第73話 さらに増えたよくわからん勢力のこと

さらに増えたよくわからん勢力のこと








「いい天気だなあ・・・サクラ、寂しがってないかなあ」




「ヴァフ」




「最近蒸し暑くなってきたよねえ、そんだけ毛があると大変だろうねえ」




「ウーウ」




「夏になったら海に行きたいなあ・・・海好き?」




「ゥウ、オン!」




「こう、雑な魚介バーベキューとかやりたいよねえ・・・腹減ってきた」




「クゥン」




爆弾によって半壊した正門を見つつ、傍らのチェイスくんと話す。


一応外側に横付けしたライトバンのお陰でゾンビに侵入される恐れはないが、早く修理しないとな。


なお現在、警官の皆様が急ピッチで補修作業を行っている。




それを、軽トラの荷台に腰かけながら見ている。


横には威厳たっぷりにお座りをしているチェイスくんの姿がある。


休んでいても絵になるなあ・・・シェパード。




「お、あったあった・・・これならキミも食えるな」




「ワフ!」




荷台の荷物入れから、犬用ササミジャーキー(成犬用)を取り出す。


醤油はないが、胡椒の小瓶はある。




「六郷さんの許可は取ってるからな、はいどうぞ」




「ガッフガッフガッフ」




何もつけていないササミを差し出すと、チェイスくんは美味しそうに食べた。


食い方がサクラと違ってワイルドである。


こういう犬もカッコいいな。


可愛いしカッコいい・・・犬はやはり最強の存在である。




俺用の、胡椒を振りかけたササミを齧る。


・・・うん、硬いから噛み応えがあって・・・腹に貯まるなあ。


食えるガムって感じ。




「さて・・・神崎さんはまだかねえ?」




「ワゥフ!」




「だよなあ・・・おかわりいる?」




「ゥ―ゥ!オゥン!!」




「おっしゃ待ってな。在庫はそれこそ店くらいあるんだから」




「ヘッハッハッハ」








友愛に急に攻めてきた、シールド持ちのよくわからん集団を撃退してからしばし。




宮田さんや神崎さんは、現在生き残りの尋問真っ最中である。


森山くんや六郷さんなどの怪我人は、恐らく保健室で治療を受けているんだろう。


俺は幸運なことに無傷であり、なおかつここの運営側でもなく、尋問スキルもない。


というわけで、ここでお留守番・・・というわけだ。




門の補修を手伝おうとしたが、「戦闘で活躍していただいた方を、これ以上働かせるわけにはいかない」と断られた。


気にしなくてもいいのに・・・


そんなこんなで荷台に腰かけてボーっとしているところに、同じように暇なチェイスくんがやってきたというわけなのだ。


なお、口の周りの真っ赤なアレは、濡らしたタオルで綺麗にしてあげた。


このままだと、ここの子供たちに消えないトラウマを植え付けることになっちまうからな。


真っ赤になったタオルは、後でコンビニのゴミ箱にでもシュートしておこう。


ばっちいし。




「おじさん!大丈夫!?」




無心でササミを齧っていると、校舎から新が走って出てきた。


そのままダッシュでこっちに来ると、軽トラの荷台に体当たりをするように縋り付いてくる。




「あーコラ、まだ何があるかわからんから出てきちゃダメだろ!」




「うえっ!?ご、ごめんなさい!」




残党とかゾンビとかもいるかもしれんからな。


・・・呑気にササミを齧ってる俺が言うことでもないのかもしれんが。




ともあれ来てしまったものは仕方ないので、新も荷台に上げる。


下からは死角なのか、悠然と寝そべるチェイスくんにビビっていた。


チェイスくんは慣れたもので、微かに尻尾を振るだけだった。


サクラなら飛びついてたな。




「で、でも、俺心配で・・・!姉ちゃんや母さんもハラハラしながら上から見てたし・・・」




ええ~、上から見てたのかよ。


煙幕があったから大丈夫だとは思うが、あまり家族連れにオススメできない戦い方だったんだけどなあ・・・


グロいし。




ふと視線を感じたので上を向くと、窓から志保ちゃんが顔を出していた。


その横には朋子さん。


2人とも心配そうにこちらを見つめている。




「へ、へへ・・・」




なんか怖かったので手を振ると、2人とも嬉しそうに振り返してきてくれた。


・・・なんだこれ。




「でも、おじさんやっぱすっげえや!動きも速いし、ニンジャみたい!」




「そこはサムライって言って欲しいけどなあ・・・っていうか見てたんなら宮田さんの方が凄かったろ?」




「み、宮田のおじさんは・・・なんていうか・・・うん、とにかくすごかった・・・」




