第二章 県庁所在地遠征編

第1話 拠点到着のこと

拠点到着のこと








山道を疾走する我が愛車軽トラくん。


左右は切り立った山の側面だ。


前方には放置車両も事故車両もない。


うーん、調子がいい。


エンジンも快調だ。




「風が気持ちいいですね、田中野さん」




「わふ!わん!」




助手席の神崎さんが、窓から吹き込む風に気持ちよさそうに目を細める。


その膝に乗ったサクラは、窓から鼻面を突き出して楽しそうだ。


振り回す尻尾がぽふぽふと神崎さんに当たっている。




「天気が良くて助かりました。この分ならもうすぐ龍宮に入れそうですよ」




俺はそう返し、煙草に火を点ける。


吸い込み、吐き出した煙が運転席の窓から後方へ流れていく。


ああ、美味い。


サクラはこっち側にいないので安全だ。


・・・神崎さんにはちょいと悪いけども。




カーナビによると、現在地はもうすぐ詩谷と龍宮の境界線だ。


今回の目的地・・・『高柳運送』はそこからさらに5キロってところだな。


ナビが生きてて本当によかった。


ゾンビが宇宙に進出してたらアウトだったな。




選んだルートは詩谷を出発し、山を突っ切って龍宮へ入るものだ。


そのほかにも道はあるが、ここが一番安全だろう。




高速道路は渋滞で止まっているのが遠くからも良く見えた。


国道は、以前新たちを見つけた橋から繋がっているのでダメ。


というわけで、最近では滅多に使われていない旧道を行くことにした。


この道なら目的地まで一番近いのもあるし。




道幅は若干狭く、カーブも多いが今の所道は塞がっていない。


昼頃には拠点に着いて飯にしたいところだ。




「サクラ、もうすぐ別荘に着くからな」




「わん!」




新しいおうちってわけでもないから、別荘が適当だろう。




「着いてすぐに使える状態だといいんですが・・・」




「なあに、ゾンビや変なのがいても神崎さんがいれば大丈夫ですよ。なあサクラ」




「きゅぅん!!」




『自分もいますよォ!』みたいな鳴き声を上げるサクラ。




「そうですね、田中野さんがいれば大丈夫ですね・・・ふふ」




抗議するサクラをきゅっと抱え込み、くすりと笑う神崎さん。


・・・なんか、いつもと違って迷彩服着てないから印象が違うなあ。


ヘルメットもないし。




「あの、自衛隊のヘルメット置いてきたんですか?」




「はい、でも別のものを用意しました。自衛隊の格好は目立ちすぎますし」




なるほどな。


龍宮は詩谷と違って自衛隊がどうなっているのか全く分かっていない。


潜入した自衛官もみんな行方不明だし。


ひょっとしたら、自衛隊ってだけで標的になるかもしれないからな。


銃目当てで襲われるかもしれん。


我ながら邪推が過ぎるとは思うが、詩谷ですら言葉の通じないアホが大量にいたんだ。


用心に越したことはない。




「・・・あ」




考え事をしていると、ある看板が目に飛び込んできた。




「神崎さん、龍宮に入りますよ。ほら、サクラ見て見て」




『ようこそ!歴史ある街龍宮市へ!!』と書かれた古ぼけた看板が道端に立っている。


ううむ、旧道だから手入れもあまりされてないのかな。


錆まみれでちょっと傾いている。


