第61話 大木くんと友愛高校の話のこと

大木くんと友愛高校の話のこと








「うーわ!しばらく見ない間にえらいことになってますね・・・話には聞いてましたけど、大丈夫ですか?」




正門を開けると、俺の姿を見るなり大木くんは目を丸くした。


話に聞いてた?


宮田さん辺りから聞いたのかな?




「いやあ、まあ色々あってね・・・そっちは相変わらずみたいで安心したよ」




「今日も元気に動画撮影ですよ!」




自衛隊のいかしたバイクに跨った大木くんは、笑顔でグッとサムズアップ。


元気そうでよかった。




「ま、とりあえず話も聞きたいから入って入って」




「了解でーす!それにしてもいいとこですねここ!籠城にはピッタリ!!」




バイクを徐行させ、大木くんが門の中に入っていく。


・・・そのバイク、後ろにリヤカーみたいなのが連結されてるんだけど・・・


ま、後で聞けばいいか。




周囲を見回し、ゾンビその他がいないことを確認して門を閉める。


大木くん、毎日エンジョイしてるみたいでよかった。


心が自由になれたのが、彼にとっていい影響を与えてるんだろう。






「大木さん!お久しぶりです」




「やーやーどうもどうも!神崎さんもお変わりなく!」




社屋の入り口で、屋上から下りてきた神崎さんと合流した。




「会う度に田中野さんの傷は増えますけどねえ!」




・・・うるせえやい。




「あっそうそう・・・」




バイクに連結された荷台。


そのシートの下をゴソゴソしていた大木くんは、かなり大きい袋を取り出した。




「はい田中野さん!B級アクション映画詰め合わせセット!救援物資です!!」




「大木くんキミって最高!!!」




なんて素晴らしい季節外れのサンタクロースなんだ!!


あがあああ!?!?


テンションが上がりすぎて右手で受け取ってしまった!!


痛い!!!


慌てて左手に持ち替えた。


いったい!!!!!




「・・・あの、顔色がゲーミングPCみたいですよ、田中野さん」




「んだ、だい、大丈夫・・・!!!」




それにしても素晴らしいプレゼントだ・・・


夜寝る前にちょっとずつ見よう・・・!


そして神崎さんがアホを見る目をしているような気がする!!!


怖くて見れない!!




