第3話 死にたいという言葉は、生きたいという最大の叫びである。
モドキ「私も軽率に死にたいって言っていれば、誰かに守って貰えたのかな」
ハグレ「簡単に死にたいとか言うもんじゃねえよ? 言われた方はどうしていいか分からないし、それに、お前が死んだら悲しむ奴だってたくさんいる。そいつらに対して、軽率に死ぬだなんだって言うのは、失礼だとは思わねえ?」
モドキ「だからさ、そういう人達って、自分が死んで悲しむ人達に、〝生きてるうちに〟悲しいんだよって言われて構われたいんでしょ。だから死にたいって言う」
ハグレ「くだらねえー。そんなみくだされているような言葉になんの意味があるっつーんだよ」
モドキ「まあそうなんだけどさ。私も同情されるの嫌いだし。ただ、死んだら嫌だ――悲しいという言葉を、愛情だと区分して誰かに依存することで、自分は肯定されているっていう安心感を得る、って言うロジックも分からなくはないのよ。だって、弱いままでいる、という〝最大の強み〟を受け入れてくれる絶対的な味方がいる訳だから、生きていくうえでそれはこの上なく生きやすいはずだもの」
ハグレ「うん? 結局、ソイツは生きたいのか?」
モドキ「あのね、死にたいっていうのは生きたいっていう最大の叫びよ。自分が生きるために吐く最大の嘘。それを平気で吐き散らかせる強かさの表れ。そして、弱いことを武器に自分の責任を他人に押し付けることが出来るだけの狡猾さを持ってる。私には無いものだわ。責任を分割できる強さが、羨ましいとさえ思う」
ハグレ「お前は死にたいなんて言わなくても――そんなことをしなくても味方がいるじゃねーか。お前は見るからに強くて、そして自立心もあって、何より嘘をつかないだろ。それは味方になるうえで大切なことじゃん。そんな生き方をしているお前は、死にたいなんて言わなくても人から無碍にされることは無いはずだろ。強さを体現していれば、自ずと味方が――支持者が現れるんだからよ」
モドキ「強さっていうのはね、形がある方がおかしいの。だから、形ある強さっていうのは虚像なのよ。見るからに強いのは、見るからに弱いのと同じぐらい嘘っぱちよ」
ハグレ「俺は強いぜ? 死にたいなんて思わ無いぐらい、強さを体現出来て余りあるぐらい、俺は――俺も、俺の家族も友達も、強い」
モドキ「突然00みたいな言い方するわね。何、あなたガ〇ダムにでもなるの? すごいFセイエイ感」
ハグレ「お前な.......! こっちは真剣にお前の話聞いてんだから茶化すな!」
モドキ「ええ? そもそもココでの会話は、適当なものなのよ。適当な戯れ言でしかないのだから、片手間で聞き流すのが正解だと思うのだけれど」
ハグレ「題材にもよるだろーが。今のお前の話は、戯れ言なんかじゃねえだろ·····」
モドキ「ふふ、戯れ言だと思ってくれた方が嬉しいわ。まあ、あなたの強さって、そういうところよね。何事にも真剣にまっすぐで、責任云々の話をした時に迷いなく〝俺達は〟って言えるところだと思うの。強さだろうが弱さだろうが、〝分割すること〟を厭わない。自分のものも他人のものも、背負うことも背負わせることも、厭わないのよね。私が最初にあげ連ねた人とは方向性は違えど、責任を分けられる、人に弱さを見せられるという点では、同じ強さだわ」
ハグレ「俺はなあ、お前のものだって背負う覚悟くらいあるんだぜ。俺達は友達なんだからよー」
モドキ「私に、その覚悟はないからお断りしておくわ。私は弱いから、あなたの言葉に全幅の信頼は寄せられないし、責任は自分の物しか背負えないし、他人に背負わせたくない。私の弱さを人に任せるほど、私は弱くないし強くないの」
ハグレ「なら、最初の疑問は破綻すんだろーが。お前が死にたいって言ったところでどうにもならねえじゃんそんなの」
モドキ「そうなのよ。だから「やってみたい」「言ってみたい」って思うの。悲劇のヒロインを演じて泣きべそかいてみたら、普通の人みたいに好かれるのかな――って、想像して満足する。そんな風に私でも普通になれるかもって思ってないと生きていけないわ。そうやって――未来に期待しないと生き続けられないのよ」