いくらなんでも歴史ありすぎでしょ・・・


なんか・・・ちょっとポストアポカリプスっぽいな。




おそらく人生で一番やっているゲームのシリーズを思い出す。


いや、あれは核戦争の後だから厳密には違うけども。


いやあ、出て来るのがゾンビだけでよかったなあ、ここ。


あっちみたいにデカい二足歩行の蜥蜴とか干からびたクソ速いゾンビとかいなくてよかった、本当に。


・・・でもレイダーはいるんだよなあ。


みんな銃で武装していないだけマシか・・・




まあ、境を越えたと言っても景色が変わるわけではない。


相変わらずの山道だ。


それでも走り続けると、ぽつぽつ家が増えてきた。




「・・・廃屋ばかりですね、人の気配がありません」




「元々ここら辺は人口減少地でしたからねえ、のどかな風景だなあ」




放置された田んぼ。


昔ながらの家。


ここ本当に県庁所在地なのかな。


まあ、詩谷でも端の方はもっと寂れてるけど。




「人さえいれば、食料生産には困りませんね」




「あとどれくらいかかるかなあ・・・とりあえずゾンビを何とかしないといけませんねえ」




ゾンビ・・・ゾンビなあ。


神崎さんの話を聞いてますます謎は深まるばかりだ。


いきなり人間がゾンビに変身するってどういうことだよ?


そりゃ被害も多かろう。


おまけに噛まれたらゾンビになるってところは映画通りだ。




「ゾンビって、なんなんでしょうねえ」




「・・・あまりにも情報が少なすぎます。研究が進めば何かわかるかもしれませんが・・・今は」




「生きることで精一杯ですしね。そういう頭を使う仕事は頭のいい人たちに任せますよ」




頭突き以外の頭を使う労働は苦手だ。




頑張れ、どこかにいるであろう有能な主人公タイプの人間よ。


俺は身の回りの安全だけで精一杯だ。


人類の未来は任せたぞ。








「うーんと、この道がここだから・・・アレか!」




走る続けることしばし、周囲がちょっとした町めいてきた。


場所は地図でわかっていたが、改めて見ると随分と郊外にあるんだなあ。


視線の先に、『高柳運送』と書かれた看板が見える。


あと少しだ。




高柳運送は、周囲を2メートルほどのブロック塀に囲まれている。


周囲はぐるりと堀に囲まれ、出入りは正面と裏口のちょいとした橋の上にある門を使うようだ。


四方の民家とも離れている。


ふむ、中々いい立地条件だな、花田さんが拠点に選ぶだけのことはある。




内部の確認のため、手前に車を停める。


さて、これからは探索の時間だ。




「サクラはちょっとお留守番だ」




「きゅぅん・・・」




「すぐ戻るからな、心配すんなよ」




察して耳をぺたりと折るサクラを撫で、運転席から出る。


今回の装備は剣鉈と、おっちゃんにもらった兜割だ。




「周囲に人の気配はありませんし、正面から行きましょう」




「はい・・・お、それが新しいヘルメットですか」




荷台から取り出したであろう、ヘルメットを装着した神崎さんがこっちへ来る。


・・・あれだな、俺のやつと同じ奴だ。


フルフェイスも似合いそうなのにジェットタイプにしたのか。


そのほかの装備は・・・拳銃とナイフ、それにあれは・・・警棒かな?




