第51話 今時の若者?のこと
今時の若者?のこと
俺はあてもなく町をさまよっている。
周囲から聞こえるのは、いつも通りのゾンビの声。
そこかしこから死の気配がする。
・・・いやカッコつけすぎだなこれ。
普通になんかないかなーってうろついてるだけだもん。
現在地は南区の西のはずれ。
いままで来たことがなかった区画だ。
ここにもちょいとしたスーパーがあるので、物色しに来たというわけだ。
お目当てのスーパーにたどり着いたが、結構荒らされている。
正面のガラスは残らず粉々だし、店内も棚が倒れたり盛大な血痕があったりだ。
・・・これ、望み薄かなあ。
ゾンビに注意しつつ物色。
缶詰やなんかは全滅だな。
手軽だもんなあ。
乾燥麺類は残ってるな。
めんつゆやソースは確保しているのでこれは持っていこう。
うちには井戸水があるので、ザルうどんなんかは美味しく食べられるし。
隣の乾物コーナーから切り干し大根や干しシイタケ、油揚げももらう。
・・・井戸水があるってある意味チートだわ。
缶ジュースはまだ残ってるな。
・・・100%トマトジュースや甘くない野菜ジュースかあ。
美味しくないから置いてったのかな。
この状況でビタミンは貴重なので、普段ならあまり買わない健康志向のものをもらおう。
値段も高いなあ。
おっと、これは・・・スポーツドリンクの粉末じゃないか!
プロテインもあるぞ!
かさばらないから残らず回収しよう。
カロリー補給にもってこいだ!
おなじみの牛乳をぶっかけると朝食になるシリアルもある。
・・・牛乳ないもんなあ。
でも、これはこれでお菓子感覚で食えるのかな?
うーむ、一応貰っとくか。
賞味期限長いし。
チョコレート類も忘れずに。
この前女性陣に裸を見せたお詫びだ。
・・・いや、あの後無茶苦茶触られたからプラマイ0なのか・・・?
うーん、こんな感じかなあ。
異臭を放つ生鮮食品コーナーを見ないようにしながら、考える。
真空パックとかのお手軽に食える食品類は全滅だなあ。
まあ、今日の所はこんなもんでいいかな。
晩飯はザルうどんにしようかなー、なんて考えながら帰ろうとしたその時。
何か声が聞こえた気がしたので、咄嗟にレジの中に隠れる。
「~!・・・!」
やっぱり聞こえる。
こちらに近付いてくるようだ。
「・・・で、・・・から!」
そこそこの音量で話しているな。
若い男の声・・・かな?
何人いるかまではわからない。
ここのところ・・・ていうかずっと、外で出会う奴はろくな奴がいない。
今度はどんな奴だ・・・?
その結果で対応を変えよう。
普通のやつなら話しかけて情報収集。
ヤバそうならコッソリ逃げよう。
見つかって襲ってくるようなら・・・成仏してもらう。
こんな感じかな。
おっと、もう正面の駐車場に来たようだな。
そろそろ聞き取れそうだ・・・
「よーし、こっからいこっかなあ!」
影からこっそり見てみると、そこにはバットのようなものを持ってヘルメットをかぶった男の姿がある。
体の要所要所にはプラスチックっぽいプロテクターが付いている。
・・・あれって、野球のキャッチャーの格好だよな?
まあプロテクターとしては優秀なんだろうけど。
よく見れば下に着ているのは野球のユニフォームだ。
随分戦闘力の高そうな野球選手だな。
ヘルメットには俺のように何かがテープで巻きつけられている。
あれはライト・・・じゃない、ビデオカメラか?
何してんだあいつ。
「ネットの皆さんハローハロー!どうも、アキヤマTVのアキヤマケンゴでっす!!」
ほんとに何してんだあいつ・・・
「えー今日はですねえ、全国展開の有名スーパー!オーガマートにやって来ています!時刻は・・・」
流行のネット配信者ってやつか?
・・・え?ネットって復旧したの!?
毎日確かめてるけどずっと使えないのに!?
