特別編 大木政宗の優雅な午前。

特別編 大木政宗の優雅な午前。








聞き馴れた電子音が聞こえる。


携帯のアラームだ。




夜の間に体中にかいた汗が気持ち悪い。


どうせ、悪夢だろう。


覚えちゃいないけど。




目を開くと、朝日が照り返す天井が目に入った。


うおっまぶしっ。




「・・・最近見慣れてきた天井だあ」




今日はいい天気。


いや、今日もいい天気か。


梅雨も中盤をとうに過ぎたというのに、最近の天気はバグってる。




いったいこの世界はどうなってんだろうなあ。


地球までゾンビ化なんて、笑い話にもならない。


おおかた世界中で人間の数が半減したので、何かしらの不具合でも発生してるんだろう。




「ふわぁ・・・起きるか」




面倒臭い思考を切り替えつつ、やっと慣れてきた他人のベッドから起き上がった。


・・・うう、頭が重いなあ。


昨日テンション上がって動画編集やりすぎたなあ。


コーヒー淹れよ。


牛乳アリアリで。






僕の名前は大木政宗。


県立詩谷大学工学部卒業・・・見込みだ。


恐らく永遠に見込みのままだろう。


だとすると・・・詩谷東高校卒ってところになるのかなあ。


ま、どうでもいいけど。


こんな世界で学歴が必要になるわけもないし。




コーヒー牛乳を飲みながら、缶詰パンを齧る。


うん、今日も安定してそこそこおいしい。


窓の外には、のどかな田園風景が広がっている。


うーん、平和って最高。




原野に引っ越してきてしばらく経った。


あの時、田中野さんに手伝ってもらって手に入れた仮の我が家。


その2階部分が、今の僕の活動拠点。


1階はほぼ手付かずの状態にしてある。


窓と扉は残らず塞いだけどね。




2階の・・・恐らくここの息子さんが使用していたであろう部屋が寝室だ。


社会人になって家を出たのか、少し埃っぽかったその部屋も今やすっかり僕の城だ。




壁に貼られている、ふた昔ほど前のアニメポスターを見ながらぼーっとする。


さあて、今日は何をしようかなあ。






朝食を終えて、庭に出る。


庭への出入りは、2階から伸縮式の梯子を使う。


だいたいのゾンビは知能が著しく低いので、侵入対策はぶっちゃけ害獣のそれよりも楽なのだ。


・・・最近、それ以外の種も確認されているからあまり過信はできないけどね。




ラジオ体操大木式を終え、庭のチェック。


・・・うん、蓄電池も問題なく可動してる。


家の水路と門に施した放電設備も問題なし。


何かあれば某電気鼠クラスの電気を放出してくれるだろう。




電気・・・電気といえば、スタンガン以外の武器も考えてみようかな。


田中野さんたちに渡して試してもらおうか。




「・・・!」「・・・!」「・・・!」




聞こえてきた声に、一瞬体を硬くする。


・・・いや、これは子供の声か。


あっちも起きたんだなあ。


朝から元気なことだ。




庭のベンチに登って、声の方を確認する。


そこには、周囲を塀に囲まれた運送会社が見える。


うん、やっぱりあそこだな。


犬の声も聞こえる・・・サクラちゃんも元気だな。


また動画、撮らせてもらおう。




あそこは『高柳運送』


僕の大恩人であるサムライマン・・・田中野さんの住む場所だ。






正直、初めて見た時は殺されるかと思った。




探索中に出会った田中野さんは、腰に刀を差していたからだ。


おまけに、担いだバカでかい木刀には血汚れがべったり。


さらにバイザー越しに見える顔には、斜めにでっかい傷まで。




機嫌を損ねたら斬り捨てられる・・・そう思って対応したが、彼はすこぶるいい人だった。


緊急用に持ってた爆弾、使わなくてよかったなあ。


後で確かめてたら、起爆時間がミスで0、5秒しかなかったし。


使ってたらまず僕が死んでたよね。




それからも何かと縁があり、田中野さんとはすぐに仲良くなった・・・気がする。


いや、仲いいよね!?ウザがられていないよね!?


