第86話 治療と情報のこと

治療と情報のこと








「キミねぇ・・・ほんと、バラエティに富んだ体験をしているねぇ・・・」




「め、面目ない・・・ははは」




石平先生が、心底呆れた様子で俺の傷を診察している。


心苦しすぎる。




「本当よぉ。いくら男の子だからって・・・ねぇ?」




そして何故か香枝さん・・・神崎さんのお祖母さんまでいらっしゃる。






ここは、御神楽高校の保健室。


遺憾だが若干通い慣れてきた場所だ。




ここへ到着するなり、瞬時に連れてこられたのだ。


同じように運ばれて来た七塚原先輩は、奥のベッドでぐうぐうと寝ている。


後藤倫先輩は女性ということもあり、別の場所で治療を受けているようだ。


前は緊急の妊婦さんだったので石平先生が診察していたが、よほどのことがない限り女性は女医さんに診てもらうのだという。


恵まれてるなあ、この避難所。




「さて・・・うん、運がよかった。重要な血管や神経まで傷は到達していないね」




「そうですか・・・」




「もう少し深かったら、ここの設備ではどうしようもない所だったよ」




しかし何故香枝さんはここにいるんだろうか。


ちなみに神崎さんは職員室で何やら会議だとのこと。


集めた情報をすり合わせて、あとで教えてくれるそうだ。


それじゃ面倒だから俺も参加する・・・と言ったら、恐ろしい形相で駄目だといわれてしまった。




「しかしこれ・・・一体どうして受けた傷なんだい?」




「冗談じゃないんですけど・・・両手にチェーンソー持ったゾンビと戦ってこうなりました」




「・・・は?」




いつでも余裕たっぷりといった雰囲気の石平先生も、流石に目を丸くしている。


俺も自分で体験しなきゃ大法螺だと思うもん。




「まぁ・・・ぞんびって道具も使うのねぇ」




香枝さんは顔をしかめている。


動じてないな!?




「にわかには信じがたいけど・・・キミがそこらのチンピラに後れを取るわけないもんねえ・・・まるで漫画やアニメの世界だ」




そう呟くと、先生は治療を再開した。


うがががが、消毒液的なものが沁みるゥ!!