「ふふ、お揃いですね田中野さん」




なんかちょっと嬉しそうだ。


わかるぞ、新装備ってワクワクするよな。




花田さん経由で社長さんから門の鍵は受け取っているが、音が出るしな。


内部にゾンビがいるとまずい。


なので、正面の門をよじ登るとする。




門柱に手をかけ、よじ登る。


突起が多くて登りやすいな。


神崎さんは隣の門柱だ。




そろりと頭を出し、敷地内を観察する。




広い駐車場、大きな倉庫、それと2階建てで屋上のある真四角の社屋。


おお、広いな。


視界も確保しやすい。




駐車場には中型トラックが2台。


他には何も停まっておらず、人影もない。


倉庫はシャッターが下りている。


ふむ、ゾンビは窓を開けたりドアを開けたりする知能はないから、いきなり出てくる可能性はないな。


裏門を見るが、鍵が開けられた様子はない。




「見える範囲は異常なし、ですかね」




「そうですね、死角や社屋内部を確かめる必要がありますが」




まずは倉庫と社屋の裏側を確かめるとするか。


門柱から飛び降り、周囲を確認する。


神崎さんはやはり音も立てずに着地した。


・・・やっぱりニンジャじゃないのかこの人は。




ベルトに引っ掛けていた兜割を抜き、右手で持つ。


柄に革が巻いてあって、木刀より持ちやすく手になじむ。


若干前よりの重心だが、振りやすそうだ。




「兜割・・・初めて実物を見ました」




「俺もですよ、おっちゃんに感謝しないとなあ」




これなら木刀と違って折れたりすることはなかろう。


人にもゾンビにも使えそうだ。




倉庫の壁伝いに進み、裏側の手前まで行く。


神崎さんとアイコンタクト。


俺が前に出る。




懐から取り出したミラーを使い、確認。


・・・いた。




こちらに背中を見せたゾンビが2体いる。


揃いの制服・・・ここの社員さんかな。




神崎さんがホルスターから拳銃を抜き、ポケットから取り出したサイレンサーを装着するのが見える。




「(手前のは俺が、奥のはお願いします)」




「(了解)」




かきり、と神崎さんが拳銃のスライドを操作し初弾を装填する。


深呼吸をし、兜割を握りしめる。




「(3・・・2・・・1・・・今ッ!)」




勢いよく飛び出し・・・んなっ!?


なんで手前の奴こっち向いてるんだ!?


聞こえたのか、足音が。


おいおい、詩谷のゾンビより随分と耳がいいな畜生!!




「アアアアアアアアアア!!!」




手前の男ゾンビが吠え、こちらに両手を伸ばして走ってくる。


・・・動きも若干速いぞ!


感覚も鋭敏なのか!?




パス、という音は神崎さんの拳銃か。


が、そっちを見ている余裕はない。




「っし!!」




兜割を高く振り上げる時間はない。




体を低くしながら踏み込みつつ、両手の隙間から顔面に向けて斜めから振り下ろす。


体移動によって疑似的に振り上げた格好になる。


ごぎり、という衝撃が伝わってくる。


ゾンビの速度と俺の力、さらに兜割の重量もあってゾンビの額が大きく陥没した。


両目が飛び出し、ゾンビは地面に倒れる。




・・・ふう、こいつは中々厄介だ。


花田さんの情報を聞いていてよかったな。


初見だとビビッて動きが遅れた可能性がある。




「無事ですか、田中野さん」




「ええ、そちらは?」




「問題ありません」




見れば、右目を撃ち抜かれたゾンビが仰向けに倒れている。


・・・ひええ、相変わらずの凄腕だ。




「ですが、そちらのゾンビの声に対する反応が詩谷のものより早かったように思います」




「そっちもですか・・・こりゃ、突然変異じゃなくてここらのゾンビが強いって説が濃厚ですな」




「はい、気を引き締めましょう」




倉庫の周囲はもう安全だ。


シャッター以外のドアもしっかり施錠されている。


中は後回しにして、先に社屋内部を確認しておこう。




社屋に近付きながら1階を見る。


内部はこれといって荒れておらず、ゾンビの姿もない。


2階部分はブラインドが下りているのでわからない。




鍵を使い、正面玄関を開ける。


・・・埃っぽい臭いがする。


長い事換気をしていないから当然か。


1階は一般的なオフィスのようで、事務机が綺麗に並んでいるだけだ。


応接用っぽいソファーも見える。


奥へ続くドアがあるな、行ってみよう。




兜割を握る。


半身ゾンビを警戒しつつ、がらんとしたオフィスを奥へ進む。


ドアにたどり着くと後ろを振り返って見る。


俺の視線に気づいた神崎さんが、素早く正面に拳銃を構えた。


半身になってドアノブを回し、一呼吸して一気に開ける。


・・・ゾンビはいない。




上に続く階段と、『休憩室』と書かれたドアが見える。


その横は・・・トイレか。




休憩室のドアノブを掴み、さっきと同じように開ける。


おっとお!?ご休憩ゾンビ発見!!