まあわかる。


あんなデカい体で、よくもあそこまで俊敏に動けるもんだ。


さらに、掴んでからの動きはもはや異次元だ。


掴みからの即投げ、あれは対処でないだろうなあ、素人には。


瞬発力の使い方が抜群にうまいんだよなあ・・・俺も見習わなきゃ。




師匠が今ここにいたら、ウッキウキで試合を申し込むと思う。


あの爺さん、投げも関節も鬼みてえに強いしな。


南雲流組討・・・ああいやだいやだ、稽古の悪夢が蘇るぜ。


後藤倫先輩もアレ得意なんだよなあ・・・超至近距離じゃ、とても勝ち目はなさそうだ。


戦わないけど。




「おじさん・・・どしたの、何か遠く見てるけど」




「うんにゃ・・・ちょいとトラウマがな・・・ところでササミ食うか?」




「えっと・・・いいや、お腹いっぱいだし」




「・・・さよか」




明らかに食いたくなさそうだ。


結構美味いのに。


食わず嫌いはよくないぞ新よ。


・・・いやこれ別に食わなくてもいいもんだな。




「それよりおじさん!さっき使ってた技、教えてよ!」




「技あ?アレは大体力任せにぶん殴ってただけなんだが・・・」




「アレアレ!敵をジャンプ台にしたやつ!!」




「ああアレか、あれは『階きざはし』っていう技でな・・・」




それからしばらく、新に技のレクチャーなどをしてやることにした。


どうせ今はここから動けんしな。








「田中野さん!」




「ウォン!ワォオン!!」




技について新に語った後校舎に帰らせ、チェイスくんに煙がいかないように注意して煙草をふかしていると・・・神崎さんがこちらへ歩いてきた。


後ろには、頭に包帯を巻いた六郷さんの姿も見える。


チェイスくんは彼を見るなり、嬉しそうに荷台から飛び降りた。


うーん、信頼感が凄い。


やはり強い絆があるんだろうなあ。




「お疲れ様です、神崎さん・・・もう尋問は終わったんですか?」




「はい、あらかた終了しました」




その後ろでは、チェイスくんが六郷さんに飛びついてはしゃいでいる。


心配していたんだろうなあ・・・いい光景だ。


幸せな情景は、何度見ても飽きない。




「うっし、そんじゃ帰りますか」




「いえ、それなんですが・・・校長室に来てくださいますか?」




「ぬ?」




なんだろう。


なにか用事があるんだろうか。




「宮田巡査部長から、田中野さんとも情報の共有をしておいた方がいいだろう・・・ということで」




「・・・今回の相手、ちょいとややこしいんですか?」




「それも含めて、ここではなんですから」




・・・ふむ。


そういうことなら、俺も聞いておこうか。


戦った感じは素人っぽかったけど・・・何かあるんだろうな。




というわけで、俺は校舎に戻ることになった。






「田中野さん、呼び戻してしまってすみません」




「いえいえ別に、お気になさらず・・・大丈夫ですか?」




「はは、寄ってたかって大袈裟にされているだけですよ」




校長室に入ると、上半身を包帯でグルグル巻きにされた宮田さんが出迎えてくれた。


いつもと違い、タンクトップなので冗談みたいな筋肉量がよくわかる。


・・・超合金かな?




「破片はそこまで深く食い込んでいないので大丈夫だと言ったんですがね・・・」




「まあまあ、皆心配だったんですよ。それに化膿とかしたら大変ですからね」




言いつつ、神崎さんと並んでソファーに腰を下ろす。


今回、俺は無傷だったが周囲に怪我人が多いなあ。




「あっそうだ。森山巡査と、彼が抱えてた子供は大丈夫でしたか?」




「ええ、子供の方は傷一つありません・・・もっとも、かなりショックが大きいようですが」




そりゃそうだ。


いきなり爆弾ぶち込まれて怖い大人が攻めてきたんだからな。


・・・こっからのケアが大変だ。




「森山の方は・・・まあ軽くはないですが、死ぬことはありません。しばらくは安静にしていてもらいますが」




「そりゃあ・・・なによりです」




・・・よかった。


あの場で見た限り、急所は無事だったからな。


もしものことが無くてよかった。


男子三日会わざればなんとやら・・・なんて言うが、しばらく見ない間に彼も成長したんだなあ。


帰るときにお見舞いにでも行ってみよう。




「ああすいません、話の腰を折っちゃって・・・それで、俺に話ってなんですか?」




出してくれたお茶を飲みつつ、宮田さんに言う。




「ええ、今回の襲撃者と・・・その背後についてのことです」




背後?