「ぎゅううう・・・・!!!」




「我慢しなさい、男の子でしょ?」




「はいいいいいい・・・!!!」




悶絶しながら治療を受け、綺麗な包帯に巻き直してもらった。




「はい、これでよし・・・っと。化膿さえしなければ大丈夫だけど、傷は残るよ・・・ま、キミは気にしないだろうが」




「ええ、『戦士の傷は誉じゃ』って師匠も言ってましたし」




そう言うと、先生と香枝さんは揃って笑った。




「ははは・・・十兵衛先生は確かにねえ・・・あの人、どうやったらあれだけ傷まみれになるんだってくらい多いし」




「まるで世界地図みたいよねえ、十兵衛くんの傷」




軽く10回くらいは致命傷喰らってるでしょ・・・みたいな感じだもんな、師匠の体。


顔には一切傷がないけれど。




「『死ぬ以外はかすり傷』なんて嘯いてね、家内に怒られていたよ」




「私も何度も怒ったんだけれど・・・十兵衛くんったらいつも決まって子供みたいに笑うのよねえ」




それから2人は、師匠の昔話を色々と教えてくれた。


銀行強盗をボッコボコにした上に、強盗だと思われて確保されたってなんだよ・・・俺知らねえぞそんな面白いの。






先生の淹れてくれたほうじ茶を飲みながら寛いでいると、不意にドアが控えめにノックされた。




「おや、急患かな・・・はーい、どうぞ」




先生が声をかけると、扉が開いた。


そこにいたのは、俺が助けた子供たちのリーダー・・・ええっと、ダイキがいた。


オドオドとした目つきで室内を見回している。




「お、さっきぶりだな少年よ」




「おじさん!」




話しかけると、ダイキは目に涙を浮かべて走ってきた。


あががが、振動が痛い。




「だいじょうぶ!?」




「はっはっは、ピンピンしとるよ俺は。見てたんだろ?」




「う、うん・・・で、でも血がいっぱい出てて・・・」




確かに派手に見えただろうなあ。


懐のライターが血塗れになってたくらいだし。




「大丈夫大丈夫、おじさん超強いからな」




「そっかあ・・・よかったあ・・・」




緊張が解けたのか、ダイキはへなへなと地面に座り込んだ。




「おやおや、大丈夫じゃないのはキミのほうだね・・・どれ、こっちへおいで」




先生はダイキを立ち上がらせると、手ごろな椅子へ腰かけさせた。


そのまま、壁の本棚へ向かって歩いていく。




「あらまあ・・・こんなに痩せちゃって。もう大丈夫よ?ここは安全だからね」




香枝さんはすぐさまダイキに駆け寄ると、その頭を撫でた。


当のダイキは少し恥ずかしそうにしている。




「ええと・・・あったあった」




ゴソゴソと棚を漁っていた先生は、紙袋を取り出して戻ってくる。




「いきなりハイカロリーなものは体に毒だからね、飴をあげよう。ゆっくり舐めるんだよ」




俺、いきなりチョコバーもりもり食わせたんですがそれは・・・


・・・黙っておこう、未来永劫黙っておこう。




「あ・・・え・・・」




ダイキは一瞬目を輝かせたが、飴を受け取ろうとしていた手を引っ込めた。




「ぼ、ぼくよりもっと小さい子たちに・・・あげてください。ぼく、お兄さんだから!」




・・・ああもう。


なんていい子なんだ。


外で出会う大人は大体クソみたいな奴らだというのに。




「他のみんなは大丈夫か?」




「うん!今ね、小さい子たちがお風呂に入れてもらってるんだ!」




・・・そうか、風呂か。


確かにずっと入っていない感じだったからなあ。




「・・・いい子ねえ、本当にいい子」




香枝さんが、ダイキをキュっと抱きしめた。


一瞬恥ずかしそうに身を硬くしたダイキは、すぐに緊張を解いた。




「大変だったでしょう?こんな小さい体で・・・色々辛いことがあったのね・・・」




「あ・・・う、うぁ・・・」




保護されて緊張が解けたのもあるし、香枝さんの包容力もあるんだろう。


目に浮かべていた涙が、決壊したように次々あふれ出す。




「頑張ったのねえ、お兄さん・・・いい子、いい子・・・」




「ふぅ、う、うう・・・うううう・・・」




背中をポンポンと優しく叩かれ、遂にダイキは大声でわんわん泣き出した。


・・・今までは自分より小さい子ばっかりだったもんなあ。


弱音も吐けなかったんだろうなあ。


不憫だ、返す返すも不憫だ。




「うぐうう~~~~!!うあ、うあああああああん!!うあああああああああああああん!!!」




「うんうん、泣いてもいいのよ・・・泣きたいときには思いっきり泣いてもいいのよ・・・」




香枝さんの目から、涙が一筋ポロリと落ちた。


先生は、壁の方に体を向けて全身を震わせている。


ああ、この人も子供好きだもんなあ・・・




「・・・れじゃぁ」




俺ももらい泣きしそうになっていたその時、どこからか声が聞こえた。


地の底から響くような、ドスの効いた声。


うあ、まさか・・・嘘でしょ。




「子供を・・・泣かすんは、誰じゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」




拘束された状態でベッドに横たわっていた七塚原先輩が、それを引き千切りながら跳ね起きた。


完全に見た目が鬼だこれ!?


ナマハゲ的な!!




「うおおおお!?せ、先輩落ち着いて!!大丈夫!!大丈夫ですからあ!!!」




「田中野ォ!!子供を泣かしよるんは誰じゃあああ!!!」




あわてて先輩に体ごとぶつかり、動きを止めようとする。


うががが、き、傷がぁあ・・・!!!


先輩ったら力が強ぉい!!