「・・・ええと、それで何の用事?警察からの依頼だって言ってたけど」




話題を強引に軌道修正しつつ、オフィスに大木くんを誘導する。




「ええ、そうなんですよー・・・宮田さん・・・に・・・」




オフィスに入るなり、そこに避難していた子供たちを見る大木くん。


子供たちは、見慣れない若い男に少し警戒している様子だ。




「・・・田中野さん、保育所始めたんですか?」




「ん~・・・ま、色々あってね。話すと長い」




「なるほどお・・・あ、じゃあ・・・」




大木くんはおもむろにUターンし、バイクへ戻った。


荷台をゴソゴソしたかと思うと、大きい袋を取り出した。




「やあやあみんな、僕は大木って言うんだ。田中野さんの友達だよ・・・お近づきの印にこれをプレゼントしよう!よろしくね!」




ニコニコと笑う大木くんの手に持つ袋からは、ぎっしりと詰まったお菓子が覗いている。


子供たちは、嬉しそうにしているが・・・見ず知らずの人からのプレゼントに少し及び腰のようだ。




「みんな、大木くんは本当に俺の友達だよ。貰ってあげて」




俺がそう言うと、一番の年長者である葵ちゃんがおずおずと進み出た。




「・・・いいのー?」




「子供が遠慮しちゃだーめ!いっぱいあるから喧嘩しないで、仲良く分けるんだよ~」




満面の笑みの大木くんから、葵ちゃんは重そうに袋を受け取った。




「うん・・・おにーちゃん、ありがと!」




「どういたしまして!」




・・・大木くんのイケメン度がすっごい。


以前から顔立ちは整っていると思ったが・・・あれから暗さが取れたからかなんというかこう、爽やかなイケメンになったな。


子供たちからのありがとうコールに答える大木くんは、まさに輝いていた。






「いやあ、子供はいいですねえ・・・」




湯気の立つコーヒーを飲みながら、大木くんはしみじみと呟いた。


子供たちは、巴さんと一緒に2階の会議室で映画鑑賞+おやつの時間だ。


一気に食べるんじゃなく、みんなで話し合って分けっこするという。


うーん、しっかりした子たちだ。


・・・いや、しっかりせざるを得なかったんだろうなあ。


不憫である。


泣きそう。




俺と神崎さん、それに大木くんは休憩室にいる。


ちなみにコーヒーは神崎さんが淹れてくれたものだ。


おいしい。




「子供は純粋で・・・裏切りませんからねえ・・・」




「きゃぅん!?」




「あ、ごめんねサクラちゃん」




急に闇を吹き出した大木くんに、足元をウロチョロしていたサクラがビックリしている。


・・・油断すると闇が吹き出すの、まだ治ってないな・・・




「ははは・・・とりあえず現状の情報交換でもしないか?詩谷のことも聞きたいし」




「あ、そうですね!僕も龍宮の情勢が気になってますし」




というわけで、まずは俺からこれまでのことを話すことにした。


あまり長くなり過ぎないように、ざっくりと事実だけを話していく。






進化?した黒ゾンビ。




多すぎる襲撃者。




『みらいの家』




そして・・・どうやら脱走したらしい囚人。






こうして話してみると、なかなかどうして波乱万丈である。


・・・よく生きてるなあ、俺。




「なんというか・・・B級映画が4本は撮れるくらいの濃さですね・・・Z級なら薄めて10本ってとこですか」




コメントに困るリアクションはやめてくれまいか大木くん。


そして、なんとなくわかる俺が悲しい。


神崎さんは『?』の顔でサクラを抱っこしている。




「・・・あと田中野さん、頑丈過ぎじゃないですか?僕なら100回くらい死んでそうなんですけど・・・」




「いや、まあ・・・急所は外れてたから・・・ね?」




「そういう問題じゃないと思うんですけど・・・あんまり無茶すると神崎さんに殺されますよ」




「そっそんなことはしません!しませんが!もっと言ってあげてください大木さん!!」




「えぇ・・・?(困惑)」




神崎さんの言葉がザクザク突き刺さる今日この頃である。


援護射撃かと思ったら爆撃された気分でござる。




「しっかし、僕の言った通りでしたね田中野さん。龍宮市は超絶ハードモードですよ」




「ああ、認めたくはないけど・・・マジでここまでとは思わなかった」




ウチみたいな人口の少ない県でこれなんだ。


首都とかの人口爆発地域のことを考えるだけで頭が痛くなってくる




「お隣の県とか、どうなってんだろうなあ・・・」




わが県に隣接している県は、この国で3番目だかに人口が多かったと思う。


えらいことになってそうだ・・・




「あー・・・そうですねえ。でもまあ、早々こっちに来ることはないでしょうけど」




・・・?


なんでさ?




「あの、大木さん。それはいったいどういう・・・?」




神崎さんも俺と同じ感想のようだ。


ウチの県は宙に浮いてるわけでも、海に浮かんでるわけでもないんだが・・・




「あれ?お二人とも知らないんですか・・・?」




大木くんはキョトンとした後。




「・・・あぁっ!?じゃあ僕しか知らないんだ・・・!そっかあ、まだそこまで調査されてるわけじゃないのか・・・」




急にびっくりしてなにやらブツブツと独り言を言い始めた。。


いや、自分だけで納得していないで説明をですね・・・?




「あー・・・すいません。あのですねえ・・・この県から隣県へのルート、何個あるか知ってます?」




ん?えーと・・・


隣の県へは龍宮の北を経由していくから・・・




「高速道路と・・・国道と・・・県道の3つだっけ?」




「あー惜しいですね、あともう1つ・・・林道があるんですよ」




あー!


そう言えばあったあった!


高校時代に自転車で走破したの、すっかり忘れてた。


あの当時でさえロクに手入れされてなくてジャングルみたいになってたな・・・




「今言った4つのルート、全部塞がってるんですよ」




・・・なぬ?