あいつら、どっかの下部組織とかだったのかな。


ま、確かに後先考えない鉄砲玉みたいな戦い方だったけども・・・




「まずですね、今回の襲撃犯は民間人です。ここから2キロほど離れた場所にある、自動車修理工場の社員たちでした」




「あーなるほど!だからあいつら車のドアを盾にしてたんですか」




加工の仕方がなんかこなれていたように見えたしな。


修理工場なら、確かに色々道具もノウハウもあるだろう。




「ちなみに、田中野さんが無力化したリーダーの男が社長だったようです」




神崎さんが横から補足してくれた。


あのおっさんか・・・確かに偉そうだったし、納得だ。




「そしてこれは、何人か『確保』しておいた情報源から聞き取ったことなのですが・・・」




ああ、確かそんなこと言っていたな。


関節を外してるとかなんとか。


・・・宮田さんの腕力なら楽にできそうだ。






「彼らに、武器・・・爆弾と煙幕を提供した協力者がいます」






・・・なるほど。


普通の修理工場社員に、爆弾作成のスキルなんてあるわけないもんな。




『僕はできますけど?』




・・・脳内大木くんはちょっと黙っていてくれないか。


キミはホラ・・・特殊だから、うん。




「彼らは『ヨロズヤ』と名乗る一団から、武器の提供を受けた・・・と言っていたようです」




ヨロズヤ・・・万屋かな、たぶん。


嫌な商店だこと。


一体何が目的だってんだ。




「えっと・・・そいつらは何でそんなことを?ここを占領でもしたかったんですか?」




それにしては戦術が稚拙すぎるけども。


爆弾の数もとても足りないし、銃すらなかった。


アレじゃあ、俺がいてもいなくても占領は無理だろう。


いいとこ何人か死人が出るくらいなもんだろう。




「田中野さん、以前刑務所の話をした時に・・・私が言っていたことを覚えていますか?」




宮田さんが言う。


・・・えーと、なんだったっけかな?




「この世の中には、動機が目的の人間もいるんです。ただただ暴力を振るいたい、何かを壊したい・・・それだけの人間がね」




あー・・・確かに言ってたなあ。


ん?


ということは、今回はその手合いってことか?




「工場の方じゃなくて・・・武器を提供した『ヨロズヤ』の方がってことですか?」




「ええ、そうです」




ふむ・・・なるほど。




「『ヨロズヤ』は、女性2人に男性1人のグループだったそうです。聞き取った人相から、大体の目星はついています」




「え?そいつらって有名人なんですか?」




そう聞くと、宮田さんは深く溜息をつき・・・俺の方を見た。




「・・・覚えていますか田中野さん、『平和博覧会ビル爆破事件』を」




・・・うわ懐かしい。


俺が高校のころに起こった大惨事じゃないか。




「たしか・・・ビルが3つか4つ爆破されて、大分死人が出たんですよね・・・ワイドショーが大騒ぎしていたのをよく覚えていますよ」




「正確にはビル4棟とロープウェイ1両です。死者総数は300人以上・・・ここ30年では国内で最悪の爆破事件です」




そんなに・・・随分と大変だったんだなあ。


ん?待てよ・・・


このタイミングでその話をするってことは・・・




「まさか宮田さん、今回の『ヨロズヤ』って・・・」






「似顔絵と資料を照らし合わせた結果、男女1名ずつの身元は間違いなくその実行犯です」






・・・おいおい。


なんでそんなのがここらをウロウロしてんだよ。




「あー・・・龍宮の刑務所って関係してます?」




「・・・男の方が収監されていました」




畜生。


龍宮刑務所、凶悪犯収容しすぎ問題。


脱獄されてんじゃねえよ。


もしもの時には爆発する仕組みにでもしといてくれよ。




「これを見てください」




神崎さんはそう言って、テーブルの上に3枚の紙を置いた。


男女3人の似顔絵だ。


警官が描いたのだろうか、とっても上手い。




中年の男は目つきが鋭く、首が太い。


この太さからすると・・・かなりの筋肉質だろうな。


顔中に傷がある・・・今の俺よりも大分多いな。


似顔絵でもわかる、沁みついた暴力の気配がする。




女の方は中年のおばさんと若い娘だ。


おばさんの方は目元に笑い皺があり、パッと見れば愛想のいいおかみさんって感じだ。


食堂とかの名物おばちゃんとかにいそう。


恰幅もいいし。




若い娘の方は・・・男によく似た鋭い目つきだ。


年は20代前半くらい・・・か?