「ァッ・・・」




くぐもった銃声。


ちりん、と薬莢が落ちる音。


額に穴が開いたゾンビが前のめりに倒れる。




ふう、助かるぜ神崎さん。


それにしても一瞬でよく頭を撃ち抜けるもんだ。




休憩室を一回り。


冷蔵庫にコンロ、給湯器か。


一通りはそろってるな。


6畳ほどの空間が二つ。


一つはテレビを見ながら休憩する部屋で、片方は仮眠室っぽいな。


襖の中に布団が入ってるし。




ぬ、さらに奥へ続く扉が・・・用心して開けよう。


おお、シャワー室だ!


狭いが風呂桶もあるぞ。


ここは井戸があるって聞いてるし、風呂にはしっかり入れそうだな。




元来た道を戻り、階段の前へ。


上方向は闇に包まれている。




ヘルメットのライトを点ける。


おや?神崎さんの方からも光が。


・・・ほお、拳銃の下部分にライトが付いてる。


映画で見たことあるな。




目くばせをしつつ、慎重に階段を上る。


といっても2階なのですぐに着いたが。




ドアノブを回し、音を立てないように開けていく。


さっきと違って中が広いからな。


一気に来られると押し負けるかもしれないし。




ゆっくりとドアが開き、ライトの明かりが室内を照らす。


・・・2階はいくつかの部屋に分かれているようだ。




左は『資料室』、右は『会議室』、奥が『社長室』と書かれている。


とりあえず近くからだな。




資料室は鍵がかかっている。


社長さんからもらった鍵の中にはない。


後回しだな。




会議室のドアを開ける。


がらんとした室内には、大きな長机と車座に配置された椅子。


他にはプロジェクターが見えるくらいで何もない。


よし、ここはOK。




社長室は施錠されていたので、社長さんの鍵で開ける。


・・・うん、普通の社長室って感じだな。


特にこれといって何もない。


ちょいと豪華な机と椅子があるだけだ。




ふう、これで2階は安全だな。


暗くてアレだし、ブラインドを開けるかな。




「待ってください、このままにしておきましょう。2階は周囲から見えます・・・夜に明かりが漏れると誰かに見つかるかもしれません」




俺の肩を掴み、神崎さんが制止してきた。


確かにそうだな。


変な生存者に目を付けられても困る。


いかんいかん、少し平和ボケしていたな。




後は屋上だが・・・内側からしっかり鍵がかかっている。


2階のと合わせて、後で探そう。


資料室と屋上、両方の扉を叩いてみるがなんの反応も無かったし、ゾンビはいないな。




俺たちは2階をそのままに、外へ出ることにした。


休憩室のゾンビもついでに引っ張り出しておく。


こいつらなんでか知らんが腐らないが、かといって目の届く場所に放置するのもなあ。


後で庭にでも埋めてあげよう。






「・・・異常なし、ですかね」




「ええ、使えるものも多そうですね」




最後に倉庫を確認しておく。


シャッターではなく横のドアを開けると、なにやら広い空間に1台だけ小型トラックが停まっている。


壁側にあるのは運ぶはずだった荷物だろうか。


