第60話 大事の前の小事のこと(※残酷な描写アリ)
大事の前の小事のこと
「静かだな・・・平和でいいけど。」
暗闇の中で呟く。
周囲にゾンビも人間もいない。
ほんとに静かだなあ。
現在俺がいるのは北区のホームセンター。
かなり以前金髪の・・・えーと・・・そうリキ!
リキの方とかち合った場所だ。
肩をアレしてから数日後、すっかり完治したのでここに来ている。
なお、神崎さんはいない。
ちょっとした物資回収だけなので単独行動だ。
だから今日はかすり傷一つ負うつもりもないし、万が一怪我をしたら殺されるかもしれん。
なぜそんなトラブルが起こりそうな場所に俺がいるのかというと、探しものである。
南区にある手ごろなホームセンターでは見つからなかったもの・・・『花火』を探しに来たのだ。
・・・別に美玖ちゃん達と楽しく花火をやるつもりなわけじゃないぞ。
今度俺は、美玖ちゃんのパパを探しに駅に行く。
ゾンビが発生したであろう日はおそらく平日だったから、通勤通学などで駅は人でごった返していたことだろう。
ということは、今までで最大量のゾンビがいるという恐れがある。
その場合正面からカチコミをかければ、いくらスーパーソルジャー神崎さんがいたとしてもゾンビのご飯になってしまうのは容易に想像できる。
弾丸の数も足りないし、なにより膨大な物量の前では個人の戦闘力など無に等しいのだ。
そりゃ、俺が某ベトナム帰還兵や某未来筋肉サイボーグ、はたまたポニーテールがイカす首折りおじさんだったら話は別だろうけども。
だが、俺たち人間にとっていいことが一つある。
やつらゾンビは馬鹿なのだ。
正確に言えば動物並みの知能というか、本能のみで動いている感じだ。
今までの経験から、奴らは音にはある程度敏感だが視力や嗅覚はほぼないということが分かっている。
子供など一部の例外を除けば、大多数のゾンビがそうだった。
そこで『花火』というわけだ。
ある程度でかい音を人為的に発生させることで、ゾンビを誘導する。
建設会社の爆薬を使うことも考えたが、破壊力が大きすぎるので却下。
どうにもならなくなった時用にダイナマイト状のものを準備しようかと思ったが、神崎さんが普通に手りゅう弾を持っていたので必要ない。
っていうか前回俺が荷台に寝かされていた時に、ヒヨコちゃんのケージ横に弾薬がこれでもかと積まれていた。
宮田さんたちもドン引きする量だったそうだ。
後で知って冷や汗をかいたのを覚えている。
さて、そんなこんなで現在位置はホームセンターの内部。
カスタムした結果小奇麗になった愛車は、朽ちたトラックとトラックの間に隠した。
まあ窓もシートで強化したし、ガソリンタンクにも盗難防止のロックをかけているのでもし見つかってもしばらくは大丈夫だろう。
盗みたいなら破壊するとは考えにくいし。
さっさと目的の花火を回収して撤退しよう。
ライトの光量を最低に設定し、薄暗い店内をカサコソ動き回る。
うーん、シーズンはまだ先だから他のホームセンターにはなかったけど、以前ここに来た時に見かけた気がするんだよな・・・
店内はかなり荒らされているが、この状況下で花火を持って帰ろうなんていうパリピがいるとも考えられんし・・・
お、カロリーバーが落ちてる。
・・・賞味期限は大丈夫なのでもらっていこう。
野菜の種やなんかもかさばらないのであるだけ持っていこう。
避難所に提供することで、俺へのヘイトを少しでも下げとかないとなあ。
俺は基本的に避難所の食料は食べてないし、食べたとしたらそれ以上の物資を提供してきたつもりだ。
手が空いていれば、畑仕事や大工仕事も手伝ってるし。
今週は肩のことがあって力仕事はできなかったが、ヒヨコちゃんを運搬もしたし。
・・・俺は寝ていただけだが、運んだのは俺の車なので問題ない。
・・・何故か最近、避難所でたまに「家族を探して」と頼まれることがあるんだよなあ。
隣町から美沙姉を連れてきたからかな?
