第50話 後始末のこと

後始末のこと








奴らを片付け、生き残りがいないのを確認した後。


倉庫の裏に放置されていた、被害者の遺体を埋葬することにした。


ここは塀で囲まれているので、多少音を出してもゾンビに入ってこられる心配はない。


彼女たちにしてみれば、ここに埋葬されるのは嫌だろうが他に安全な場所もないため仕方ない。




重機があったので、これで敷地内の土を掘り起こそうと思ったが運転の仕方がわからない。


適当にガチャガチャやれば操作もわかるだろうと乗り込もうとする。




「私に任せてください。」




なんと、神崎さんが運転できるということなのでお任せすることにした。


俺よりたぶんだいぶ若いのに、人生経験が濃密すぎる。


自衛隊って凄いなあ。


・・・いや、たぶん神崎さんが凄いんだな。




倉庫の裏から遺体を抱えて運び出し、正面に並べる。


5人の遺体があった。


これより前のものは、奴らがどこかへ捨ててしまったのだろう。


・・・もっと早くここへ来ていれば・・・


いや、考えてもどうしようもないことだ。


知りようがなかったんだし。


俺は神様ではないのだ、手の届く範囲をなんとかするしかない。


それしかないのだ。




遺体の埋葬は神崎さんに任せることにして、いったん軽トラを取りに戻る。


猟銃やら火薬やらを運び出す必要があるしな。


神崎さんに声をかけ、敷地から出る。




道中ゾンビがいたので、後ろから忍び寄って首に剣鉈の峰を叩き込んで地面に倒し、脳天を破壊する。


・・・こいつらは動物と同じなだけ、さっきのあいつらよりだいぶマシだな。


楽しんで人間食ってるわけじゃなさそうだし。






軽トラにたどり着いたので、建設会社まで戻る。


正門を開けて駐車場に入ると、神崎さんの乗ったパワーショベルが地面を器用に掘り返していた。


かなり深く掘っている。


野犬とかに喰われたらなんか嫌だもんな。




ちなみに、この後には19匹の埋葬も控えている。


正直あんな奴らはそこらへんに転がして野ざらしにしてやりたいのだが、変な疫病でも流行ったら困る。


人間死ねばみな仏という言葉もあるし、とりあえず土には埋めてやろう。


・・・手も合わせないし冥福も一切祈らないが。




猟銃を回収する傍ら、奴らの死体を一つにまとめる。


後は適当に掘った穴に適当にぶち込んでおけばいいだろ。




回収した猟銃は全部で7丁。


本当は10丁あったが、トラックで轢いた結果3丁はバラバラになっていた。


・・・正面から切りかからなくてよかったな。


さすがに、開けた場所で10丁に狙われたら勝ち目がない。


弾丸はそこかしこに箱ごと放置してあったので、これも目につくものは全て回収。


避難所の火力増強に役立ててもらおう。




俺?別に使わないしなあ。


銃は音がデカいし弾丸がなくなればこん棒になり下がる。


ここが某お米の国なら話は別だが、銃持ちの敵はレアだし。


基本的に、奇襲闇討ち騙し討ちでなんとでも対応ができるしな。




火薬も残らず回収しておく。


俺は必要ないが、宮田さんや神崎さんなら何かの役に立てられるだろう。


倉庫内にあった台車に積んで軽トラへ運ぶ。


20袋あった。


多いのか少ないのか皆目見当がつかん。


まあ残しておいて別のアホに使われても困るので残らず回収。




回収が終わるころ、ちょうど穴が掘れたようなので神崎さんと合流。


被害者のご遺体を穴の底まで運び、上から神崎さんに土をかけてもらう。




「南無阿弥陀仏・・・」




目の前に向かって手を合わせる。


俺の横では神崎さんも同じように合掌している。


念仏なんて知らないけど、気持ちは込めたので成仏してくれよな・・・


アイツらは残らずブチ殺したんだからさ・・・




少しの間死を悼んだ後、19匹の死体を適当に掘ってもらった適当な深さの穴に適当に放り込んで適当に土をかけてもらった。


こいつらなんざこれでも上等だろ。


上にコンテナでも置いてやろうかと思ったが、そこまでするのも疲れるし馬鹿馬鹿しい。


もうこいつらには1カロリーすら使いたくない。






「お疲れ様です、神崎さん。助かりましたよ・・・」




「いえ、たまたま免許を持っていただけです。お役に立てて何よりです。」




神崎さんは手慣れた様子で、荷台に置いていた猟銃を操作して弾丸を抜いていく。


へー、そんな風に入ってるのか。


チャキチャキ音がしてかっこいいなあ。


映画みたい。




「あ、あの・・・何かありましたか?じっと見つめられるとその、困るのですが・・・」




「あー、すいません。なんかアクション俳優みたいでカッコよかったもんで・・・」




「・・・ソウデスカ。」




おっと、見すぎたようだ。


神崎さんがジト目で睨んできた。


いかんいかん、セクハラになってしまう。




さて、この場所はどうしよう。


うーん、神崎さんに頼んで吹き飛ばしてもらってもいいけど・・・




「重機やトラックは貴重です。ここは避難所に戻って、宮田巡査部長と相談ですね。」




そういうことになった。






帰る途中にコンビニにでも寄ろうかと一瞬考えたが、荷台に危険物を満載していることを思い出してやめる。


一応幌で隠してあるけど、用心に越したことはないな。