だ、大丈夫・・・だと思う、うん。


田中野さんってば考えてることがほぼ全て顔に出ちゃうんだよなあ。


インディアンポーカーとかすっごく弱そうだよね。






だけど、田中野さんは・・・ある意味怖い人だ。






子供に優しいし、すぐ泣くし、僕のことを色々気遣ってくれるけど。




あの人は『敵』と『味方』の区別が一瞬でできる人だ。


そして、何の気負いも見せずにすぐさま攻撃・・・いや殺せる。


僕の今までの人生で、あれほど異質な人はいなかったと思う。


・・・人間性がクソみたいな奴らには散々出会ったけどね。




後日他の『南雲流』の人たちと知り合って、異質ジャンルがもっと増えたけどさ。


・・・なんなのあの人たち。


まるで漫画やゲームみたいな動きするし。


田中野さんだけでもびっくりするのに、あれで上には上がいるんだもんなあ。


度々ぼやいてる『師匠』さんなんて、完全に人外だよね・・・話だけでもお腹一杯だよ、僕。


こっちは一撃死の超絶難易度ゲームなのに、あの人たちはたぶん格ゲーの世界の住人なんだろう。


そう思うことで考えを放棄する・・・した。






うん、庭に作っている緊急用の野菜畑も問題ない。


まだ発芽してすぐだけど・・・この分なら問題なく生育できるだろう。


いっぱいできたらあっちにもおすそ分けしよう。


いいって言ってるのにご飯貰うこと多いし。


あそこ、本当に善人しかいないよなあ・・・戦闘力がズバ抜けてる以外はね。




水やり終わり・・・っと。


今日は天気もいいし、動画の撮影がてら詩谷の田中野邸でも見に行こうかな。


正直もうちょっと防御を固めた方がいいと思うんだけど・・・田中野さん、絶対許可してくれないんだよね。


感知式の地雷とか、トラバサミとか・・・すぐに作れるんだけどなあ。


気にしなくてもいいのにね、材料はそれこそ売るほどあるんだから。




うーん、今日の最低限のお仕事・・・終了!


ゾンビ騒動で世界中大変だろうけど、僕にとっては過ごしやすいね。


家もあるし(他人のだけど)、食料も1人なら十分すぎるし、ここなら変な人間やゾンビならご近所さんが掃除してくれるし・・・最高の環境だね!


・・・うん、やっぱり田中野さんたちにはちゃんと恩返ししないとね。




とりあえず朝の挨拶でもしてこようかな。


その後出発しても遅くないし。




車庫から出した愛車に跨り、エンジンをかける。


うーん、いい音!