「さて、昨日のゾンビには困りましたが!今日こそは何かいいものを見つけようと思います!イェイイェイ!」
っていうか声がデカいよきみ。
近くにゾンビいたらバンバン来ちゃうだろオイ。
とにかく、少し話をしてみよう。
相手は1人のようだし、見たところ武装はバット一本のみ。
距離を取れば大丈夫だろう。
念のため棒手裏剣は準備しとこう。
レジから出て、店外へ。
「おーい、そこのきみ~?」
「ヒャー!?だだ、第一村人発見!発見ですっ!!こっわ!刀持ってる刀ー!!!」
誰が村人か。
いちいちリアクションが激しすぎるんだよ。
「ちょっと話が聞きたいだけだ。・・・ある程度距離は取るから、少しいいかな?」
「紳士!サムライジェントルマンですよ皆さん!どうぞどうぞお兄さん!!」
・・・もう帰りたくなってきた。
チンピラとかとは逆ベクトルで疲れるな・・・。
「・・・あのさ、配信か何かだよなそれ?ネットって復旧したの?」
「あー!なるほど・・・そこ気になりますよねー!ちょっと待ってくださいねー!」
男はヘルメットに付いているカメラのスイッチを切ると、こちらに向き直った。
「どうも・・・うるさくしてすいません・・・」
「えっ」
急にトーンダウンしたぞ、こわっ。
「周囲にゾンビがいないのは確認済みですので・・・ご安心を・・・」
「お、おう・・・」
急にキャラが変わった男は、スーパーの前のベンチに腰掛ける。
俺もその正面にあるベンチに座る。
左手には手裏剣が握り込んである。
「どうも、僕は大木っていいます。」
「こりゃご丁寧に・・・俺は山田だ。・・・アキヤマじゃないんだな?」
「あれはハンドルネームなんです。」
信用できるかどうかまだわからないので、偽名で名乗る。
「ネットですけど・・・まだ復旧していません。これは生配信じゃなくて録画ですね。」
「なるほど・・・しかし、なんでまたそんなことを?」
やっぱり復旧してなかったか・・・
じゃあなんでこんなことしてるんだろう。
気になったので聞く。
「撮り溜めですよ、これは。」
「撮り溜め・・・?」
溜めといてどうするんだろうか。
すると大木君は、ぐいっと身を乗り出して話し始めた。
「いつか世界がマトモに戻るまで、サバイバル生活を動画で残しておくんです!」
また急に元気になったな。
「ほほう・・・で、この騒動が片付いたらどうするんだ?」
「ネットにアップして、大人気配信者の仲間入りです!だからその時までに編集して、いつでもアップできるように準備しておくんです!」
「な、なるほど・・・?」
「1日1日を分割して、リアルな目線でゾンビサバイバル!これは絶対に人気が出ますよ!」
「確かに、そうかもしれないな・・・?」
「正直、この騒動って10年20年続くようなものじゃないと思いますし・・・ゾンビより人間の方が怖いですし・・・」
ん~、まあよくわからんが、人に迷惑かけなきゃいいんじゃないかな?
初見はただのアホに見えたが、話を聞くとそうでないこともわかった。
映像を撮ってる時は馬鹿っぽい方が受けると思ってそうしているらしい。
・・・アレ?今までに話が通じた生存者って、外では大木君が初では?
あっ釣り人のおじさんたちと石川さんもいたわ・・・
でも貴重だな・・・
そう考えるとなんか新鮮だな。
急に襲ってくるとか、追剥みたいなのとかしかいなかったから。
「まあ、色々大変だと思うけど、がんばって。話せてよかったよ。」
「こちらこそ・・・いきなり襲ってこない生存者は山田さんが初めてでしたよ。」
そっちもかよ。
物騒だなあ最近。
「そういえば、大木君は避難所にいるのか?俺は自宅だけど。」
「僕はバイト先の古本屋を封鎖して住んでます。避難所ってめんどくさいんですよね・・・一人の方が気楽なんです。」
「俺もそうなんだよ・・・」
「動画の編集とか、絶対避難所じゃできませんしね・・・なんか仕事しろって言われそうで・・・」
意外な所に仲間がいた!
なんというか、こういうメンタリティの人間は長生きしそうな気がする。
その後、しばらく話して大木君と別れる。
俺の実体験を踏まえて、色々と情報を提供した。
避難所のことは興味がなさそうだったので言わなかった。
「他人を撮ると、後でモザイク処理しないといけないので面倒くさくて・・・」だそうだ。
・・・ゾンビはノーモザイクでいいのか。
なお、大木君が教えてくれた情報は「ゾンビがむっちゃいて撮れ高がいいスポット」だった。
・・・役に立つな。
そこに近付かないようにすればいいんだから。
「サムライマンからの助言を得て!いざいざスーパーにとっつげき~!イクゾー!!」
背後からは、撮影を再開した大木君の営業モードボイスが聞こえてくる。
けっこういい奴だったな。
俺と同じ貴重なぼっち気質サバイバーなので、生き抜いてほしいな。
・・・ちょっと待ってサムライマンって俺ェ!?
彼のネーミングセンスに疑問を感じつつ、スーパーの敷地を後にした。
家に帰った後、昼間のことに影響されたのか、主観視点のゾンビ映画を見た。
・・・酔う!むっちゃ酔うこれ!!
そうだった、三半規管がクソザコナメクジだったから今まで見てなかったんだこのタイプの映画!
内容が全然頭に入ってこねえ・・・
仕切り直しで風呂に入る。
そうそう、以前ホームセンターで回収したアレ、超便利。
投げ込み式のヒーター。
だいたい風呂桶一杯があったまるまで2時間くらいかかるけど、現状では贅沢は言えない。
何より暖かい風呂に入れる満足感・・・これがたまらない!
避難所の風呂は2日ないし3日おきにしか入れず、しかも細かく時間制限までされるらしい。
やはり避難所より家が最高だな!!
風呂から上がったホカホカ状態でまたゾンビ映画を見る。
ゾンビという題材を一大ジャンルにまで築き上げた超絶大巨匠の作品だ。
う~ん、原点にして頂点!たまらんね!
お米の国はホームセンターにも普通に銃器店があって恐ろしいなあ。
日本人でよかった!
考えてみれば、今の俺の現状そのものがゾンビ映画なわけだな。
しかし銃は使わないし生存者グループには入らないし、美人な彼女もいなければ守るべき家族もいない。
俺の現実はz級ゾンビ映画だった・・・?
まあいいか、毎日楽しいし。
映画的面白さが詰まった日常とか、ターミネイトするロボットとかじゃなければすぐに死ぬ自信がある。
とりあえず爆発するわヒスババアが問題起こすわ集団は内部崩壊するわ・・・
嫌だなこんな毎日。
・・・やはり映画は映画だからこそ楽しいんだな。
ありふれた日常に感謝をしながら煙草に火を点けた。
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