108話 珍客のこと

珍客のこと








久方ぶりの詩谷行きも終わり、我が軽トラは龍宮へ戻ってきた。


・・・うん?


いやっ違うな?


戻ってきたんじゃなくて・・・んん?


俺の故郷は詩谷で、こっちは遠征先だから・・・?


ああ、なんかもうこんがらがってきたぞ。




「愉快な顔して、どがいしたんなら?」




助手席の先輩が不思議そうに聞いてきた。


愉快な顔って・・・どんなだ?




「ああいや、少しばかり自分のアイデンティティが揺らぎまして・・・ええ」




「いなげな(変な)奴じゃのう・・・」




そんな会話をしつつ、いつも通りのガラガラ田舎道を走る。


周囲が開けて、民家がチラホラ。


もうすぐ高柳運送だ。


たった2日なのに、随分長い事空けていたような気がするなあ。


早くサクラやみんなに会いたいもんだぜ。




お、あの塀は・・・見えてきた見えてきた。


勝手知ったる他人の会社・・・あ?




「・・・ん?」




「何か、おるのう」




高柳運送の正門前に、3台の車が停まっている。


自衛隊でも、駐留軍でもない。


パトカーでもない。


普通のファミリー用ワゴンだ。




「襲撃・・・ってわけでも、なさそうですね」




「ほうじゃが・・・早う行った方がええのう」




先頭の車から、人が降りているのが見える。


見た所何の武装もしていない。


いたって普通のおじさんと・・・若い男だな?


何やら門に向かって話しかけているようだ。




「最後尾につけますね」




「おう、万が一っちゅうこともあるけぇな。退路を塞いどこうや」




近付くにつれ、状況がはっきり見えてきた。


若い方の男が、正門をいささか強めにノックしている。


その横で、おじさんがしきりに話しているようだ。


殺気立った様子は、おそらくない。




高柳運送の正門は、対黒ゾンビ用に上方向に延長されている。


以前なら登れただろうが・・・今となってはフリークライミングの達人でもない限り無理だろう。


やはり延長は有効だったな。




そんなことを考えている間に、最後尾に軽トラを停車。


音に気付いたのか、正門前の二人がこちらを振り返った。


驚いている様子だ。




「降りますか」




「おう、一応武装しとくか」




ま、そうした方がいいだろう。


向こうが武器を持っていないからって、こっちがそうしてやる義理はないからな。




運転席から降りると、門の前の2人が目に見えて狼狽えた。


まあ、そうだろう。




現在の俺の装備は自衛隊ベストと兜割だ。


ヘルメットをしていないので、迫力満点の顔の傷も剥き出しになっている。




「っひ!?」




若い方の男が、助手席から降りた先輩を見て軽く悲鳴を上げた。


いや、正確には荷台から八尺棒を取り出して肩に担いだ先輩を見て・・・だ。


さぞかし恐ろしいだろう。


俺も身内じゃなければ思わず戦闘態勢に入るくらいビビると思う。


つくづく、味方でよかったなあ。




「こんちは、ウチに何か用ですか?」




声をかけながら、正門に近付く。


車を通り過ぎる時にチラリと中を見たが、スモークガラスでよくわからん。


が、何人かの人間が乗っている気配は感じた。




「ウチ・・・?こ、ここは運送会社だろう?」




おじさんの方が、狼狽しながら聞いてくる。




「はあ・・・そうですね。今は俺たちがここの社長さんに許可を取って使わせてもらってるんですよ・・・それで、何か?」




聞くと、おじさんは目を見開いた。




「社長だって!?それじゃ、高柳社長は無事なのか!?」




・・・おや?


お知り合いかな?




「ええ、お元気だと思いますよ。それで・・・そちらは?」




「あ、ああ・・・すまない、私たちはここの元社員・・・いや、現社員なんだよ」




なんと。


いつまでたっても避難してこないから、失礼ながら全滅したと思ってたぞ。




「なるほど・・・そういうわけですか。ええと、それで今日はどうされました?」




ふむ、敵意殺気の類は無し・・・だが油断はしないでおこう。


目の前の二人が、師匠レベルに殺気の制御がうまいって可能性も・・・ないだろうが、一応な。


いつでも投げれるように、車を降りる時に手の内に棒手裏剣を隠している。


2人が俺たちをどうこうしようとすれば、まず手裏剣で1人を牽制しつつ兜割を引き抜けるように。




「じ、実は・・・ここに避難してきたんだ」




「・・・避難?」




ってことはこの人たちは龍宮の住人なのか?