「―――子供の前ですよ!落ち着きなさい!!」






凛とした声が部屋に響き、先輩が動きを止める。


香枝さんが、胸の中で泣きじゃくるダイキを抱きしめたまま、顔だけを向けて言ったのだ。


なんとも・・・すごい迫力だ。


それほどの声量でもないのに、一瞬で先輩がおとなしくなった。




「なん・・・じゃあ、ここはどこじゃ田中野?わしは・・・どうして・・・」




俺は慌てて、これまでの顛末を早口で説明することとなった。






「なんとも・・・なんとも、申し訳ありません・・・!!」




正気に戻った先輩は、床で土下座の体勢である。


土下座しててもでけえなこの人・・・




「あなたも十兵衛くんの弟子ね?子供思いなのはいいけれど、少しは落ち着きなさいね?」




「はい・・・」




先輩はまるで借りてきた猫・・・借りてきたライオンのようにおとなしくなっている。




「ふふ、でも・・・やっぱり十兵衛くんのところはいい子ばっかりね、いい子いい子」




「きょ、恐縮です・・・」




先輩のライオンヘッドをポフポフ撫でながら、香枝さんは嬉しそうだ。


先程の騒動で涙も引いたダイキが、俺の横で呟いた。




「おじさん・・・あの優しいおばあちゃん、強いんだねえ・・・」




「ダイキよ、この世で一番強いのはある意味女の人だぞ。肝に命じておこうな?」




「うん・・・僕、女の子には優しくするよ」




「・・・俺もそうするわ」




妙な連帯感を持って、俺たちは顔を見合わせて笑い合った。




「そうだぞ、特に奥さんってのは強いんだよ・・・本当に・・・」




先生もまた、どこか達観したように呟いていた。








ダイキは元気に帰って行った。




「半分いいですよね?先輩」




「おう、なけりゃあまた探しに行けばええ話じゃ」




俺たちは、『みらいの家』へ突撃する前に集めておいた駄菓子類を先生に寄付することにした。


あの子供たちにこっそり食べさせてあげるためにだ。


さすがにここの避難所の子供たち全員に行き渡る量ではないし、あの子たちの分だけになるが。


散々恐ろしい目に遭ってきたんだ・・・ちょっとくらいの『ご褒美』があってもいいだろう。




「わかったよ。責任を持って預かろう・・・ここには色々隠せる場所も多いしね。健康観察のついでにでも食べさせてあげることにするよ、どうせしなきゃいけないし」




先生のお墨付きもいただいた。




「ふふふ、いい子がいっぱいで私は嬉しいわ」




香枝さんも嬉しそうに微笑んでいる。


笑った顔が神崎さんによく似ているなあ。


そう思った時に、ドアがノックされた。




「失礼します先生、田中野さんの容体は・・・おばあちゃん!?」




おや、噂をすればシャドウ・・・神崎さんのご登場だ。




「あら凜ちゃん、最近よく会うわねえ」




「彼はもう大丈夫だよ、ついでに七塚原君もね」




その言葉に、目を丸くして先輩を見る神崎さん。




「な、七塚原さん・・・!?嘘・・・」




古保利さんも含みを持たせてたけど、数時間で起きる量の薬じゃなかったんだろうなあ。


・・・まあ、南雲流は規格外ばっかりだからな、うん。


俺も俺含めて深く考えることはやめることにする。




「先輩共々、ご心配をおかけしました」




「右に同じですわ」




「そうですよ!もうっ!田中野さんたちと接していると、心臓がいくつあっても足りませんっ!」




ぷくり、と若干頬を膨らませる神崎さんである。


レア神崎さん・・・最近よく見るなあ。


アンコモン神崎さんくらいになりそう。




「凛ちゃん凜ちゃん、嬉しいからって怒らないの」




「ちがっ!違うわよおばあちゃ・・・いや、う、嬉しいことは、嬉しいけれど・・・!」




「あらあら、まあまあ」




よかった。


とりあえず愛想は尽かされていないようだな。




「んん!・・・ち、丁度いいですね。田中野さん、七塚原さん、情報の整理ができました・・・よろしければ校長室までいらしてください」




おお、早い。


尋問で聞き出したことかな?




「・・・ところで、おばあちゃんはなんでここに?」




あ、俺も聞きたかったんだそれ。




「あら私ったら・・・先生?深見さんの奥さんね・・・推測なんだけれど、たぶんそろそろ陣痛が始まるわ」




「おやおや、それは大変ですね」




「まだ先だとは思うんだけれど、あらかじめここにいてもらうほうがいいんじゃないかしら」




なんじゃとて!?


聞き覚えがある名前だ・・・俺が前にここで治療を受けてる時に運ばれて来た妊婦さんかな?


俺の怪我なんかより重要じゃないか!




「先生、俺たちはもう行きます」




「おや、そうかい・・・うんわかったよ。神崎さん、前と同じようにしてあげてね。薬は・・・あったあった、これを毎食後にね」




「はい!お任せください!」




何故俺の世話をまたしても神崎さんに・・・!