「おーきのにいちゃんだー!」「おでかけー?」「いいなー!」




高柳運送に入ると、わらわらと子供たちが寄ってきた。


通常は内側から開けないといけないけれど、僕は鍵を持っているのでフリーパスだ。




僕の周りを囲む子供たち。


食べきれないお菓子や、前の家から持ってきたおもちゃなんかを進呈していたら結構なつかれちゃった。


子供は好きだから全然問題ないけどね。


子供は・・・大人と違って汚れていないからなあ。




「ふふーん、いいものがあったらお土産にするからねえ」




「「「わーい!!!」」」




体いっぱいに喜びを表現する子供たち。


こんな状況だというのに、驚くほど明るい。


よほどここの人たちが可愛がってるんだろうね。




「ねーねー、田中野さんはいるかな?」




「いちろーおじちゃん、あそこー!」




指差す方向を見ると、丁度倉庫の影から田中野さんが地面と水平に飛び出してくるところだった。




「うぐおおおお!?・・・ま、まだまだぁ!!」




冗談みたいに飛んだ田中野さんは、地面をゴロゴロと転がった後すぐに跳ね起きた。


そしてそのまま、木刀を引っ掴んでまた倉庫の影へ消えていく。




「おけいこー」




「うん、そうみたいだねえ・・・」




朝からすごいなあ・・・あの人。


姿は見えないが、七塚原さんの雄たけびも聞こえる。


朝稽古の真っ最中のようだ。




「あぶないからきちゃダメってー」




「そうだねえ、遠くで見てようねえ・・・」




あれだけ稽古してれば、そりゃ強くもなるよねえ。


七塚原さんによく向かっていけるなあ・・・それにしても。


いや、後藤倫さんが弱いってわけじゃないけどさ。


七塚原さん、僕みたいな素人から見ても超強そうなんだもんね。


何回か戦ってるところ見たけどさ、マジで異次元。


あんなでっかい・・・六尺棒?持ってるのに手元見えないんだもん、速すぎて。


まるで台風みたいな人だよ。




あ、サクラちゃんもいる。


おりこうさんだなあ・・・あんなに小さいのにしっかり安全な所で待ってる。


田中野さんのこと、本当に好きなんだろうな。


・・・前から思ってたけど、あの子ちょっと賢すぎないかな?


田中野さんの教育のお陰だろうか。




「カメラ小僧が来た」




「あ、おはようございます後藤倫さん・・・お菓子どうぞ」




「ふむ、いい心がけ・・・お前は禿げない」




いつの間にか後藤倫さんが背後にいた。


すかさず真空パックで保存されている羊羹を差し出す。


よかった、禿げないんだ僕。




「みんなの分もあるから、おやつの時間に食べなさいね」




「「「わーい!!!」」」




後で七塚原さんの奥さんに渡しておこう。




「稽古、してく?」




「死ぬから嫌です」




恐ろしいお誘いも断っておく。


僕なんか小パンチで死んじゃうもん。




「向上心は大事」




「自殺願望って言うんですよ、それ」




後藤倫さん・・・相変わらず何を考えているかわかんない人だ。


日本人形みたいですっごい美人さんだけど・・・それを補って余りまくる戦闘力の持ち主だ。


みんな知ってる?人間の体って素手で破壊できるんだよ?




僕よりはるかに付き合いの長いであろう田中野さんをして、




『マジであの人はわからん・・・何もかも』




そう言わせる人なのだ。


路傍の石ころよりちょっとだけ知り合いな僕では到底わからないだろう。


強い人以外は名前を覚えない・・・なんて聞かされたけど、僕に至ってはあだ名だ。


田中野さんが説得して『覗きくん』から変えてもらっただけでありがたすぎるよ。




「ふうん・・・混ざってこよっと」




言うや否や、後藤倫さんは恐ろしい勢いで走って行った。


彼女が消えていった倉庫の影から、田中野さんの悲鳴が聞こえてくる。




「アンブッシュ!?グワーッ!!!!」




おお、ナムサン・・・田中野さんも大変ですねえ。




『先輩俺のこと絶対愉快なおもちゃだと思ってるだろ・・・』




なんて言ってたな、否定はしない。


でも、かなり好かれてると思いますよ田中野さん。


気付いてないんだろうけど・・・後藤倫さんが田中野さんに絡む時って若干、ほんの少しだけ表情が柔らかいんだよな・・・あの人。


絶対気付いてないんだろうけどさ、田中野さんってば。




「ん?」




気付くと、足元にサッカーボールが転がってきた。




「おにーちゃー!」「あそぼー!」「ねーねー!」




さっきの子供たちが、即席のゴールの前で手を振っている。


うーん・・・出かける予定が・・・




「よっしゃあ!僕の華麗なドリブルテクニックを見ろォオ!!!!!」




予定なんてあってないようなもんだい!


子供の頼みを断るほど、僕も落ちぶれちゃいないしね!!


僕は颯爽とドリブルしながら駆け出した。


ふふふ、詩谷南小学校のファンタジスタと呼ばれた僕の才能に恐れおののくがいいさ!!!








僕は地面に転がって空を見上げている。


ふとももがとてもいたい。




「・・・おい、大丈夫か大木くん」




「・・・大丈夫に見えますぅ?」




「見えない」




「わふぅ」




空が陰り、心配そうな田中野さんとサクラちゃんが見える。




「知ってましたか田中野さぁん・・・急に走ると太腿ってパァン!なるんですよ」




「・・・だから準備運動はしっかりしろって言ってんのに」




「ぎゃふん」




「わふん」




返す言葉も出なかった。


おっかしいなあ・・・気持ちでは動けてたんだけどなあ?