「ああ、以前まで避難していた所が使えなくなってね・・・それで、ここなら田舎だし安全だろうと・・・」




ふむ、筋は通っている。


だが・・・この場で『あー!そっすか!どうぞどうぞ!』と通すわけにはいかんな。


俺たちには、この人たちが本当にここの社員かどうか判断することができない。




どうしたもんか・・・あっ。




「少しお待ちを」




車に戻り、座席後ろに置いてある通信機を取る。


先輩はそのままの場所に立っている。


この人たちを牽制しているんだろう。


さっきまでバンバン門を叩いていた若い男なんか、ここから見てもわかるくらいに顔を青くしている。


うん、迫力満点だもんな。




「こちら田中野、どーぞ」




それを尻目に、通信機を起動させる。




『こちら神崎、田中野さん・・・おかえりなさい』




すぐに、神崎さんからの返信。


ここは実家ではないが・・・うん、おかえりって言葉はいいもんだな。




『屋上から確認しています。その方々は何を言っていますか?こちらからでは門に反響して聞こえ辛くて』




さすが神崎さん。


いつでも戦闘が開始できるようにスタンバっているようだ。




「ええ、実は・・・おおう」




視界の隅。


具体的に言えば水路の角。


そこから、大木くんが俺だけに見えるように微妙な長さの鉄パイプを示している。


・・・たぶん爆弾だな、アレ。


『ちょいおとなしくしといて』という手振りをすると、大木くんはサムズアップをして引っ込んだ。


爆破はもうちょい後で、こいつらがヤバかったらしてもらおう。




『どうされました!?』




「あ、いえ・・・ちょっと妖精がいたもんで、火薬の」




『・・・なるほど』




それだけで神崎さんは察したようだ。


話が早くて助かりますなあ。




「えーとですね・・・」




仕切り直して説明する。




「ってわけなんですが・・・どうしましょうか」




『なるほど・・・しばらくそのままで待機させておいてください。こちらはいつでも攻撃できるように斑鳩さん母娘と後藤倫さんが待機していますから』




ふむ、了解。


隠し武器の有無なら、俺が見逃しても先輩が絶対に見つけると思うし大丈夫だな。




『今から秋月に連絡を取りますので、確認が取れてから入場させてください。それと、集団の責任者の氏名を聞いてください』




「アイコピー」




確かに、さっきも考えたように社員の振りをしてるってことも考えられるもんな。


いきなり入れて中で大暴れでもされたら・・・うん、掃除が面倒だ。


それに、子供たちの教育に大変悪い。




通信を終了し、門の前のおじさんに話しかける。




「今、仲間が秋月の自衛隊本部に連絡を取っていますんで、しばらくお待ちを。それと、すみませんがお名前を聞かせてください・・・おっと申し遅れました、田中野といいます」




そう問いかけると、おじさんはすぐに答えた。




「そ、そうですか・・・私は馬場と申します。社長には、『主任の馬場』と言ってもらえればわかるかと」




ふむ、よどみない。


たぶん偽名ではないだろう。




俺は神崎さんにおじさんの名前と容姿を教えると、しばしの間待機する。




車の中から視線を感じるな。


こっちからは見えないけれど。


十中八九関係者だと思うが・・・変なことを考えられても困る。


ここを乗っ取ろうとしたりとかな。


・・・まあ、俺たちが乗っ取ってるようなもんなんだが。


いいもん、許可は取ってるんだし。




兜割を腰に戻し、脇差を引き抜いて刀身をチェックする。


これで、ちょっとは怖い相手だと思ってくれたかな?


もっとも、俺の横には八尺棒を軽々と担いだ先輩がいるわけだが。




『確認取れました、間違いないようです。一番外側の駐車場に誘導してください』




・・・なにかあったら即射撃できるように、だな。


了解了解。




「どーも、連絡取れたみたいです。んじゃ、誘導しますんで~」




「あ、ありがとうございます!」




おじさんと若い男は、すぐさま車に乗り込んだ。


・・・おい、若い方よ。


せめて頭ぐらい下げたらどうだ?