俺は知り合いを助けただけであって、人助け大好きマンではないんだがなあ・・・
美玖ちゃんは結果的に助ける結果になったが、あれは宮田さんの依頼&なし崩しだし。
たまたま見つけた子供を保護するのと、探しに行くのでは天と地ほどの差がある。
美沙姉にしても、元からの世話になった知り合いじゃなければああまで無理して助けなかった。
俺を人探し専門家扱いされてもなんだ、その、困る。
それに、美沙姉は突出したバイタリティや戦闘力を有しているから生き残っていただけで、その他一般人が生き残るには運が必要だ。
適当に引き受けて後で見つからなかったという結果になると気まずいし、そんな義理もないので毎回断っている。
すると毎回のように「なんで断るんだ!?」的な対応をされるのが困りものだ。
最近はそれがストレスである。
だいたい、別に避難所からの出入りは禁止されてないから行きたきゃ自分で行きゃいいんだ。
怪我や死亡は完全な自己責任ではあるが。
だが、そういう理不尽なヘイトが美玖ちゃんや美沙姉、由紀子ちゃんや雄鹿原さんに向く可能性もあるのが恐ろしい。
宮田さんにもその都度チクっているからいいけども。
もしもそういう手合いが実力行使に及ぼうとしたら、真っ先にぶち殺してやるがな。
警官隊や美沙姉、神崎さんがいれば大丈夫だとは思うけど。
特にあの2人は敵対者をノーモーションでボコり倒せる精神構造だし。
色々考えながら探索していると、子供用のプールやなんかが置いてある区画にたどり着いた。
・・・あっ、あった!
夏にお馴染みの花火セットが!
よしよし、シーズン外だけあって在庫は豊富だな。
早速がさっと袋を取って開封していく。
手持ち花火なんかは持って帰っても意味がないからな。
お目当てはデカい音が出るタイプのものだ。
火を点けるとバチバチ音が出る設置型や、手に持って使う打ち上げ花火なんかをより分けていく。
ロケット花火なんかもいいな、もらっておこう。
そしてお目当て中のお目当てを視認。
爆竹である。
しかもロング型だ!
コイツに適当な重りでもくくり付ければ、かなり遠くまで投げることができるぞ!
在庫は全部いただいていく!!
よし、本日の探索無事完了。
避難所に戻って装備を整理したら、明日はいよいよ駅に突撃だ。
何かと便利な手裏剣も持てるだけ作っておきたいし。
そういえば以前殉職した木刀くんは、自宅在庫によりめでたく新品の二代目となった。
やっぱりゾンビには大正義質量兵器が一番だからな。
刀と手裏剣は人間用だ。
リュックサックに大量の花火を詰めて帰り支度をする。
湿気ないように、後で油紙的なもので包んでおこう。
その他にも色々と必要なものを回収しながら帰ろう。
略奪によりガラガラになった店内を入り口まで戻る。
保存食は根こそぎ持っていかれているが、野菜の種はいっぱい残ってるんだよなあ。
まあそれなりの拠点がないと、こういうのは育てられないからな。
面倒くさいし。
だからこそ、友愛みたいなちゃんと栽培してるところが狙われるんだろうが。
そんなことを考えながら店から出ようとすると、駐車場に何やら見える。
来た時にはなかったものだ。
ライトを消し、闇に身を潜めて確認する。
・・・あのケバケバしいペイントの車、なんか見覚えがあるんだよな・・・
たしか、金髪のリキと仲間たちが乗っていた奴だ。
しかも似たようなテイストのものが加えて2台も。
畜生!よりによってなんで今日カチ合うんだよ・・・
アイツらは俺に明らかに遺恨を持っているだろうから、絶対に会いたくない。
リキが死んでるかもしれんし。
まあ、このホームセンターは広大だし電気も点いていない。
隅の方に身を潜めて、奴らが帰るまで待機するって手もある・・・
『出て来いよオッサン!いるのはわかってんだ!!!』
拡声器越しに、リキの声がする。
生きてたのかアイツ。
・・・どうやら初めから見張られていたらしいな。
なんちゅう執念だ。
『出てこねえと、車ぶち壊すぞオラァ!!!!』
こっちはタケの声か?
