第67話 変装と変身のこと

変装と変身のこと








「わふ!」




「きゅるるぅ!ぎゃぁう!」




・・・朝から顔がモフモフするう。


サクラはまだ軽いが、レオンくんが重いよ・・・重い。


鼻と口を塞がないのは優しさなのか。




「よう・・・いい朝だなあご両人」




半分寝ている脳を無理やり叩き起こし、顔の上の2匹をどかす。


マジで俺の頭頂部あたりからはフェロモンでも出てるのかもしれん。


・・・頭髪に影響がないといいが。




両脇にサクラとレオンくんを片方ずつ抱え、のそりと布団から起きる。


さて飯・・・じゃないや、布団畳まないと。


泊めてもらったんだからな、掃除くらいはきちんとしておこう。


抱えた2匹を下ろすと、サクラは俺の周りをぐるぐる歩き、レオンくんは布団に潜り込もうとしている。


こらこら、片付かないからやめなさい。




布団を畳み、寝間着代わりのスウェットを脱ぐ。


これも大分くたびれてきたな・・・新しいの、探してくるか。


在庫はいくらあっても困らんし。


そして脱いだスウェットには瞬時にサクラがダイブした。


やめなさいばっちいから・・・


ええと・・・今日は何を着ようかな。




「田中野さん、おはようございま・・・あぅ」




パンツ一丁でリュックを物色していると、いきなり襖が開いた。


かわいらしいエプロンを付けた比奈ちゃんが、顔を真っ赤にしている。


・・・ノック、くらい、しなさい!!




「あー・・・その、ごめん・・・閉めてくれないか」




「あ、あうあうあう・・・」




まるで熟れたトマトのような顔色のまま、比奈ちゃんは後ずさりして去って行った。


・・・あの・・・閉めて・・・くれないか・・・




これは果たしてセクハラなのかと考えつつ、手早く着替えた。


さて、気持ちを切り替えて飯にしようかな。






「一太~朝からセクハラはいかんぞセクハラは~」




味噌汁と漬物に白米というおいしい朝ご飯をみんなでいただいていると、案の定美沙姉がからかって来た。


どこかで見ていたか、比奈ちゃんに聞いたんだな?




「・・・不可抗力だ!不可抗力!」




「あ~あ~、比奈ちゃんがトラウマになったら大変だねえ」




神崎さんと小鳥遊さんが、俺を凄まじい目で見ている気配がする。


命だけはご勘弁を!誤解なんです!


由紀子ちゃんは・・・半分寝ながら食ってるな。


器用なことだ。




比奈ちゃんは顔を真っ赤にしてちょこちょこと朝ご飯を食べている。


いつもながら小動物的なムーブだ。




「せくはらー?おじさん、セクハラってなーに?」




美玖ちゃんの無垢な好奇心が心に突き刺さるのじゃ・・・




「と・・・特殊な筋トレのことだよ、すっごく疲れるんだ」




「そうなんだー・・・でも朝から無理しちゃだーめ!」




「はいごめんなさい」




信じちゃった・・・どうしよう。




「比奈ちゃぁん、一太の・・・どうだったぁ?」




「聞き方ァ!やめなさいはしたない!!」




めんどくさいタイプの中年男性上司かよ。


最近はすぐに裁判沙汰になるんだぞ、そういうの。




「あう・・・あうあう」




「比奈ちゃん、無理に答えなくていいから、無視していいからその妄言は」




テンパりすぎて味噌汁にご飯を投入しようとしている比奈ちゃんに言う。


・・・ちょっと行儀が悪いけどうまいよな、その喰い方。




「み、見てないですう!ウチ傷がいっぱいの体なんて見てないですう!!」




比奈ちゃんはお茶碗を抱えて逃走してしまった。




・・・見てるじゃん、しかも詳しく。


あの一瞬でよくもまあ・・・




「・・・傷?一朗太ちゃん、アンタまた傷が増えたのかい?」




やっべ、おばちゃんが余計な事実に気付いた。


俺の体の傷を知ってるのは、この家ではおっちゃんと美玖ちゃんだけだ。


なんとか誤魔化さないと・・・


神崎さんも気まずそうな顔をしているし・・・




「男の傷は勲章ってやつだぜ?比奈ちゃんよお」




おい!おっちゃん!