「先輩くんは・・・うーん、今日は早く寝なさい。薬効がまだ抜けていないだろうから、運転はしちゃだめだよ」




「はい、お世話になりました先生」




先輩には何と言ったらいいか一瞬言い澱んでいた。


まあ、気持ちはわかる。


1日はぐっすり眠るはずの先輩がほんの数時間で起きたんだし。


これが現代科学の敗北か・・・




ともあれここは空けなければ。




俺たちは、先生にお礼を言うとすぐに保健室を後にした。






「田中野くん、心配だわぁ」




「他人のために無茶をするのは、南雲流の伝統なんですかねえ・・・」




「凛ちゃんも苦労するわねえ・・・でも、お似合いだと思わない?」




「ええ、とても」






「嘘だろもう起きたの・・・?南雲流怖い」




職員室に入った俺たち・・・特に先輩を見た古保利さんが、この世の終わりみたいな顔をしている。




「古保利さん、色々ご迷惑をおかけしました」




「まことに、申し訳ありません」




俺と先輩は、揃って頭を下げた。




「いやいや・・・気にしないで。君たちはあの変なチェーンソーゾンビを片付けてくれた恩があるしね・・・あんなん、一般隊員とかち合ってたら二桁は死んでるよ」




古保利さんはそう言って苦笑い。




「君たちが寝ている間に現地でちょいと調べたんだけど・・・アレヤバいわ。それも含めて話すから、校長室へどうぞ」




校長室か・・・なんか最近、学生時代よりも入ってる気がしてきた。


母校の校長室ってどんなだったかな?


統廃合で消滅したからもうないけど。




校長室に入ると、八尺鏡野さんとオブライエンさんはもういた。




「田中野さん、お怪我の具合はいかがですか?」




「ええ、もう大丈夫です。ヤバい所には当たってなかったので痛いだけですね・・・石平先生のお墨付きです」




今はいつものクールな八尺鏡野さんだが、突撃の時は凄かったなあ・・・


少しは発散できたのだろうか。




「・・・何か?」




「いえいえ、おじゃましますねー」




ソファに先輩と並んで腰かける。


前と違って狭いなあ。




「あ、神崎さん。後藤倫先輩は大丈夫ですか?」




そう言えばいない。


別で呼ばれてるのかと思ったが。




「後藤倫さんは眠ってらっしゃいましたので、そのままです」




そうか。


結構疲れていたのかもしれん。


よく考えれば白黒ゾンビを素手でぶん殴ってたし、超至近距離で戦ってたもんな。




「さて・・・これで全員揃ったね」




ソファの向かいに腰かけた古保利さんが言った。




「今日は僕が司会進行かな・・・それじゃ、まずはあの白黒のことから」




そう言って、テーブルの上に写真を置く古保利さん。


これは・・・あの場所での白黒だ。


様々な角度から写してある。




「ぶっちゃけ、こっそり回収してあるからこの後も継続的に調べる予定なんだけどね。アイツら腐らないから保管は楽だし」




おお、そつがない。




「ホラー映画的には、なんか復活とかしそうで怖いですよね?」




「怖い事言わないでよ・・・とりあえず今は首を斬り落としてるから大丈夫だと思うけどさ」




「車両用の油圧カッターを使用しました・・・恐ろしい硬度ですね」




八尺鏡野さんの発言に戦慄する。


アレでしょ?車内に閉じ込められた人とか助ける用のカッターでしょそれ。


警察24時間とかで見たことがあるぞ。




「とまあ、話を戻すけれど・・・アイツの防御力はヤバいよ。有効射程内の拳銃弾は弾かれる、アサルトライフルも同じ」




・・・俺の拳銃もキンキン弾いてたしな。




「対装甲ライフルってのがあんだけどね。アレは流石に貫通したけど・・・想定される有効戦闘距離はなんと20メートル以内ときたもんだ」




「それは・・・難しいですね」




神崎さんの表情が曇る。


え、でも20メートルなら結構遠いんじゃ・・・




「田中野さん、そのライフルは重く反動も強いものです・・・通常は100メートル以上離れて運用するものですよ?」




ぽかんとしていた俺に神崎さんが教えてくれた。


うへえ・・・なるほど。




「そうそう、装弾にも時間がかかるしね。仮に戦闘をしたとすると・・・1発外したらもうリロードは難しいだろうね。腰だめで撃てるようなもんじゃないし」




映画で見たことあるような気がする。


伏せ撃ちしていたかな?そういえば・・・




「あの、装甲車についてた機関銃は通用するんですか?」




「うん、アレでも近距離なら貫通するよ。でもねえ・・・アレ、普通の人間が手持ちで運用できると思う?」




・・・〇ンボーならなんとかいけるかな?