今日は2人揃ってるようだな。
表から見られないように、こっそり単眼鏡で駐車場を確認。
車の脇に、拡声器を持ったリキとタケが見える。
その周りには鉄パイプやバットで武装した一団がいる。
ざっくり数えて15人。
・・・多いなあ。
車を壊されるのは困るが、このままノコノコ正面から出て行ったら袋叩きにされそうだ。
見たところ飛び道具を持っていそうな奴がいないのが幸いである。
北区に銃器店がなかったのがよかったな。
さて、どうするか。
正直、これはあの時の甘さが招いた結果だ。
中途半端な仏心を出したので、こういう事態になってしまった。
あの場で全員の息の根を止めておけばよかったのだ。
まだ覚悟が足りなかったよなあ。
そういう詰めの甘さがこの顔のカッコイイ傷の原因になったので、今はもう懲りたけど。
じゃあどうするか。
・・・この場で全員殺すしかないなこりゃあ。
殺しに来たんだから、殺さないとダメだ。
生かして帰せばまた狙われるだろう。
・・・そうと決まればすぐに準備だ。
幸い『いいもの』も手元にあるしな。
『出て来いって言ってんだろ!!逃げ場はねえんだよォ!!』
「久しぶりィ!!俺に何の用だー!?」
あれからしばらくして、痺れを切らしてもう一度怒鳴ったリキに怒鳴り返す。
まさか返事が返ってくると思わなかったのか、虚をつかれたように黙るリキ。
『決まってんだろォ!?リキにしたことの落とし前を付けてもらうんだよォ!!!』
「落とし前ェ!?そっちが勝手に襲ってきたから抵抗しただけなんだがー!?」
タケの方が怒鳴るのでそちらに怒鳴る。
『うるっせえんだよオッサン!そんなの知るか!!リキは手が使えなくなったんだぞ!!!』
「そんなん俺も知るかよ!むしろその程度で済んでよかったじゃねえか馬鹿野郎!!生きてることに感謝しろよ間抜け!!!」
やっぱあれ神経切れてたか。
どうせ俺を殺す気なんだろうから思う存分煽り倒してやる。
「だいたい、石川さんはこのこと知ってんのかー!?どう考えてもお前らの方が無理筋じゃねえか!!!」
『あんな奴もう知らねえよ!知り合い探すとか言って、勝手に龍宮に行っちまったしよォ!!』
うそん、石川さんこいつら見捨てたのか。
・・・後輩の教育を放棄した罪は重いぞ!
俺が同じ立場でもそうするけど!!
「どうせ何したって許す気はないんだろー!?」
『おとなしく出てくりゃあ、命だけは勘弁してやるよ!!』
絶対嘘だ。
その手に持った斧は何だよ。
まあ俺もこんなアホ共に下げる頭の在庫はないけども。
『いいから早く出て来いよォ!!!!!!!ぶち殺してやるゥア!!!!!!!!!!』
ほらもうリキの方隠す気ゼロじゃん・・・
もうちょっと演技したらいいのに。
まあこっちの『準備』も終わったしそろそろいいかな。
「・・・俺を殺しにきたって言うなら、殺されても文句はないなぁ!?クソガキ共ォ!!!」
『アアアアアアアアア!うるせえ殺してやる!!!出てこい!!!出てこいいいいいい!!!!!』
痺れを切らしたのか、集団がこっちに向かって歩き出す。
お、そっちから来てくれるのか?
いいねえゾンビ並みの馬鹿は、わかりやすくて。
攻撃開始だ。
俺は奴らに見えるように入り口に立つ。
「ホラ!かかって来いよ脳みそミジンコのガキ共!!あんよは上手!あーんよは上手ゥ!!」
わかりやすく手拍子までしてやる。
「アアアアア!馬鹿にしやがってええ!!!いけえ!!!!!」
俺目掛けて一斉に駆け出すガキ共。
「つまらないもんだけどォ!!これどうぞォ!!!」
死角に隠しておいたものを掴んで、ちょうど奴らの進行方向上に重なるように思い切り投げる。
きれいな放物線を描いて飛んだそれは、先頭にいたガキの足元に落ちて割れる。
「あ、アアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!?!?!?」
中から飛び散った飛沫に炎が引火し、そいつを含めた3人が瞬間的に生じた火柱に包まれる。
よし、上手くいったな。
「おかわりもあるぞォ!!遠慮すんなァ!!!!」
更に追加を投げると、現在生じている火柱とイイ感じに反応して更にデカい火柱が生じる。
「アガアアアアア!?」「ひっ・・・火ィ!?」「消して消して消してくれぇ!!??」
火を消そうと地面を転げ回った結果、さらに火だるまになるやつ。
パニックになって仲間に縋り付いて被害を拡大させるやつ。
うーん、地獄絵図である。
そう、俺が作ったのは『火炎瓶』である。
在庫置き場にひっそり残っていた、発電機用に調達した缶入りのガソリン。
それをビール瓶に詰めて、適当な布を裂いて詰め込み、栓と導火線の代わりにする。