広げるなその話を!!




「おにいさん!傷ってなあに傷って!!」




由紀子ちゃんまで!!!




「あーいや・・・そのぉ・・・」




「おじさんのキズ、すっごいいたそうなんだよ!鉄砲でバーンって撃たれちゃったんだって!!」




「何で知ってるのォ!?」




「おじいちゃんが教えてくれたの!」




「おっちゃあああああああん!!!!」




「がはは」




がははじゃねえぞこの糞爺!!








「・・・やっと解放された」




「お、お疲れ様です」




通り過ぎる風景を見ながら溜息をつく。


心なしか、軽トラのハンドルまで重いようだ。




あの後、みんなに鎖骨のキズを見せる羽目になった。


勿論、傷を負うことになった顛末まで説明した。


神崎さん、居心地が悪そうだったなあ。


彼女をかばって・・・っていうのは、面倒だったので言わなかったけど。




案の定、無茶苦茶心配された。


由紀子ちゃんと小鳥遊さんは泣きそうになるし、比奈ちゃんなんか泣いてたし。


おばちゃんにも、心底心配そうにお説教を受けた。




ちなみにおっちゃんは、黙っていたことをおばちゃんに責められて大層しょげていた。


いい気味である。




というわけで、バタバタした朝を過ごした後・・・大木くんの古本屋に向けて俺たちは出発した。


サクラはお留守番である。


寂しそうにはしていたが、レオンくんが慰めていた・・・ように見えた。


美玖ちゃんもいるしな。




・・・しかしまあ、今回の探索では怪我しないように気を付けないといかんな。


これ以上傷が増えたらおばちゃんが心労で倒れてしまう。


今日中に帰れればいいけど・・・




「あの、考え込んでどうされました?」




「あー・・・えっと、怪我には気を付けようって改めて決意しておりまして・・・」




「そうです!気を付けてくださいね!」




うん、気を付けようか。


前みたいに大怪我でもしたら、さらに心配させてしまう。




「詩谷大学が平和なことを祈るばかり・・・ですね」




「そうですね・・・」




ゾンビまみれだったらどうしよ・・・


いやいやいや、変なフラグを建設してはいかん!


現実になったらどうする!!


縁起でもない!


いやでも襲撃してくるタイプの人間とかいたら・・・考えるな!俺!!


その気持ちを無視するかのように、俺はアクセルを強く踏み込んだ。






『らっしゃせ~、今開けまーす』




元気そうな声がスピーカーから聞こえる。


以前より厳つくなった気がするような門が、機械音と共にゆっくりと開いていく。


・・・いや、確実にパワーアップしとる!


なんか全体的に・・・棘が多い!!




特にこれといって何もなく、無事に古本屋にたどり着くことができた。


時々生きた人間を見かけたが、襲われるようなことはなかった。


ゾンビにも慣れて、活動する人間が増えてきたのだろうか。




そんなことを考えながら軽トラを動かし、適当な場所に駐車する。




「・・・急ごしらえですが、狙撃ポイントが増設されています。大木さん、流石に用意周到ですね」




外壁を見上げて感心している神崎さん。


確かに、なんか銃座みたいな場所がいくつか目立つな。


俺の実家をプチ防御陣地とすると、ここはさながら要塞である。


才能を感じる・・・!




「どうぞ~」




車を降りると、以前と同じように梯子が下りて・・・いや!自動で下りてきている!


オートメーション化が止まらねえ!


電気とか、ソーラーで全部まかなっているんだろうか?


それとも俺みたいに発電機でも動かしているんだろうか?