思うところはあるかもしれんが、社会人としては常識だぞ。




「わしが誘導するけぇ、おまーは車を頼むわ」




先輩がそう言い、車列の前に向かっていく。


お言葉に甘えて、運転席に戻ることにした。








「こんにちは、私は秋月仮説本部所属、神崎二等陸曹です。それで、どのような御用でしょうか」




先輩の有無を言わさぬ誘導によって3台の車は停車し、乗員は全員降りてきた。




年かさなのは馬場さんだけで、後は全員若い男だな。


数は、12人。


年のころはだいたい20代前半といった所か。




何人かは、神崎さんに見とれている。


ふむ、まあ美人さんだからな。


無理もない。




・・・が、最初の若い男とその他2人程は、なにやら嫌な目をしている。


獲物を見つけたような、そんな目だ。


分かりやすいなあ。




神崎さんもすぐさまそれに気付いたようで、ライフルを持ち直して氷のような視線を向けた。


それだけで、男たちは青い顔をして目を逸らしてしまう。


へ、情けねえ。




「あ、ああ・・・彼には話したんだけれど、ここに避難させてもらえないかと思ってね。龍宮はもう滅茶苦茶だ、何個か避難所を当たったんだが・・・どこも断られてしまって・・・」




馬場さんが言う。


苦労人の顔だなあ。


ストレスが頭髪にまで及んでいる。


俺も気を付けよう。




それにしても、御神楽以外の避難所ってあるんだな。


探索していても全く見つからなかったが・・・息を潜めているんだろう。


俺たちも積極的に探したというわけでもないし。




「なるほど、おっしゃることはよくわかりましたが・・・現状ここは前線基地として活用していますので、ご期待には添いかねます」




「そ、そんな・・・」




・・・前線基地?


