった。まだギクシャクしてぎこちないけど。

結局、婚約破棄の話はできず。

まあ、シカトされなくなったからとりあえずいっかと現状維持が続いてる。


『白薔薇、宿題一緒にしないか?』

また真っ赤になりながら話しかけてきた。

『今の授業の課題なら、授業中にやっちゃったよ?』

テキストとノートを揃えながら上目遣いで見ると、明らかに落胆したようにため息をつく。

『そうか。さすがだな。』

なんで急にまとわりついてくるんだろう?

エロだから?

じっと観察。長い睫毛にすっと通った鼻筋、青みがかった黒髪の前髪をかき揚げながらチラリと私を見て。

まだ何か用があるのかな?休み時間毎に来なくてもいいのに。

『…王宮庭園の薔薇が満開になったからさ、見に来ないか?』

ん?薔薇?そういえばそんな時期だね。

『黒が、白薔薇の好きな焼き菓子たくさん用意するって。』

黒さんの焼き菓子!!

『行く。』

一週間ぶりに王宮に遊びに行くことになった。


そういえば学校帰りにお友達のおうちに行くなんて新鮮。なにせお友達がいないからね!(泣)

第3王子のエスコートで、王宮の馬車に乗り込む。

第3王子の手がじっとり汗ばんでいる。

顔もなんだか赤いみたい。二人きりになったところで、言っとかないと、と思ってた事を切り出す。

『一週間前の事は忘れてね?私も忘れたから。』

『え?』

えーと、なんて言えばいいんだ?

これだけじゃ通じない?

『だから、あなたが私を脱がしたこととか、はだかを見たことだよ。』

『うわあ!!声が大きいよ!』

いや、第3王子の声の方が全然大きいと思うけど。

私の口を押さえて、ひそひそと

『うちの御者は地獄耳なんだから、声押さえて、ね。』

確かに私の声はよく通るらしい。

こくんとうなずくと、押さえてた手を離してくれた。

第3王子は、ため息をつきながら、

『俺は白薔薇の体は見てないけどね。』

まだ言うか。

『確かに人形は脱がしたし、チラッと見たけど、白薔薇のは、見てない。』

はいはい。ずっとそのスタンスで行くのね。

『人形は私だったんだから、おんなじだと思うけど?』

違うだろー!ってまた赤くなってきた顔を隠す。

『それに、見ただけじゃなく、触った。』

と、私がぽそりと付け加えると

うわーって言いながら更に両手で顔を覆い天を仰ぐ。

やっぱりあなたの方が声でかいと思うけど?


あ、そだ。

『第3王子、何か欲しいものある?』

『え?ああ、別に…。』

もうすぐ彼の16回目の誕生日だ。

今年は同じく今月誕生日がくる、第4王子と合同で誕生日パーティーが開かれることになっている。

学園に入ってから初めての正式なパーティーだ。

恒例では新入生歓迎パーティーが先にあるはずなのだけど、今年は二人の王子の誕生日があるので合同ということになった。

新入生は社交界デビューの直前の予行練習のようなものだから、気合いが入っている、らしい。

クラスでは、そこかしこでパーティーの話題でもちきりだ。パーティーのパートナーやドレスの話で。

私は侍女の紅達にお任せだけどね。


それにしてもプレゼント…。

毎回悩むんだよな。

だって相手は一応王子だよ?

何でも持ってますよねー。

一流品を。

そんな人にプレゼントなんてなー、何あげたらいいかわっかんないのよねー。

これ以上考えるのも面倒だから聞いてみたのに、特にないって。

やっぱりって感じ。


『…して欲しいことなら、あるよ。』

『へ?』

『キスして欲しい。』

は?

『…』

なんかキメ顔で云ってきた。顔半分下は右手で隠して。

やっぱりこの前の件から、変だ。この人。

『えっと、だめだよ。キスは好き好き同士でするものでしょ?』

と、当たり前の事を云っておく。

きっと、変なスイッチ入っちゃったんだろうな。

普段はこんなこと云う子じゃないのに。

急にそっち方面に興味わいてきたとか?

そういうことに興味がいくお年頃なのかしらん?

私は両手で顔を隠して、がっくり項垂れてる第3王子を真正面から見下ろす形になる。

『ちょっとこっち見ないで…。』

いや、向かい合って座ってるんだから難しいけど、

と思いがらも馬車の車窓から外を見る。

もうすぐ着くよ。王宮に。






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