ちなみに子供たちは僕を心配しつつ朝ご飯を食べに行った。




「朝飯食ってくか?」




「もう食べてきたんで・・・あとこのコンディションで食うとマーライオンになりますよ、僕」




毎回誘われるので、僕はここに来るときは必ずご飯を食べてからにしている。


だが今日はその習慣を恨んでいる。


缶詰パンが今にも胃から脱出しそうなんだ・・・




「すいません田中野さん・・・詩谷に行く予定は無しになりそうです。明日行きますんで・・・」




「気にすんなっての、なんなら行かなくてもいいくらいだぞ?俺の家なんだから心苦しい」




まったくもう。


そんくらいは全然気にしなくていいのに。


こっちには返しきれそうもない恩があるっていうのにさあ。




「どっこいしょ」




田中野さんは僕の横に座った。


待ってましたとばかりに、サクラちゃんが膝の中におさまる。


慣れてるなあ。




「その足じゃしんどいだろう。ここでゆっくり休みなよ・・・今日の昼飯は斑鳩さん特製のペペロンチーノだぞ」




「うぐわあああ・・・うまそう・・・」




僕の大好物の一つである。


くそう、そんな誘惑に負ける大木政宗じゃあないぞ!




「・・・今度年貢納めるんで、代金はそれで」




「悪いなあ・・・でも気にせんでもいいんだぜ?」




「いやいや、大人ですから僕」




ここだけは譲れない。


自分の食い扶持は自分で調達するんだ僕は。


・・・ただペペロンチーノには勝てない。


斑鳩さんの料理が美味しすぎるのが悪いのだ、僕に罪はない。


あの人なんなの?翻訳家さんだって聞いてたけど。


料理屋でも開けば大繁盛だと思うなあ、すっごい美人だし。




「おじちゃーん・・・と、おにいちゃんだ」




「わふ」




「サクラちゃんも、いたね」




たぶん葵ちゃんが駆けてきたようだ。


わかんない、太腿痛くて起きれないし。




「だいじょぶー?」




あ、葵ちゃんだった。


いい子だなあ・・・まだ小さいのに。




「準備運動はきちんとしようね、葵ちゃん」




「ん~?・・・うん!」




いい子だなあ。


とりあえず話を合わせてくれるし。




「おじちゃん、電話だって。凜おねーさんが呼んでる~」




「お、そうか。ありがとなぁ」




「えへへぇ」




田中野さんに頭を撫でられて、葵ちゃんは嬉しそうだ。


いつだったかこっそり教えてくれたんだ、葵ちゃん。




『おじちゃんねぇ、ジョンに似てるの。だからだいすき!』




ちなみにジョンとは、葵ちゃんのお爺ちゃんが飼っているゴールデンレトリバーだそうだ。


似てる・・・たぶんゲームのボスとかにいそうな強そうな犬なんだろう。


まさか傷はないだろうし。


っていうか田中野さんみたいな犬ってなんだ・・・?


謎は深まるばかりだね。




「おかまいなく、僕しばらく寝てるんで」




「おう・・・ほいこれ」




「わぷ」




田中野さんは、綺麗なタオルを何枚かまとめて丸めたものを僕に投げてきた。


枕にしろっていうことかな?


相変わらず味方には優しいね。




葵ちゃんとサクラちゃんを伴って歩いていく田中野さんを見送り、再び空を見る。


今日の予定はキャンセルだ。


ここでしばらく空を見て過ごそう。


ペペロンチーノを想いながら。






いつの間にか眠ってしまったようだ。




『マサムネクン』




しかも夢の中のようだ。




『マサムネクン』




あーあ、せっかくいい気分だったてのにさ。


どうせこの夢も、起きたら忘れてしまうんだろう。




『マサムネクン』




えーと、あるかなあ。


あ、あったあった。


夢って・・・最高!!




「可及的速やかにくたばれ!!!!!!!!!!!!!!!!」




『マサムn』




暗く澱んだ夢の中を、見慣れた閃光と聞き馴れた爆音が駆け抜けた。


僕に声をかけていた放射性廃棄物みたいな人影が、チリも残さず消え去った。


うん、威力も現実と同じくらいだ。


我ながらいい出来だね!