「僕、暇なんでちょっと前に1週間くらいツーリングしてたんですよ。龍宮中心部はヤバそうなんで迂回しつつですけど」




「・・・大丈夫だったのか?」




「ゾンビはバイクで十分振り切れますから。それに見通しのいい所を選んで移動しましたし・・・何回かヤバそうな連中に追いかけられましたけど、バイクなら余裕ですよ余裕!!」




じ、自由だ・・・自由過ぎる。


満喫しているなあ。


ちょっと羨ましい。




「高速道路と国道は故障車とゾンビでミッチミチ、県道はそれプラス土砂崩れで塞がってました。で、林道なんですけど・・・お、これこれ」




大木くんは腰のポシェットからデジカメを取り出した。




「見てもらったほうが早いと思って・・・神崎さん、これってどこの車両かわかります?」




彼はそれを起動させ、神崎さんに渡す。




「拝見します・・・こ、これは・・・」




そう言いつつ神崎さんが見せてきた画面には・・・




「・・・なんじゃこりゃあ」






林道を塞ぐように破壊された装甲車の群れと、有刺鉄線を何重にも括りつけたバリケードが写っていた。






・・・よく見れば、装甲車の周辺には死体やゾンビの破片と思しきものがチラホラ見える。




「これは、自衛隊のものではありません・・・おそらく例の駐留軍の別部隊のものかと」




「へえ、見ただけでよくわかりますねえ神崎さん」




俺も駐留軍っぽいと思ったけど、あの特殊部隊のものとはわからない。




「見てください、本来ならあちこちに番号や所属を示す記号があるのですが・・・この車両には一切見当たりません」




・・・あ、ホントだ。


装甲車はつるっつる。


何のマークも、文字ですら書かれていない。




「所属を示すものを一切排除してあります。正直、通常の部隊においてこれをする意味がありませんから」




「へ~、謎の特殊部隊までいるんですか・・・これはいよいよ映画めいてきましたねえ」




理解が早いなあ大木くん。


さっすが爆弾まで作れるだけはあるなあ。


・・・これ関係あるか?