美人といえば美人だが・・・なんというか、お近づきになりたくない雰囲気がある。


男と雰囲気が似ているな、兄弟・・・いや、年齢から言って親子か。




「男の名は『鍛冶屋敷・徹かじやしき・とおる』、中年の女はその妻で『恵めぐみ』、若い女は2人の娘だと思われます」




・・・家族だったのか。


娘の方は親父似だな、母ちゃんに似ていれば柔和な顔になっただろうに。


犯罪一家か。




「この夫婦は、先に言った爆破事件の実行犯と・・・恐らく協力者です。夫の方が実行、妻の方が計画だと思われます」




親父だけが捕まってるってことは・・・




「妻の方は爆弾の製造を手掛けていたと思われるんですが・・・現在に至るまで行方不明でした。娘と一緒にどこかで潜伏していたのだと思われます」




・・・これ、母ちゃんの方がヤバくないか?


まがりなりにもこの国で、今まで捕まらずに逃げ続けてきたってことだもんな。


その上爆弾まで作れるって・・・


ってことは、娘の方も・・・その、『英才教育』を受けてたってことも考えられるな。


うわやべえ・・・絶対かかわりたくねえ、この家族。




「妻の方は、様々な非合法組織に爆弾を提供していた疑いもあります」




物騒な花火職人だなあ。




「うへえ・・・そんなのが詩谷にいるんですか」




外を歩く時には気を付けよう。




「いえ、彼らはもう龍宮に帰っていると思われます」




「へぇっ!?」




・・・ナンデ!?




「尋問で聞き出したんですが・・・娘が『ここよりも龍宮の方が楽しそうだから、あっちに行く』と発言していたようです」




「テーマパーク扱いかよ畜生・・・カルト教団とヤクザと黒ゾンビだけでお腹一杯なのに・・・っていうかもう食あたり起こしそうなのに・・・」




「それもあって、今回こうして説明させていただいているわけです。こちらも一層注意しますが・・・田中野さんたちもお気を付けください」




詩谷にいる他の集団にも武器が渡ってたら大変だしな。


・・・いや、もう渡っている可能性もある。


カルト教団、爆弾使ってたし。




「『自分の作った物で大騒ぎしているのを見るのがたまらなく楽しい』・・・そう言っていたようですよ、母と娘が」




・・・見下げ果てた屑どもだ。


見かけたら容赦なくぶち殺したいところだが・・・ああいう手合いは隠れるのが上手いからなあ。


逃げ足が速いのも、神出鬼没なのも・・・〇キブリと一緒だな。




「しかし、この旦那の方は何がよくてこんなのと一緒になったんだか・・・同じ穴の狢でしょうけどねえ」




「徹の方はこの事件以外にも、暴力事件や殺人事件への関与が疑われていまして・・・」




やはり同じ穴の狢だった!!


実行するのが好きな旦那に計画するのが好きな嫁さんかあ・・・割れ鍋に綴じ蓋ってやつだなあ。


そりゃ娘もそんなんなるわ。




「私はよく知らないのですが、何らかの武術の使い手らしいとは聞いています。確か、ええと・・・バンショウなんとか流とか・・・ご存じですか?」




「・・・『万象千手流』ですかね。嘘だろまだあったのかよ」




「わた、私知りません田中野さん!教えてください!!」




神崎さんのお仕事フィルターが吹き飛んだ!


落ち着いてくださいちゃんと説明しますから!!




