第18話 ウェイクアップ・リトル・マナ◇-3


「……お気に召したようで良かった」


「落ちる…危ない」


「気が付いてないのか?俺たちが何に乗ってるのか」


「……?え?」


 言われて漸く気がついた。


 私達は黒い何かの上に立っていた事に。


 って、さっきの白黒の怪物……!?


 白銀の粒子のような物を散らしながら、空を泳ぐように飛んでいる。


 装甲こそ纏っているけれど、今の姿は私が知っているシャチのような姿をしていた。


「と、飛ぶ?!なんで!?」


「乗り物だって言ったぞ」


「ここ…海…違う?なんで…空…飛ぶ?」


 海の生き物なのになんで、空を飛んでるんだろう。私が知らないだけで空も飛べる?


「機海獣は、空を漂う"イムラーナ"の流れに乗ってるらしい。飛んでるんじゃなくて、その中を泳いでいるそうだ」


「イムラーナ?何?」


「俺達に分かるのは、それが確実に存在して、何処かへ流れているらしいという事だけだ。さあ、中に入るぞ」


 オードが足元に触れると、怪物の背中の装甲が開く。


「中……?」


 オードに手を引かれ、その中へ入ると座席のような物が、少し離れて二つ並んでいた。


 中からは、外の様子が透明に透けて見えていた。


 風を切り、白銀の飛沫上げているヒレの装甲が見えた。


「座ってちゃんと掴まっててくれ、少し飛ばす」


「う、うん」


 オードが取手のような物を握って、引くと怪物は進路を変え、上を向いた。


「行くぞ」


 そして加速する。


 見えていた風景が遥か足元へ去って行く。


 空に浮かぶ宮殿を通り越して、さらに上へ。


 空を覆っていた雲が正面に近付き、その中へ突入する。


 少しの間、真っ白になった視界から抜けると、そこには。


「これが、本物の空だ」


 そこには、本当に何も無かった。


 何も無いがあった。


 遮るモノの何一つ無い世界。


 どこまでも続いている蒼空。


 ステンドグラス越しじゃない、本物の空。


 そしてその下には。


「……雲、海」


 白い雲の海が何処までも続いていた。


「……今はこれしか見せられないが」


「ううん…ありがとう」


 私は多分、この景色を忘れないだろう。

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