興味がどんどんわいてくるなあ。




梯子を登り、俺たちは以前にも入った控室へ案内される。




「元気そうだね」




「いやあ、もう絶好調ですよ!」




似合わないガッツポーズをとる大木くん。


よかった、愛のダメージ?は抜けているようだな。




「鷹目さんに手紙は渡せましたかっ!?どうでしたか!?」




ソファーに腰を下ろすなり、神崎さんが食い気味に聞いた。


・・・気になってたんだろうなあ。




「そうそう!その件について聞いてくださいよ~!」




大木くんは小さいペットボトル飲料を俺たちに押しやりながら、身を乗り出して話し始めた。


おや珍しい。




「届けたまではよかったんですけど・・・」




彼が語り始めたのは、なかなか大変な出来事だった。








一昨日、高柳運送を出発した大木くんはその足で中央図書館へ向かった。


一刻も早く手紙を渡したかったとのことだ。




到着し、太田さんに理由を話すとすぐに鷹目さんを呼んでくれたそうだ。




「いやあ、迷惑かけたねえ」




と、苦笑いしながら。


どうやら森山さんと鷹目さんが、いわゆる『両片思い』なのは周知の事実らしかった。




やって来た鷹目さんに手紙を手渡すと、あの日の森山さんのようにその場で一心不乱に読み始めた。


なお、その手紙の分厚さに太田さんは「馬鹿じゃないの・・・」とドン引きしていたらしい。




しばし後、手紙を読み終わった鷹目さんは潤んだ瞳で手紙を大事そうに胸に抱き。




「も、もう私死んでもいい・・・!!」




夢見心地でそう呟くと、そのまま仰向けに昏倒してしまった。


もう、バッターン!って感じで。


警官の皆様含め、一様にパニックとなった。




丁度そこへ、運命の悪戯か招かれざる客が現れた。


・・・そう、天下御免の馬鹿男。




神森(前歯無し)である。




目の前の状況をどう解釈したのか、奴は鷹目さん昏倒の原因を・・・大木くんだと決めつけた。


たしなめ、説明する太田さんをまるっと無視し、奴は大木くんへ向かって来た。




「お前ぇ!鷹目さんに何をしたぁ!!」




そう、雄たけびを上げて腕を振り上げながら。


正当防衛だし、スタンガンでもぶち込んでやろうか・・・そう大木くんが考えたその瞬間。




恐ろしい速度で振るわれた、掃除のモップが神森の顔面に襲い掛かったのだという。




モップの金具部分は凄まじい音を立てて神森の鼻に激突し、奴は鼻血を撒き散らして吹き飛んだ。


そのまま、応接用らしきガラステーブルに衝突、失禁しながら失神した。




片手でモップを振るったのは、太田さんだった。




いつもの人のよさそうな顔はどこへやら。


鬼のような形相の太田さんは、静まり返る周囲をよそにさらにモップを神森へ投擲。


狙ったのかそうでないのか、飛翔したモップは見事に奴の股間へと激突した。






「・・・もう無理だ、捨ててくるわこいつ」






愉快な痙攣を繰り返す神森を片手で引きずり、太田さんは部屋から出ていった。




我に返った何人かの婦警さんが、おっかなびっくり鷹目さんの介抱をし出してからしばし。


いつもの表情に戻った太田さんが帰ってきたそうだ。




大木くんが、奴をどうしたのかと恐る恐る聞いた所。






「いやー、彼、うちが気に入らないっていうからさあ。残念だけど出ていっちゃったよ、引き留めたんだけど決意が固くてねえ」






そう、晴れやかな表情で言い切ったのだという。


嘘だと思ったが義理があるでなし、大木くんはそれを甘んじて受け入れた。


他の警官たちも、『そういうこと』にしたようだ。




「あーそうそう、キミ帰った方がいいよ。鷹目くんが目を覚ましたらまた手紙運ばされるかもしれんからね」




そう言われ、大木くんはすぐさま中央図書館を後にしたのだという。




「ほとぼりが冷めたらまたおいでね。田中野くんにもよろしく」




という、伝言をもらって。








「・・・ということがありまして」




一気に語り終えた大木くんは、喉を鳴らしてごくごくとお茶を飲む。




「スッキリしましたね!!」




ぷはー!と息を吐きながらの満面の笑みである。




「いつかやらかすと思ってたけど、ついにやったかあの馬鹿・・・」




「よく我慢していましたね、太田警部補」




特に神森に対して思い入れもないので、残念でもないし当然の結果である。


さらば、馬鹿男よ。


来世はオジギソウあたりに生まれ変われるといいな。




「っていうか、アイツ鼻へし折れてたと思うんですけど・・・太田さん片手でモップ振ってたんですよね。そんくらいで折れるもんなんですか?」




「結構簡単に折れるよ、鼻。それに太田さんってかなりの腕前らしいし、槍の」




「うへえ・・・達人が多くありません?身の回り」




達人が多いというより、達人だからこそ生き残っていたってほうが正しいんだろうな。




「あの、それで鷹目さんは大丈夫でしたか?」




神崎さんに至ってはもう全く神森に興味がなさそうだ。


前に会った時も心底嫌そうだったしなあ・・・




「ええ、僕あんな幸せな顔で気絶してる人間見たことありませんし。あと無意識で受け身取ってたみたい、って婦警さんが言ってましたよ」




「よかった・・・!」




よかった・・・のかな?