物は言いようだなあ。


だがまあ、俺としては何の文句もない。




「先程確認を取りましたところ、詩谷の秋月総合病院には空きがあります。そちらへ向かってください」




「そう、そうですか・・・!それはよかった!」




馬場さんは目を輝かせたが、前述の何人かは不満そうである。


折角美人のいる避難所を見つけたのに、出て行きたくはないのだろう。




さりげなく懐から拳銃を取り出し、神崎さんの横まで移動する。


屋上からは、わざとこちらへ姿を晒すようにして斑鳩さんらしき人影がライフルを構えている。


・・・横の小さいのは璃子ちゃんだな。


示威行為としては十分だ。




「あ、あのぉ~・・・」




門を叩きまくっていた若い男が、おずおずと口を開く。




「俺たちすっげぇ疲れてるんすよ。避難所には向かいますけどぉ、えっと、ちょっと休憩したいっていうか、なあ?」




おいおい、これだけ脅されてまだ懲りないのか。


どう見ても千客万来の態度じゃないだろう、俺たち。


これがよぼよぼのお年寄りとかなら少しは考えるが、どう見ても元気の有り余っている五体満足な連中には無用だろう。




「そ・・・そうそう!」「俺たちここらに詳しいんで、そ、そのぉ・・・情報とかも教えられますよ?」




若者が口々にそう告げるが、それに対する神崎さんの対応は冷ややかなものだった。




「結構です、民間人のあなた方に手伝ってもらおうとは思いません」




ぴしゃりと切り捨てた神崎さんは、続けて一言。




「休憩でしたら、各自の車内でどうぞ。我々は高柳社長から許可を取ってここを運営しています・・・あなた方が社員だとしても、異論は認めません」




お前らが立ち去るまで、ここから一歩も動かないぞ・・・そんな態度である。


ここには子供たちも非戦闘員もいる。


不確定要素は排除したい。




「こら!む、無茶を言うんじゃない!・・・ご迷惑おかけしました!」




馬場さんがそう叱りつけるが、彼らは一様に不満気だ。


それを見つめていると、先輩が俺の軽トラを運転して社屋の入り口にぴたりと停車した。


絶対に入れませんよ、とわざとらしく伝えるかのように。




「す、少し休憩したらすぐに出て行きますから・・・」




馬場さんはそう言って、他の連中を先導して車へ戻って行った。


大変だなあ、あんな部下がいて。


社会人時代の俺の部下・・・っていうか後輩はみんないいやつばっかりだったから、どうにも想像がつかないが。




「・・・遅れましたが、おかえりなさい田中野さん」




いまだに車に視線を向けつつ、神崎さんが小さな声で言う。




「ただいまです、神崎さん。・・・でも、さっき言いませんでした?」




通信でそう言ったんだけどな。




「こ、こういうのは直接・・・そう、直接言いたいんですっ」




少し頬を赤らめ、神崎さんは少しだけ笑ってそう言った。


・・・左様でござるか。


ふ、不覚にも少しドキッとしてしまった。


美人の笑顔って破壊力高いなあ・・・






結局、彼らは15分ほど休憩した後に詩谷へ出発した。


途中若いのがトイレを借りたいと言ってきたが・・・




『故障中です、もし急ぐのであれば周囲の田んぼでどうぞ』




と、またもやバッサリ斬り捨てられていた。


空前絶後のバッサリ感だった。


彼らがまともだったら貸してやってもよかったが・・・どうにも気味が悪い。


もし本当にヤバかったら・・・まあ、畑があるしいいか。


肥料にもなるし。


俺はあんまり使いたくないけども。




馬場さんには申し訳ないが・・・部下がね。


神崎さんも気付いてるみたいだし。




・・・あ。


社長さんから預かった手紙、渡すの忘れた。


・・・まあいいか。


秋月に行ったら再会できるだろうし。




「ふいい・・・やっと行ったか」




それを見届け、正門を施錠しながら呟いた。


まったく、サクラに一刻も早く会いたいというのに・・・変に水を差されてしまったなあ。




変なのがいなくなったのを見ていたのか、社屋のドアが開いて・・・中からサクラが飛び出してきた。




「おー!ただいまサクラぁ!」




「わふ!わん!!」




おお、はやいはやい。


俺の声に元気よく返事をしたサクラは、あっという間に俺の所まで走ってきた。




「お土産もあるからぬぅん!?」




太腿にサクラミサイル!!


最近体がデカくなってきたから威力は抜群だ!!


これは必殺技でもいいかもしれん・・・




「お、お土産もあるぞぉ・・・」




「きゅん!きゃん!!」




抱き上げると、顔を舐めたり尻尾を振ったり大忙しだ。


うん、今日も元気でえらいぞ。




「おじちゃーん、おかえり~」




お、葵ちゃんも追いかけてきた。


最近特に表情が明るくなってきた。


サクラとソラの二大アニマルセラピーの成果かしら。




「はいはい、ただいま~。お土産あるからねえ、今から下ろして・・・」




葵ちゃんの頭を撫でながら玄関の方を見ると、もう既に先輩と巴さんが荷下ろしに取り掛かっている。


子供たちも、小さい荷物を運ぶ手伝いをしていた。


おおう・・・なんて気が付くいい子たちなんや。


お土産をトン単位で持って帰ってやりたくなるよなあ、ああまでいい子たちだと。




「私は・・・もう少し屋上で警戒を続けます」




神崎さんはそう言うと去っていった。


斑鳩母娘共々、ご苦労様です。




あれ?そういえば後藤倫先輩は一体どこで待機していたんだろう。


屋上ではなさそうだし、先輩の戦闘方法から至近距離にいると思うんだが・・・どこにも姿が見えない。




「最近水路に魚が増えた。生け簀にするのもいいかもしれない」




いたあ。


当の後藤倫先輩は、水路からひょいと跳び上がってきた。


脚立無しでも上がれるのか・・・そっちにはスロープないのに。


跳躍力がえぐい。




「お疲れ様です先輩」




「ん。あのおじさんはまともそうだったけど、部下に恵まれないね」




先輩も気付いていたらしい。




「たぶん脳が下半身にあるか、もしくはないかだと思うな」




「わかりやすい」




危機的状況になればなるほど、ああいう下半身直結モンスターが増える気がする。


なんでだろう。


子孫を残そうとする意思が強くなるのか、それとも普段は隠していたものが表に出てきたか。


うーん・・・どっちでもいいや面倒臭い。




「田中、しばらくは注意したほうがいいね。場所知られたし」




そうだな。


今回は神崎さんしか見られてないけど・・・




「子供もいるし・・・それに先輩とか斑鳩さんとか、ここには美人さんがいっぱいいますからねゥ!?!?!?!?!?」




油断しきっていた俺の腹筋に、先輩の拳が突き刺さった。


サクラを抱っこしていた所は避ける冷静さが・・・憎い!