「ということで、遠距離戦ではちょっと厳しいよね、アレ。爆発物も有効だとは思うけど・・・市街地では難しいしね、運用」




・・・八方ふさがりかな?




「つまりは・・・近距離で殴り倒すのが有効っちゅうことですか?」




先輩が言う。


いやそれは・・・あの・・・




「ははは・・・それができるのはキミとか一部の人間だけだと思うよ、うん」




俺の言いたいことを言ってくれた!




「これさあ・・・マジで六尺棒でやったの?」




古保利さんが指し示したのは、胸が大きく陥没した白黒の写真。




「まず間違いなく致命傷・・・もう死んでるけど致命傷はこれだね。動いているかは知らないけど、恐らく心臓は破壊されているだろうね・・・解剖しなきゃわからんけど」




できるのかなあ、解剖。


メスとか絶対歯が立たないと思う。




「現状、またこいつが現れたら・・・装備にもよるけど、分隊規模では対応が難しい」




分隊・・・?と思っていると、後ろに立っている神崎さんが『だいたい10人前後です』と耳打ちしてくれた。


くすぐったいけどありがてえ。




「遅滞戦闘に専念しつつ、応援と合流して全火力を集結して対応・・・ってとこかな。それまで生きていればだけど」




大きく伸びをする古保利さん。


その顔には『もうウンザリです』とでも書いてあるようだ。




「現在、電気ショックを発生させる兵器を開発していますが・・・それが効くかどうかは未知数です」




「試すニハ、ショートレンジ・・・近距離で使う必要、ありますカラ」




八尺鏡野さんとオブライエンさんが口々に呟いた。


なるほど・・・効かなかったら反撃で死んじゃうもんな。


俺たちみたいにある程度立ち回れる人ならいけるだろうが・・・俺も帰ったら大木くんに相談してみよう。




「普通のゾンビに効いても、コイツに効くとは限らないしね・・・はあ、面倒くさいなあ」




「・・・三等陸佐?」




「・・・いえいえ、粉骨砕身の覚悟で臨みますよ、警視殿」




なんかこの2人仲いいなあ。




「・・・まあともかく、あの白黒についての情報はこんなところかな。今後の調査に期待ってとこ」




古保利さんは仕切り直した。




「そしてここからは、僕が生き残りを尋問して得た情報なんだけど・・・」




それを聞いて、先輩が身を縮こませた。


・・・残機減らしてるしな。




「あの、古保利さん・・・この度は・・・」




「ああ、いいよいいよ。2機残ってたし・・・ぶっちゃけスッキリしたしね。こっちこそ鎮静剤ぶち込んでごめんね」




・・・そう言えば、暴れる先輩を無力化したのって古保利さんなんだろうか。


神崎さんを振り返ると、目で頷かれた。


マジか・・・帰ったら詳しく聞いてみよう。




「田中野くん、あの白黒って・・・あいつらから『サンセキ』様って言われてた?」




「え、ええ・・・確かそうだったかと」




「うっはあ・・・マジか・・・マジかぁ・・・」




どすんと背もたれに背中を預け、古保利さんは煙草を咥えて火を点けた。


あ、いいなあ俺もs『だめ、です』・・・はいごめんなさい神崎さん。




「・・・『サンセキ』ってのは、三に席・・・って書くそうだ」




紫煙を盛大に吐きだし、古保利さんは心底嫌そうに続ける。




「『みらいの家』には序列ってものがあってね、上位信者は『席』って呼ばれるんだそうだよ」




・・・え。


っていうことは、つまり・・・




「三席の上に、二席・・・そして主席がいる。教主様はその上だってさあ」




背中に悪寒が走る。


おいおい、嘘だろ・・・






「あの生き残り曰く・・・『主席様と二席様も同じ』だってさ」






それきりしばらく、校長室には沈黙が満ちた。


あんなのが、まだ最低2匹も・・・いるってのか。




ああくそ、タバコが吸いたいなあ・・・




俺は、ポケットから取り出したガムを口に放り込んだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る