正直あの部隊についてはぜんっぜんわからない。


敵なのか、それとも味方なのかすらわからん。


今まで面と向かってコンタクトしたことがないからなあ。




「この先も見たんですけど・・・なんかこう、爆破されたみたいに道がなくなってました」




ううむ・・・何があったのだろう。


しかし、これで陸路でのアクセスは全て潰れたわけだ。


我が県と隣接してるのはお隣の県だけだもんな。


あとは大海原である。


うむ、プチ陸の孤島が出来上がってしまった。




「しかし、海路が残っています。現状、この場所に魅力はないですが・・・ゾンビが増えてくれば」




「避難民やらなんやらが船で押し寄せてくる、ってことも十分考えられますなあ」




ま、そこは俺が考えても仕方があるまい。


偉い人たちに丸投げである。




「とにかくその情報はすぐに周知しておくべきですね・・・早速通信をしてきます」




神崎さんはそう言うと、足早に部屋を出て行った。


何故かサクラも尻尾を振りながらたふたふ付いていった。




「あー、今更なんだけど・・・警察からの依頼って言ってたけど?」




陸の孤島化がインパクト強すぎて忘れかけていた。




「ああ、依頼って言っても大したことはないんですけど・・・」




聞けば、あれから大木くんは避難所にちょいちょい顔を出しているらしい。


それで俺の現状・・・怪我とかのことも知ってたのか。


『公的機関とは仲良くしておいた方がいいですからね』とのことである。


うん、それは俺もそう思う。




でも、元婚約者の妹は大丈夫なのか・・・と思ったが、あれ以来めっきりコンタクトもなくて平和だそうだ。


あの時の大木くん、マジでキレ倒していたからなあ。




まあ、そんなわけで避難所に行ったところ、宮田さんから俺の現状を見てきてほしいと頼まれたんだそうだ。


神崎さんが通信で報告もしているから、もしよければ・・・といった感じのお願いらしいが。


大木くんが単独で色々な所へ行っていることから、生存力が高いと思われたらしい。




「というわけでしてね。まあ暇つぶしがてらといった所で・・・へへ、新しい車載動画も撮りたかったですし」




うーん、平常運行。


ある意味俺以上の強靭メンタルである。




「なるほどな・・・あ、避難所はどう?なんか面倒ごととか起こってない?」




「そうですねえ、最近は入れてくれって騒ぐ連中の数が大分増えてきたってことくらいですか。内部は平和ですけどね」




・・・恐れていたことが起こりつつあるな。


今はまだいいが、無理やりにでも突入しようなんて人間が出てきてもおかしくない。


いかに詩谷がここに比べて平和だとしても・・・どこにもネジの外れた人間ってのはいるもんだ。




「ふうん・・・そいつはちょっと心配だなあ」




「そうですよ!夜の間だけでも地雷的なものを作動させましょうか?って言ったら断られましたけど・・・用心に越したことはないのになあ」




「そ、そうか」




過激ィ!


宮田さんの苦笑いが目に浮かぶぜ。




「あ、そうだそうだ・・・はい田中野さん、これ」




大木くんがポシェットから何かを取り出す。


これは・・・便箋か?




「山中さんっていう女の子から預かりました。隅に置けませんね~このこの~」




「そんなんじゃないよ・・・」




やめてくれないか肘で押すのは。


地味に響いて痛い。




「・・・それって片足が義足の山中さん?」




「そうですそうです、一緒にいた弟君が僕見て『自由の人だ!』って言ってましたけど、何のことですかね?」




「・・・さあ?アレじゃない?自由人だからじゃない?」




お茶を濁しておく。




「ふうん・・・宮田さんと話していたら、僕が田中野さんの知り合いだってわかったらしくて。それで手紙を渡されたんですよ」




なるほどなあ。


受け取った便箋を開くと、かわいらしい文字が見えた。


大木くんに断って読んでみる。




『田中野さん、お元気ですか?今は龍宮にいると母から聞きました。母を助けてくださって、本当にありがとうございます』




ふふ、律儀な子だ。


気にしなくてもいいのに・・・たまたま助けたんだから。




『新もすっかりここに馴れ、友達もできて毎日楽しそうに過ごしています。私は、朋子姉さんを手伝って小さい子たちに読み聞かせなんかをしています』




ほうほう、2人とも元気そうでなによりだ。




『母は、時々私たちを連れて中村さんの所のレオンに会いに行っています。レオンもとても元気で、美玖ちゃんによく懐いて幸せそうです』




よかった。


おっちゃん達には本当に足を向けて寝られないな。




『最近田中野さんの姿を見ないと、美玖ちゃんや雄鹿原さんが心配そうにしていましたよ?』




・・・うう。


今行くと逆にもっと心配されちまうからな・・・


傷が治るまではちょっと無理かな。




『私達家族が、こうして同じ場所で暮らせているのは田中野さんのお陰です。本当に、どれだけ感謝してもしきれるものではありません』




気にしないでいいのにぃ・・・




『最後になりますが、お体にお気をつけてください。またお会いできる日を楽しみにしています、きっとですよ?』




・・・今度詩谷に帰ったら友愛にも顔を出すか。




『追伸 おじさん!おれがんばってるからね!!』




はは、これは新の字だな。


見るだけで元気そうなのがわかる。


よかったよかった。




「その姉弟のお母さんにも言われましたよ、『田中野さんには本当にお世話になった、大恩人なんです』って涙目で。なんだかんだ言っていい人ですねえ~田中野さん」




大木くんがニヤニヤしながら茶化してきた。


よせやい、照れるぜ。




「・・・俺はいい人にはいい人返しするのが信条だからな」




「で、悪い人には悪い人返しをすると」




「そりゃ当然ははは」




「ま、僕もですけどねわはは」




善因には善果あるべし、悪因には悪果あるべし・・・ってな。




二人してニヤニヤしていると神崎さんがサクラと一緒に帰って来た。


不思議な生き物でも見るように、俺たちを凝視している。




「・・・楽しそうですね」




「はい、ああ今田中野さん宛の女子高生ラブレターを渡した所で・・・」




「ちょっと待てお前違うだろ」




はふはふ鳴きながら寄って来たサクラを抱っこする。


うーんもこふわだなあサクラは。




「神崎さんも知ってるでしょう?山中志保ちゃんですよ。なんか大木くんに頼んだらしくって・・・神崎さん?」




なんか虚空を見つめている神崎さんに話しかける。


どしたの?