「・・・セクハラ田中」




先輩は何事か呟くと、珍しくサクラを奪い取って抱っこしたまま連れて行った。


その肩越しに、サクラが心配そうな顔をしている。


優しい子だあ・・・




「おおおお・・・ぐぐぐぐ・・・」




俺は、膝立ちになって痛みに耐える。


さ、寒いのに冷や汗が出るよう・・・




「だいじょうぶ?おじちゃん?」




葵ちゃんが心配そうに覗き込んでくるが、俺はそれに乾いた笑みを返すことしかできなかった。


こっちも優しい子だあ・・・






「ちょりっすでーす。やっぱアイツら分裂しましたよ」




痛みがやっと引いてきた頃、大木くんがひょっこりやってきた。


アイツら・・・?




「さっきの一団ですよ。こっそりバイクで尾行したんですけど・・・ちょうど町境のあたりで揉めてました」




大木くんのフットワーク、軽すぎ。




「マジか、それでどうなったんだ」




「何か揉めて・・・2台は詩谷方面に行ったんですけど、残りの1台はこっちに戻ってますよ。北寄りの空き家の前に停車してました」




・・・そうなったかあ。


執着しちまったのかな。




「確実にここ狙いだと思いますよ。水路からこっそり見てましたけど、完全にロックオンしてましたもん・・・田中野さんとか七塚原さん見て、よくもまあその気になるとは思いますけどね」




「まあ、仕方ねえだろ。脳味噌の代わりに金玉でも詰まってるんだろうさ」




「フヒヒ、確かに」




尾行のお礼も兼ねて、大木くんを招待することにした。


回収した物資でオヤツタイムとしようか。


屋上にも持って行ってあげよう。






「ええ、それなら先程から確認しています」




屋上にお茶やらお菓子屋らを差し入れに行くと、神崎さんが出迎えてくれた。


大木くんは、今頃ソラの動画を撮りまくっているんだと思う。


子供たちに連れて行かれてたし。




「そーそー!あの人たち、上からスコープで見ててもわかったもん!ニヤニヤしててキモかった!」




璃子ちゃんがクッキーを摘まみながら憤慨している。


ライフル姿も板についてきたなあ。


・・・板に付いちゃダメな気がするけど。




「いつかの避難所を襲撃した人たちと・・・同じ目をしていました」




厳しい視線で、斑鳩さんも同意・・・ワオ!




「かっこいいですね斑鳩さん!スナイパーみたいで」




斑鳩さんは、自衛隊の迷彩服を身に着けてデカいライフルを油断なく構えていた。


神崎さんの予備かな?


私物であろうアーミーグリーンの帽子がよく似合っている。




「そ、そうでしょうか・・・?うふ、父と狩りをしていた頃を思い出します」




まるで少女のように恥ずかしがっている。


いつものお母さん路線と違って、新鮮であるなあ。


・・・そういえば俺より年下なんだった、この人。


時の流れって恐ろしい痛い!




「・・・なんで俺のケツ蹴るの璃子ちゃん」




「おじさんのすけこましー」




何故!?


こましてないぞ俺は!!


助けて神崎さ・・・ヒィ!極寒の目をしている!!


ナンデ!!




「・・・とにかく、警戒態勢を崩さないようにしましょう。しばらくは見張りを立てましょうね!田中野さん!!」




「あ、は、ハイ」




自動的に見張りローテに組み込まれた田中野であった。


・・・でもまあ、あんなのが近所にいちゃ安眠できないからな。


仕方あるまい。




「ええ!ここは久しぶりの共同戦線といきましょうか神崎さん!」




「ひゃ・・・ひゃい!」




・・・なんで自分から振ってきたのに狼狽してんの?




「わたしも!わたしもやるー!」




嬉々として立候補してきた璃子ちゃんの声を聞きながら、俺はチョコチップのクッキーを1枚齧った。

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