ま、幸せそうではある。


末永くお元気でいてほしい。




さてと、アホの話は終わった。


そろそろ計画の話に入ろうかね。




「大木くん、それで・・・大学のことなんだけど」




「ああ、了解でーす・・・よいしょっと」




俺がそう水を向けると、大木くんは机の上に大きな紙を広げた。


これは・・・詩谷大学の地図か。




詩谷大学・・・正式名称は『県立詩谷総合大学』


文系と理系の学部を併設する、大きい大学である。


俺は違うが、妹の出身校でもある。


懐かしいなあ、文化祭に遊びに行ったっけ。




「今回の目的は・・・ここです」




大木くんが指で指示したのは、『実験・実習棟』という区画。


大学の正門から入り、敷地内の一番右奥に存在している。




「ここにある実験器具とか薬品とかが欲しいんです・・・でも、本命はこいつです!」




高校生用のパンフレットを取り出した大木くんは、地図の上に広げた。




「これって、アレだ。3Dプリンターってやつ?」




見出しには、国内にまだ少数しかないとか書いてある。


特殊なものなのか?




「そうですそうです!これがあればちゃんとした武器や部品・・・そしてなにより高精度で高威力な爆弾を作れるんですよ!!」




まるで、ラブレターを読んだ後の森山さんのようにお目目をきらめかせる大木くん。


爆弾愛が過ぎる・・・!




「ぶっちゃけ薬品や器具なんかはあったら持って帰る・・・って感じなんです。このプリンターさえ確保できれば何もいりません、PCもあるし」




ふうむ・・・文系の俺には何が何やらわからんが・・・大木くんには世話になっとるからなあ。


これくらいの手伝いは安いもんだ。




「でもこれ、結構でかいな・・・俺の軽トラに乗るかな・・・?」




「ご安心を!こんなこともあろうかと、中型トラックを調達してありますんで!田中野さんたちは荒事のことだけ考えていただければ・・・!適材適所っす!!」




用意がいいことで。


暴れることだけ考えとけ、なんて・・・最高じゃないか。


その方が俺にはありがたい。




「あとは、ゾンビや生存者の問題ですね」




おっと、そうだった。


神崎さんが言う通り、そこは気を付けとかないとな。




「先週バイクで偵察した限り、『実習・実験棟は』大丈夫です」




「・・・というと?」




パンフレットをどかした大木くんは、地図の一点を指差す。


『学生ホール』・・・?


なになに、食堂にサークル部室・・・それに会議スペース等が一緒になった、4階建ての大きな建物だ。


門の真正面にある。


大学の顔みたいなもんかな・・・?




「ここの1階部分が封鎖されてて、中で動いてる人影が見えました。多分人間です」




ふむ、生き残りかなんかが籠ってるのかな?


籠ってるだけならいいが・・・




「近くでわちゃわちゃしてると、ちょっかいでも出されるかもしれんな・・・大木くんよ、古巣の知り合いとかもいると思うけど、トラブったら・・・」




「あ、普通にぶち殺す方向でいきましょ。襲ってきたらですけど」




話が早くて助かる。




「ぶっちゃけ正当防衛ですよ、正当防衛」




俺の出自的に過剰防衛になると思うが・・・ま、この期に及んで馬鹿々々しい話である。


動くと撃つ!って言われても動いたら殺されるのと同じだ。


俺とて積極的に殺して回りたい訳ではないが・・・降りかかる火の粉は払わねばならぬ。




「打ち合わせはこんなもんですかね・・・強く当たって、後は流れでお願いしますよ。僕も援護と爆破くらいならできますし」




人を八百長国技選手みたいに・・・




「よーし、じゃあ出発の前に・・・変装といきましょう!」




大木くんはそう言うと意気揚々と立ち上がった。


あ、そう言えばそうだったな。


大学には大木くんの知り合いもいるかもしれんし。


・・・元婚約者とか。




「1階によさげなもの集めてるんで、行きましょう!」




扉を出ていく大木くんの背中を見ながら、神崎さんに向けて言う。




「あの、今更ですけど今回みたいな完全プライべートに巻き込んじゃって・・・すいませいだぁ!?」




脇腹を抓るのはやめてください!