宇宙の真理にでも触れてしまったの?




「え?ええはい?大丈夫ですよ?」




全然大丈夫そうに見えないんですがそれは・・・


なんか疲れてるのかな。




「・・・相変わらずですねえ」




大木くんが渇いた笑顔をしている。


・・・ナニガ!?






それからは、神崎さんを交えて世間話。


詩谷は平和そうでよかった。


若干の不安が残るけども・・・まあ宮田さんがいれば大丈夫だろう。




「あ、そうだそうだもう一個忘れてました・・・田中野さん、森山さんのお兄さんって龍宮のどこにいるかご存じですか?」




「え?森山次郎さん?」




「あーそうですそうです。中央図書館の・・・えーと鷹目さんからお手紙を預かってまして」




ほんと色々行ってるなあ大木くん。


中央図書館にも行ってたのか。




「僕がこっちに来るって太田さんに話したら、もし見つけたらでいいんで・・・って必死に頼み込まれましてね。よかったあ見つかって」




なんか郵便屋さんになってるな。


彼もまあ、いい人間だからな。


断れなかったんだろう。


鷹目さんもいい人だし。




「背格好なんかは目をつぶっててもインプットされてるんですよ・・・鷹目さんがすっごい教えてくれたんで」




「ほうほう」




「参りましたよ、どれだけ森山さんが素敵かを長時間力説されましてね・・・太田さんが止めるまで続きましたよ、もう口から砂糖吐きそうでした」




「・・・相思相愛じゃんあの二人!!!!」




鷹目さんも似たメンタリティの持ち主であったか!!


俺も森山さんのノロケめいたお話を聞き続けたからな・・・




「・・・この手紙なんですけどね」




そう言って大木くんが取り出したのは、ちょっとした札束みたいな厚さの便箋であった。


・・・愛が重い!!(物理的に)


なんか、鷹目さんに対する認識が変わりそう。




「素敵ですね!とても!!」




なんか神崎さんはお目目キラッキラしてるし。


あなたこういうの大好きですもんね。




「御神楽高校にいるから、俺が動けるようになったら一緒に行こうか」




「うわあ~助かります!・・・でも大丈夫ですか?体」




「筋肉痛と右腕は明日か明後日くらいには治ると思う。なんとなく経験でわかる」




「・・・田中野さん、やっぱり超合金とかでできてるんじゃないですか?」




やっぱりってなんだよやっぱりって。


神崎さんもうんうん頷かないでください。




「わふはふ」




助けを求めてサクラを見たら、顔中を舐めまわされた。


こしょばい。




「ぷは、とりあえず今日は泊まって行ってよ。俺も色々相談したいことがあるんだ」




ここの防衛とかな。


いつか相談しようと思っていたから、丁度いい。


2階の・・・会議室辺りに寝てもらおうか。


なんなら資料室でもいいし。




「え、いいんですか!いや~助かりますよ、僕も相談があったんで・・・」




おや、大木くんもなんかあったのか。


そいつはタイミングがバッチリであるな。




「そうと決まれば!・・・ちょいと食料を調達してきますね」




そう言って腰を浮かせた大木くん。




「いや、まだまだ食料はあるから大丈夫だよ」




「いえいえ!食い扶持は自分で稼ぐって言うのが僕のモットーですから!いってきま~!」




大木くんは風のように部屋から出て行ってしまった。


うーむ、しっかりしているなあ。




「いつもながら行動が早いですね、大木さん」




床に下りたそうなサクラを解放していると、神崎さんが苦笑いしている。




「ええ、本当に・・・どしたサクラ?」




ふんふん床を嗅ぎまわっていたサクラが、大木くんが座っていた辺りでくるくる回っている。


見ると、床に文庫本が落ちていた。


おや、忘れ物かな?


尻ポッケにでも入れていたのだろうか。




「よっこいしょ・・・うあ」




「どうしましたか田中野さん・・・!」




拾い上げた文庫本。


そこにはデカデカとこう書かれていた。






『憎しみとの付き合い方~心の健康~』






「・・・や、優しくしてあげましょうね、田中野さん」




「・・・ええ、本当に」




大木くんの心中を慮りながら、俺は煙草を取り出した。

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