「『万象千手流』・・・今でいう打撃と投げ技を主体とする古流柔術の一派ですよ、たしかね。幕末から明治にかけての時代に、柔道に吸収されて消えたっていう話ですけど」




「お詳しいですね!田中野さん!!」




「ああいや、師匠がむかーし、若いころに試合したとかしないとか・・・聞いたことがあって」




「田宮先生が・・・!それは、恐ろしい相手だったんでしょうね」




宮田さんの判断基準が師匠な件。


・・・まあ俺もそう思うけどさ。




その師匠曰く。




『千手と吹くだけあって、至近の間合いでの攻め手の多彩さは光るものがあった。じゃがのう、性根が腐っておったので手足の腱と関節を破壊して二度と戦えぬようにしてやったわい・・・あの世に送ってやろうとしたが、運悪く警察に止められてのう、まっこと残念じゃ』




とのことである。


・・・こっそり埋めといてくれればよかったのにな、師匠。


十中八九そいつの弟子だぞこのオッサン。


こんな歴史の闇に消えた流派に、そうそう指導者がいるとも思えないしな。




「とにかく至近距離での技が多彩なようです。宮田さんも戦う時は気を付けてくださいね」




俺?俺なら・・・手裏剣投げまくってなんとかする。


なんとかしたい。


っていうかまず出会いたくない。


南雲流の関係者だと知れたら嬉々として意趣返しされそうだ・・・恨むぜ、爺さん。




「はは、向かってくるなら・・・遅れはとりませんよ」




・・・宮田さんは歯を剥き出して笑った。


この人も結構な戦闘狂だよなあ。


前も自分を先頭に突っ込もうとしてたし。


ここの警官諸君、しっかり止めるんだぞ。


指揮官が先陣切るとか軍記ものじゃないんだから。




「既に通信はしておきましたが・・・さらに物騒になってきましたね、龍宮は」




神崎さんが、眉間に皺を寄せる。


まったく、その通りだ。


ゾンビだけにしといてくれよな・・・厄介なのは。




「龍宮がなんかヤバい電波でも出してんじゃないですか?そういう手合いを引き付ける的なものを」




「はは、もしそうなら電波塔みたいなものを破壊すれば終わりですから・・・そっちの方がありがたいですねえ」




俺と宮田さんは、お互いに顔を見合わせて苦笑した。


・・・こんなアホなことでも考えなければやっていけないよ、ホントに。


許可を取って煙草に火を点けながら、俺は疲れを感じていた。




ちなみに、確保していた残党だが。




『賢明な治療の甲斐もなく全員死亡』




とのことらしい。


うわーざんねんだなーかなしいなー。






校長室での話も終わり、俺たちは帰ることにした。


神崎さんと一緒に新たちに声をかけ(相変わらず新は神崎さんに対してカチコチになっていた、若いねえ)、また来るからと約束して別れた。


新、家族をしっかり守るんだぞ。


・・・帰ったらおっちゃんに武器を見繕ってあげるように言っておこう。


早い方がいいな、うん。




おっと、そう言えば森山くんはどうなったんだろう。




「彼なら保健室にいるはずですが」




ということなので、顔でも見て帰るとしよう。


あの頑張りについては俺も褒めておきたい。




懐かしの保健室に向かい、入室すると・・・




「ありがとうございます!本当にありがとうございます!!」




「ありがとう!お兄ちゃん!」




「い、いいええ!じぶ、自分は警官として当たり前のことをしただけでありまして!ええ!ほ、本当に!!」




抱えていた子供と、その姉らしき人に感謝されている森山くんの姿があった。


彼の上半身は包帯でグルグルにまかれ、血もにじんでいるが・・・その顔は血色豊かというか、真っ赤である。




「なんでもしますから、遠慮なくおっしゃってくださいね!」




「な!ななななななななんでもォ!?」




とてもうれしそうな森山くんである。


まるで、盆と正月とクリスマスと夏休みが連合を組んで来たような反応だ。




・・・なるほどなあ。


神崎さんに対してああいう態度だったのは、別に好きな人ができたからか・・・


ある意味彼らしい。




「・・・邪魔しちゃ悪いんで、帰りましょ」




「ええ、そうしましょう」




そういうことに、なった。








「森山巡査にも春が来ましたね!」




「いやあ、めでたいですなあ!」




帰りの車の中で、神崎さんはわがことのように嬉しそうだ。


・・・うん、やっぱり1ミリも伝わってなかったようだ、彼女には。


森山くんよ、強く生き・・・なくてもいいや、なんかいい感じだったし。


精々幸せになっていただきたいものだ。




夕暮れの街中を運転しながら、俺は咥えた煙草に火を・・・




「ところで田中野さん、今日の戦闘で使われていた敵を踏み台にする技なんですが・・・」




「ああ、あれは『階』といって・・・」




新に説明したように、苦笑しながら同じことを話す羽目になった。


・・・まだ早いし、ゆっくり帰ろうかな。


ああ、サクラに会いたい。

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