「陸上自衛隊、神崎二等陸曹は休暇中・・・ここにいるのは一市民、田中野さんの相棒の神崎凜です、よ!」




「わかり・・・わかりました・・・ゆるして」




俺の脇腹はそんな生ハムみたいに引っ張れないからぁ!!




「わかればよろしい・・・です。ふふ」




いたた・・・全く、頼りになる相棒ですなあ。


さてと、大木くんを追いかけないとな。






「僕はこれで変装しますね!」




「うっわ!いいなあ!俺もそれがいい!!」




「すいませんこれ私物なんで・・・」




「なんてこった・・・」




大木くんはもう既に仮面をかぶっていた。


某国民的特撮ヒーローマスクを・・・!


いいなあ、俺もバッタの改造人間になりてえ・・・!


なんか本物?っぽい・・・




「実際の撮影に使用されたものです、オークションで競り落としました」




「ふへえ・・・通りで・・・」




テレビで見たまんまの外見だ。


いいよなあ、この漆黒具合。


俺の幼少期のヒーローだぜ・・・




「田中野さんには・・・イメージ的な意味でこれなんかどうですか?」




大木くんは段ボールからごつい仮面を取り出した。




「うぐぐ・・・お前・・・いいけど・・・むっちゃいいけど・・・重いしデカいし前が見えねえあと苦しい!!」




「しっかりかぶってから言うんすね、文句・・・」




どっから持ってきたこのライオン侍の仮面っていうか頭!しかもリメイク後の方!!




「ま、冗談はおいといて・・・はい、これなんかどうですか」




「マジか!?」




こ、これは・・・メタル特撮で日本刀を振り回していたニンジャの・・・頭!!


おおお・・・懐かしい。




「うお、視界もバッチリだ!しかも軽い!!」




なんかこれ被ると、背中に刀を背負いたくなるけど。


俺も自分の弱さと若さの剣を唸らせて戦わなければ・・・!


地球を抱き留められるほどのでっかい心を持たねば・・・!




「うわあ、似合いますねえ・・・刀背負っちゃいます?」




「咄嗟に抜けないから駄目だな、悔しいが」




アレ結構変則的な抜き方しないといけないからなあ・・・


練習もしてないし、涙を呑んでいつも通りにしとこう。




キャッキャとはしゃぐ男連中を、神崎さんはどこか呆れたように苦笑いしながら見ている。


・・・すまない、男はいつまでたっても心に秘密基地を建設している馬鹿が多いんだ・・・!




「私もなにか被った方がいいですかね・・・?」




「・・・どうです田中野さん!?」




何故俺に振るのか、大木くん。




「ええ?いやうーん・・・でも神崎さん美人だもんなあ、変な男に絡まれるかもしれんし・・・神崎さん!?」




考え込んでいると、神崎さんはさっきおれの被ったライオンヘッドを急に被った。




「それだけはやめといたほうが・・・!?」




「お、落ち着くんです!これ!・・・確かに視界は狭いですが」




では何故被ったのか、コレガワカラナイ。




「・・・まったくこの人はもう・・・神崎さん、サバゲー用のサバイバルマスクがあるんで、コレの中からにしといたらどうです?」




「あ、はい!しばらくたんの・・・しばらくしたら選びますね!!!」




大木くんが俺を遠い目で見ながら、ガサガサとマスクを出してくる。


・・・なんだよ、いいのあるじゃん。




「・・・とにかく、これで変装は完了ですね。ちょっと休憩したら出発しましょっか・・・コーヒー飲みましょ、ブラックで」




そう言うと、大木くんはバッタマスクを小脇に抱えて去って行った。




「・・・神崎さん?あの・・・俺たちも・・・」




「田中野しゃん・・・ぬ、脱げません、助けてください・・・」




なんか変な所が引っかかってしまった神崎さんを助けるべく、俺は苦笑いしてライオンヘッドに手をかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る