ずるずると地面から沸くそいつら目掛け、僕は嬉々として爆弾を振りかぶった。








「きゅ~ん!きゅ~ん!!」




わぷぷぷぷぷぷ。


サクラちゃんどうしたの。


僕の顔はアンパンじゃないんだけど。




「うなされていましたよ、大木さん」




サクラちゃんを手で制しながら起き上がると、神崎さんが心配そうな顔で立っていた。


やだなあ、また何も覚えていない。


でも頭の片隅に残った感覚と、かいた汗で悪夢だとわかる。


うーん・・・今度薬局を物色しなきゃ。


睡眠薬の在庫も心もとないし。




いてて・・・・だけど大分マシになったな、太腿。


日頃から柔軟体操だけはしっかりやっておこう。


田中野さんも言ってたし。




「太腿がパーンしましたからねえ、痛くって痛くって・・・田中野さんは?」




「上官と通信しています、何か用があるらしくて」




なるほど。


田中野さんも忙しい人だなあ。


楽をしたいゆっくり暮らしたい・・・なんて言いながらこの状況だもんね。


ツッコミ待ちかなあ。




「一雨きそうです、中に入ってください」




「ありがとうございます」




空を見れば、なるほど龍宮方面に黒い雲が見える。


恐らくあと1時間ほどでザーッと降ってくるだろうね。


・・・梅雨の降り方じゃないんだよなあ。




「田中野さんって、すごいですねえ」




ふとそう思った。


なんだかんだ言ってあの人も十分人間離れしてるし。


僕がこうやって、日々安らかに生きていられるのもあの人のお陰だ。


例のクソ姉妹との縁切りも、たぶん田中野さんがいなければできなかった。


ある意味あの人が背中を押してくれたんだ・・・なんて、勝手に思うことにする。




「ええ!ええ!そう思います!私も!!」




神崎さん、大分興奮してますよ。


目が怖いですもん。


サクラちゃんも若干ビックリしているし。




「わふわふ」




「よっと」




怯えて足元に来たサクラちゃんを抱え上げる。


よーしよし、怖くないからね~。


神崎さんは平常運行だからね~。




「はっはっは、神崎さんは本当に田中野さんのことが大好きですねえ」




「はい!・・・にゃあ!?ちちち違うます!?ちがっ!?違いませんけど違いましゅ!!!」




いつものクールビューティーはポイして、真っ赤になった神崎さんはダッシュで社屋に消えていった。


足速いなあ・・・オリンピック出れるんじゃないかなあ。




「・・・あれで気付かない田中野さんもどうなのかな~?ね、〇ム太郎」




「わう!わう!!」




ハムスター扱いがお気に召さないサクラちゃんが甘噛みで抗議してきた。


喉笛はやめてください!田中野さんはどういう教育してるんだ全く!


オトモモンスにでも育てる気なんだろうか。




「全くもう・・・あの人、他人のことはすぐ気付くのになんで自分のことはからっきしなんだろうねえ」




絶望的に鈍いんだよね。


いや・・・っていうかアレはハナから自分がそういう対象に見られることがないと勘違いしてるんだろうね。


僕の恋愛遍歴は核戦争並みに崩壊してるけど、田中野さんのそれも似たようなものかもしれない。




サクラちゃんを撫でながら、もう一度空を見上げる。


うん、こっちに近付いてるな。


見るからに雷落としそうな雲が。




「今は色々ごたついてるけど・・・もうちょっと平和になったら手助けの一つくらいしましょっかね」




「はふ!もふ!」




僕の手をガジガジすることに夢中になってるサクラちゃんを抱え、社屋に向けて歩き出す。




「戦闘では役立たずだけど・・・それくらいの恩返しはしないとね、男として」




僕はもう一生独身でもノーダメだけど、田中野さんはなあ・・・


あれだけいい人に好かれてるんだから、幸せになってほしい。


あの人自身もいい人・・・だと思うし、うん。




「寝たらお腹空いたねえサクラちゃん・・・」




「わふん」




ま、とにもかくにもまずはペペロンチーノだ。


僕はウキウキした気分で、スキップ気味に歩き出した。




・・・やめときゃよかった、太腿再発したァ!!

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