後はいい感じにガソリンが染みた布の先端にライターで着火、投げればご覧のとおりである。
時間がなくて3本しか作れなかったけど、大打撃を与えることができた。
アクション映画の知識ってバカにできないなあ。
「オラぁ!!」
最後に残った一本を思い切り投げつける。
敵集団を抜け、うまいこと後方にいたタケの持っていた斧に命中。
「ギイイイイイ!?!?!?!?」「あああああ!!タケシぃ!?」
めでたくタケ、もといタケシは松明めいた状態になった。
火の力は絶大なようで、圧倒的多数の17人いた敵は壊滅状態だ。
まあ、オッサンを囲ってボコる簡単な喧嘩だと思ってたら、仲間が火達磨になってのたうち回ってるんだもんな。
想像力が足りないと大変だなあ。
俺としてはその低能さに救われたわけだが。
奴らが浮足立っている間にケリをつける。
入り口から飛び出し、パニックになっている奴らを片っ端から木刀でぶん殴って回る。
揃いも揃ってろくな防具も付けていないので、殴りやすくて助かるな。
トドメは最後に刺せばいいので、行動を止めるために足や頭を優先して狙っていく。
3、4人はイイのが脳天に入って何らかのパーツが飛び出てたから、トドメはいらんかもしれないが。
元々が素人に毛が生えたような烏合の衆。
あっという間に瓦解し、駐車場に倒れて呻く声が増えていく。
「たしゅけ!?」
命乞いをしようとしたやつの側頭部をぶん殴り、静かにさせ。
「こっこのやっろぅぼ!?」
果敢に鉄パイプで打ちかかってきたやつの喉を木刀の突きで砕き。
「やめ、やめめめえ!?」
仲間を盾にしようとしたやつの股間を下段から切り上げて潰し。
「ヒ、ヒイイイ!?いやだあああああああご!?」
背中を向けて逃げるやつの後頭部に手裏剣を投げ。
狂乱状態の集団を時に横切り、時に右から、時に左から襲いかかって狩る。
容赦はしない、ここで全員やる。
そうこうしているうちに、いい感じに焦げたタケとリキ以外の無力化に成功した。
半分以上が火炎瓶で戦意喪失していたから、案外すんなり終わった。
別に2人を最後に残す気はなかったんだが、なんかこいつらリーダーなのか後ろに陣取ってたのでこうなった。
まあタケは不慮の火炎瓶でこんがりしているから、実質五体満足はリキだけみたいなもんだが。
「て・・・テメエ!!てめええええええ!!!」
「語彙が小学生より少ないなお前。」
タケの斧を持って小刻みに震えているリキに近寄る。
ちなみに、元の持ち主は地面で小刻みに震えている。
よく見たら顔面に瓶の破片が結構めり込んでるな・・・早く楽にしてやろう。
「なんでジャマすんだよっ!なんでテメエ死なねえんだよ!!なんで俺のダチがこんな目に遭ってるんだよォオオオオ!!!!」
もう言っていることが支離滅裂である。
あまりの現実の厳しさに、頭の中身が半分異世界あたりに転移したらしい。
「知らねえよ、何でもかんでも思い通りに事が運ぶと思ってんじゃねえぞゴミカスが。」
相手をする気も失せるが、言いたいことは言ってやろう。
どうせこれが最後だし。
「何度もやめとけって言ったよな?恨むなら学習能力皆無な残念脳味噌を恨めよ?」
「ううううう!!!殺してやる!!殺してやるううううう!!!!!!」
「知ってるか?できもしないことをガタガタ言い続けるのは『馬鹿』っていうカテゴリーに入るんだぞー?」
「あああああ!!!あああああああああああああああああああああああ!!!!!」
無事な方の手で、リキが斧を振り上げる。
「じゃあな、来世はそこら辺の適当な草にでもなれよ。」
手首のスナップで棒手裏剣を喉に投擲。
一瞬硬直した隙を逃さず、まっすぐ木刀を喉に突き入れる。
「ぎゅ・・・お・・・・」
棒手裏剣の尻を木刀が押し込み、喉を半ばまで貫通する。
「おおっ!りゃあ!!」
駄目押しで引き戻した木刀を振り上げ、踏み込みながら渾身の力で額に叩き下ろす。
骨を砕く感触が手に伝わる。
半分以上目を飛び出させて地面に倒れ、リキは永遠に静かになった。
その後、6匹ほど辛うじて生きていたので剣鉈でさくりと首に切り込みを入れて止めを刺して回った。
タケは火傷でショック症状を起こしたかどうしたか、既に息はなかった。
使ってしまった分のガソリンを補充し、リュックを回収して車に乗り込む。
奴らの死体は適当に転がしておいた。
周囲にゾンビがいれば綺麗にしてくれるだろう。
完膚なきまでに殺したからゾンビになる心配はないし。
「疲れた・・・テンションの上がるCDとか用意しとけばよかったな。」
しょうもない独り言をつぶやきながら、俺はホームセンターを後にした。
もうここには二度と来ることもないだろう。
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