金属製の棚に箱が積んである。


小規模な会社だったからあまり多くはないな。


中身が腐るようなものじゃなければいいんだけど・・・




中に入り、軽く見回る。


ふむ、なにやら工具類とオイル。


お、ポリタンクがある。




シールによるとどうやら灯油とガソリンのようだ。


結構な量があるな、ありがたい。


こんなんいくらあっても困らないですからね。


報告に秋月に帰るときはガソリンをもらえるみたいだけど、緊急用にあっても困らない。


家から持ってきた発電機も動かせるしな。




よしよし、これで敷地内の安全は確保されたな。


サクラを連れて来よう。


神崎さんに声をかけ、正面入口へ向かう。








「ぅおん!くぅぅん!!きゅん!ひゃん!!」




「おーおー、ごめんなサクラ、待たせちゃったなあ」




運転席の扉を開けるなり、サクラが飛び掛かってきた。


腹に顔を埋め、きゅんきゅん鳴いている。


ははは、かわいいやつめ。




膝の上から動かないサクラをなだめつつ、車を動かす。


神崎さんが門を開けてくれたので、そのまま中に乗り入れる。


どこに停めようかな・・・と考えていると、神崎さんが倉庫の方を指差す。


あっそうか、武器弾薬が乗ってるもんな。


先にあそこで下ろそう。






「んがぎぎぎ・・・!うううううおおおおりゃああああ!!!」




シャッターは電気で動くタイプだったので、無理やり筋肉パワーを使って開ける。


なんとかなったか・・・もうちょいでかいタイプだと無理だった。


このまま軽トラが出入りできるくらいは開けておこう。


周囲に高い建物はないし、塀のおかげで見られることもないだろう。




神崎さんと2人で荷下ろしをしていく。


サクラは周囲を冒険だ。


広い空間に興味津々だが、たまに慌てて走って俺たちの所へ戻って来る。


いるかどうかを確認しているみたいだ。




しかしこの弾薬箱重いな・・・手りゅう弾や擲弾のやつよりはマシだけども。


神崎さんは例のデカい機関銃を点検している。


あそこだけ異質な空間だな。




「それ、探索に持っていくんですか?」




「いえ、これは拠点防衛用です。さすがに重いですから・・・」




「ラ〇ボーよろしく、体中に弾帯巻き付けて行くのかと思いましたよ」




「前から思っていましたが、田中野さんは私を何だとお思いですか?」




・・・コンバットニンジャ?




「探索には拳銃とこれを持っていきます」




そう言って神崎さんが見せてくれたライフルは、以前から馴染みのあるものだった。




「・・・ん?なんかこれ、前のと微妙に違いませんか?」




銃床の部分がなんか・・・




「ああ、これですか。折りたためるんです」




かちゃりと銃床が折りたたまれ、コンパクトになった。


へえ、そんなのもあるんだ。




「部隊で使用していたものです。基地に予備があったので・・・探索中はリュックにしまって、メインは拳銃を使います」




確かになあ、自衛隊ってことを隠すんなら効果的だろう。


あれ?それ横に刀マンの俺がいたらどうなんだろう?