「田中野さん、返り血が跳ねてますよ。ほら、襟のところです。」




「あーほんとだ!・・・脱いどかなきゃな。美玖ちゃんに心配されちゃうなあ。」




「上着の袖の所にも・・・右腕のそれ、銃創じゃないですか!?」




「えっ。」




「そこ!そこの駐車場に停めて下さい!早く!!」




「ヒエッ了解です!!」




急いで駐車場に車を入れる。


車を停めるとすぐに神崎さんがベストのジッパーを下ろしてきた。




「ちょちょちょっと神崎さん自分で脱げ、脱げますから!」




「いいですから!」




わちゃわちゃしているうちにあっという間に上半身を裸にされてしまった。


右腕をじっくりと観察されている。


すごく恥ずかしい。


あの・・・あんまり近づかないでもらえると助かるんですが・・・汗すっごくかいたし。




「・・・散弾がかすった傷ですね。心当たりはありますか?」




「あー、はい。躱したと思ったんですが・・・」




見れば、肘の上が少しだけえぐれて出血した跡がある。


全然痛くないしわからなかった。


興奮していたからかなあ?




「激しく動いたので出血も多かったんですね・・・消毒しておけば大丈夫でしょう。避難所に行ったら保健室に寄りましょう。」




「いやあ、そこまでしてもらわなくても・・・」




「寄・り・ま・しょ・う!」




「ハイ。」




凄い顔で睨まれた。


いそいそと服を着て出発の準備をする。


ん?神崎さんも・・・




「あ、神崎さんも顔に血が飛んでますけど大丈夫ですか?ホラ鏡。」




ルームミラーを向けると、神崎さんは顔を写して確かめ、急に真っ赤になった。


おー、なんか初めて見たなこの顔。


見ているとバッと顔をそらされた。




「田中野さん・・・で、デオドラントシートありましゅ、ありますか!?」




「どうぞどうぞ。」




若いから身だしなみには敏感なんだなあ。


・・・俺もそろそろ髭を剃った方がいいかしら?


とにかく、そろそろ出発しよう。






その後は何事もなく、無事に避難所まで帰りつくことができた。


神崎さんは病院と通信をするので、後で保健室で合流しようと約束して別れた。


宮田さんに簡単な報告をした後、警官隊の皆さんに頼んで猟銃と火薬を運んでもらった。


その際に、宮田さんはこちらが申し訳なくなるほど感謝してくれた。


うーん、気にしなくていいのになあ。


ここが強化されればされるほど美玖ちゃんたちが安全になるんだし。




火薬は燃えにくい構造の倉庫に厳重に保管され、猟銃は校長室に鍵をかけて保管することになった。


両方ともしっかり施錠され、鍵は警官の中でも宮田さんたち上層部の階級が持つことになった。




「校長室かあ・・・あれ?宮田さん、そういえばここに元々いた校長先生は?」




ふと思ったので聞いてみる。


当初から指揮を執っているのは警察だけど、教師はどこ行ったんだ?


まあ生徒じゃないから私服だと見分けがつかないが。




「当日の朝、校長先生と教頭先生は市内へ出張で不在とのことですね。我々も今に至るまでお会いしていません。」




なるほど、そういうことか。


他の先生方は避難民の中にいる人、家族を探すと言って出ていったっきり戻ってこない人など様々らしい。




「まあとにかく、これでヤバそうな連中は1つ潰しましたけど・・・アレで終わりと言えないのが怖いところですね。」




「我々のように自給自足の生活を目指していなければ、よそから奪うしかありませんからね・・・」




これからも是非防御には気を付けてもらいたいところだ。




「猟銃7丁に弾丸まで提供していただいて助かります・・・1丁ほどお持ちになりますか?」




「ええ?いりませんよ重いし。防衛に役立ててくださいよ。」




警官にあるまじき提案だが、謹んでお断りしておく。


音がデカいから単独探索には不向きだもん。




「またなんか気になることがあったら教えますんで、そちらもヤバそうなのがいたら教えてくださいね~」




そう言って職員室から出る。


俺は適当に好きなように生きていければそれでいいのだ。




「おーじさんっ♪おはなしおわったー?」




「おっとと。やあ美玖ちゃん、終わったよ。」




職員室を出たところで美玖ちゃんが体ごと抱き着いてきた。


入るところを見ていたらしい。


そのまま職員室に入らず待ってたのかあ。


なんていい子や・・・親御さんの躾がよかったのだな。


この子の両親もなんとか見付けてあげたいが・・・役場と駅が職場だしなあ。


・・・今度秋月町の避難所に行く時に役場のことを軽く聞いてみるか。




「どしたのー?」




「んー?なんでもないぞぉ。ほーらたかいたかーい!」




「きゃはーっ!」




不思議そうに見上げてくる美玖ちゃんを持ち上げる。


そのまま横に回転させて肩車の体勢に。


美玖ちゃんはこれが大のお気に入りだ。


お父さんによくやってもらっていたらしい。




「田中野タクシーにようこそ!さて美玖ちゃん、どこ行く~?」




「う~ん、えっとねえ・・・美玖、映画見たい!」




「映画?」




「おじさんのプレーヤーで見たいなあ。」




プレーヤーも適当なDVDもいつも持ち歩いてるから問題ないが・・・


あっ!?美玖ちゃん用に確保していたDVD、渡し忘れてた!車に積んだままだ!