自衛隊だとはバレないけど、危険人物には見られそう・・・・まあ、それも今更か。




非常用の銃弾と各種爆薬を倉庫内の鍵がかかる小部屋に隠し、残りは社屋に持っていくことになった。


俺も釣り道具はここに置いていこう。


早々必要になるもんでもないし。




車ごと移動し、社屋の玄関先に停車。


食料の箱を手分けして運び込む。


俺のDVDとかもな。


基本的には1階で生活することになりそうだ。


休憩室には布団もあるし。


実家のデラックス布団セットは、荷物スペース確保のために泣く泣く断念したのだ。


サクラの毛布と俺の枕だけは持ってきたけど。




ふう、ようやく人心地ついたぞ。


あ、井戸の確認しなきゃ。




井戸は社屋の裏にあった。


電気ポンプで汲み上げるタイプだな。


実家みたいな手押しポンプも併設されている。


早速外部に発電機をつなぎ、動かす。


唸りを上げる発電機に驚いたのか、サクラが俺の膝に縋り付いてきた。




「出ましたよ、田中野さん!」




風呂場の窓から神崎さんが顔を出す。


よし、これで水は大丈夫だな。


そのまま貯まるまで待ってもらう。


給湯室には洗濯機もあったので、これで人間的な生活が送れそうだ。


干すのは屋上があるしな。


今日の所は、これで一段落だ。


後で湯沸かし棒を放り込んでおこう。








「あの、お味はどうですか?」




「うまい!うまい!なあサクラ?」




「ひゃん!」




「ふふ、よかった」




作業も終わったので休憩室で食事にする。


メニューは自衛隊の保存食である。


準備は神崎さんが手早く済ませてくれた。


携帯コンロがあるから湯沸かしも楽だ。


・・・隊員の半数が死んだんだから、そりゃ量もあるわなあ。


基地にはもっとあるんだろうけど、未だにゾンビまみれで後回しにされてるらしい。




サクラはもぐもぐと嬉しそうにドッグフードを食べている。


前に好奇心で少しもらったが、何の味もしなかった。


犬の味覚ではあれが丁度いいのかもしれん。




しかし自衛隊の飯はうまいなあ。


量もあるし、満足だ。


ミリオタの友達が言っていたが、各国と比べても群を抜いて美味いらしい。


それも納得である。


なんか、映画とかで見ると外国のミリ飯ってマズそうだもんな。






いやあ、大満足だ。


おいしかった。


やっぱり日々のモチベに美味い飯は欠かせないなあ。




サクラは仰向けになってスヤスヤ寝ている。


・・・寝る子は育つとは言うが、なんだその寝姿は。


かわいいからいいけど。




「田中野さん、おいしそうに食べますね。見ていてこっちまで幸せになります」




くすりとしながら、神崎さんが食後のコーヒーを手渡してくる。




「ありがとうございます、いやあ、食い意地が張ってるだけですよ」




ほろ苦いコーヒーを飲み、一息。


うーん、今がゾンビパニックの最中だってことをうっかり忘れそうだな。




「さて、どうします?さっそく明日から周囲の偵察といきますか」




「そうですね、ここを始点にまずは周辺を潰していきましょう。この場所なら後で後続が来ても使用できますし」




「わかりました、じゃあ明日は朝から動きますか」




あとで周辺地図を確認しておこう。


何かいいものがあるかもしれないしな。






食後の運動がてら、成仏させたゾンビを埋葬する。


シャベルを使い、敷地の隅っこに穴を掘る。


ゾンビが胸に付けていた名札だけ回収しておいた。


今度秋月に行ったときに社長さんに渡してもらおう。




「ふい~、我ながら穴掘りにも慣れたもんだ。あっサクラ危ないから近付いたらダメだぞ」




「わふ!」




周囲を走り回るサクラに声をかけつつ、ゾンビを埋葬した。


・・・腐らないし土にも還らないらしいけど、まあ気持ちだ、気持ち。


でも、いつかこの騒動が収まった時にゾンビの始末って問題になりそうだよな。


まとめて燃やして灰にするしかなさそうだ。


腐らないから疫病の心配がないってことだけは安心だけど。




「ふう、完了。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏・・・」




土饅頭に手を合わせ、冥福を祈る。


来世があるなら今度こそ幸せになれるといいな。






「よっしゃ!取ってこ~~~~~い!!」




「ひゃん!ひゃん!!」




その後は広い敷地をフルに使ってサクラと遊んだ。


いや、目をウルウルさせてボール咥えて来るんだもん。


そんなもん逆らえるわけないでしょ。


今日は移動移動でろくに運動してないしな、サクラは。




「ももふ!もふ!」




千切れんばかりに尻尾を振りつつ、サクラがボールを咥えて帰ってきた。




「かしこい!よくやった!世界一かわいい!!」




ボールを受け取って頭を撫で回すと、サクラは嬉しそうに笑った・・・ように見えた。


サクラと遊んだら丁度風呂に入れる時間だな。


先に神崎さんに入ってもらおう。


俺はサクラと一緒に入るし。




明日からはいよいよ本格的な探索だ。


どうやらゾンビも今までとは違うっぽいし、気を引き締めていこう。


そんなことを考えながら、俺は再びボールを投げた。





というわけで第二部が始まりました。

第一部と同じノリですが、どうぞお付き合いください。

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