「いいけど、晴れた日は映画が見られるようになったんじゃなかったっけ?」




宮田さんがこの前話していた。


図書館に置いてあるモニターで、時間を決めてソーラー由来の電気で映画やDVDを見られるようになったはずだ。


何でまた俺のプレーヤーで?




「・・・美玖、おじさんといっしょに映画見たい!」




美玖ちゃんが俺の後頭部をぎゅっと抱え込んでくる。


・・・たまにしか来ないからさみしかったのかな?


俺の父性本能がぐんぐんゲージを溜めてくる。




「・・・よーし!まかせろ美玖ちゃん!!今日はお土産もあるぞー!!」




「わーい!」




そのまま軽トラまでダッシュし、例のDVDの袋を確保。


肩車状態で保健室に走り込んだ。


避難民や警察の方々にすっごい見られた。


知るか!俺は美玖ちゃんと映画を見るんじゃい!!




ソファーに2人で座り、プレーヤーをセッティング。


いつでもどこでも暇が潰せるように常に充電はMAXだ。




「美玖ちゃん、どれにする?」




「あっ!美玖このネズミさんとネコさん大好き!」




前回ホームセンターで回収したDVDは全てそれだ。


仲良く喧嘩しなというアレである。


美玖ちゃんはうんうん唸っている。




「美玖ちゃん、それはここに置いていくからいつでも見られるよ。」




「や!これはおじさんといっしょに見たい!」




いちいち心に突き刺さることを言うねこの子は・・・


なんちゅういじらしい子や・・・


思う存分選びなさい。


保健室に安置していって、来るたびに見てもいいな!




美玖ちゃんが選んだDVDをセットし、ソファーに並んで座る。


2人はぴったりとくっついている。




「あの、美玖ちゃん・・・おじさん汗臭いでしょ?」




「んーん?美玖、このにおいすき!はたらきもののにおいだっておじいちゃんが言ってた!」




おっちゃん・・・いいこと言うじゃないかよ!


見直したぜ!!




その後は2人でネコとネズミの喧嘩風景を見物した。


連作短編がいくつか入った1時間程度の短いものだったが、美玖ちゃんは楽しそうにリアクションを取っていた。


こんなに力いっぱい喜んでもらえると、探してきた甲斐があったというわけだ。






「すみません田中野さん、少し長引きまして・・・あら。いいお父さんですね。」




「相手もいないのにいきなり娘ができちゃいました。」




神崎さんが入ってくるなり様子を見てクスリとほほ笑む。


現在美玖ちゃんは俺の膝でスヤスヤと寝息を立てている。


DVDを見終わって話していると、急にうとうとし始めてすぐに寝入ってしまったのだ。


寝る子は育つって言うしな。


俺の膝でいいならいくらでも枕にするがよかろう。




美玖ちゃんを起こさないように気を付けながらインナーをまくる。


しかし微妙に傷が露出しないので、恥ずかしいが上半身裸になる。


神崎さんは持ってきた救急箱から消毒液やガーゼを取り出しつつ、俺の右に椅子を持ってきて座る。




「しかし、よく鍛えてらっしゃいますね・・・」




「す、スタ〇ーンに憧れていたもんで・・・」




なんか直球で褒められるとこそばゆい痛ぁ!


結構しみる!消毒液が!




「おにいさーん!美玖ちゃんいなキャアアアアアアアアアアアアアアア!!」




「こんにちは田中野さキャアアアアアアアアアアアアアアア!?」




「うわあああああああああ!?!??!?!?」




「にゅ!?なになになーに!?」




がらりと入ってきた由紀子ちゃんと雄鹿原さんは俺の裸をみて絶叫。


俺も悲鳴を上げて、その勢いで美玖ちゃんも起きてしまった。


ああもうしっちゃかめっちゃかだよ!!






その後、冷静な神崎さんの説明によってなんとか性犯罪者にならずに済んだ。


済んだが、今度は傷を知った3人に大変心配されるおまけ付きとなった。


神崎さんと口裏を合わせ、釘に引っ掛けたということにして事なきを得た。


いやーちょっとバーンと撃たれてねえ、なんて言えるわけないしな。




「わー!すっごーい!おじさんのおなか、チョコレートみたい!」




「おにいさん鍛えてるんだねえ・・・ち、ちょっと触らせてー!」




「わ、わた、私も・・・!」




「でしたら私も。」




やめて!羞恥心で死んじゃう!!

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