ハグレ「そんなあやふやな理想じゃなく、今現在の現実に期待して行動しないと何にもならないんじゃねえ? 結局それは、妄想でしかないし身にならないじゃんか」
モドキ「今を打破するために無鉄砲になれってこと? そうして起きるであろう人間関係やらなんやらの問題を、今の私は対処できやしないわ。私のせいじゃないことも私のせいって言われやすいのに、私が本当に私のせいで問題を起こしてどうするの?」
ハグレ「.......それこそ、他人に分かってもらうのが一番じゃん、友達とか――ナニカとか」
モドキ「まあ、いいわ――別に相談でもなんでもないんだから。私の言葉なんて、机上の空論で、架空の理想よ。そんなものに結論を出そうだなんてほうが、ナンセンスってものでしょう。理解されたいとか、私が今からそうしたいから協力してほしいとか、そういうことじゃないの。ごめんね、言ってみただけよ。どうでもいい会話がしたかったの」
ハグレ「待てまて、俺は煮え切らねーぞ」
モドキ「なんか眠くなったからナニカのベットかりましょーっと。ナニカ〜お邪魔しますねー」
ハグレ「おい! こら! 自由か!!!」
ナニカ「ん?」
モドキ「お布団かして、お昼寝したいの」
ナニカ「いいよ、行ってらっしゃい」
ハグレ「いや、ナチュラルにいなくなんな! 話の途中だっつってんだろーが!」
ナニカ「まあまあ、休ませておやりよ。またモドキの戯言に付き合ってやっていたんだろう? ハグレは全力で対話をしてくれるからモドキも楽しいんだろうね。ナニカはしてあげられないやり取りだからなあ、羨ましいよ」
ハグレ「ううん.......。いや、うん、そう言われると、このポジションも悪くないと思ったりしちゃったりするけどよ.......。なーんか煮え切らねーなあ」
ナニカ「今回はどういう話をしていたんだい?」
ハグレ「死にたいとは生きたいという最大の叫びだ、って彼奴は言った」
ナニカ「そうなのか、人間は〝言葉とは裏腹に〟なんて言うから、そうなのかもしれないね」
ハグレ「そういうんじゃねえよ。いいか、ナニカ。本当に本当に死にそうな奴っていうのは、死にたいなんて周りにいう元気すらねえもんなんだ」
ナニカ「心当たりが?」
ハグレ「さあてどーでしょう。まあ、これはアイツの受け売りっちゃあそうなんだけどよ、死にたいって言って止められたら生きていられるうちは、人ってのは図太く生きてるもんなんだろうよ」
ナニカ「なるほど、否定されたいが故の反語、か」
ハグレ「そうそう。で、俺は思っちゃうわけよ。じゃあ――あいつの〝未来に期待しないと生き続けられない〟って言葉は、何よりも未来――いや、もう現在、過去、未来にすら絶望してコロッと死んじまいそうな叫びなんじゃねえのかなって」
ナニカ「もしそうだとしても、モドキには干渉できないよ。モドキがハグレやナニカを信じて手を伸ばすまで、見守るしかないんだ。やきもきするかもしれないけれど、無理やり腕を引いて、ここへ二度と来てくれなくなるよりは、こうやって小出しに強気な言葉を吐いていってくれるほうが、ナニカは安心する」
ハグレ「うーん.......。難しいなあ」
ナニカ「ふふ.......そんなモドキだからこそ、ハグレは面白いと思ったし、ナニカは大好きになったし、他の人間みたいに裏切ったりしないと信頼できるんだろう? 決して押し付けてこない、それなのに世話は焼いてくれる、弱々しく背筋を伸ばす彼女のことが、ナニカ達は大好きなんじゃないか」
ハグレ「だ、大好きではねーよ!」
ナニカ「ふふふ」
後書きと補足と言い訳となんやかんや。
誰かの悪口、何かに対する弱音、死にたいという言葉、それらを駆使して自分を弱く見せる達人というのは一定数いますよね。
「自分は悪くない」と周りに思わせることができる口調、言い回し、考え方にいたるまで、完璧に使いこなせている人を見るとすごいなと思います。
弱さを出すと、そこに付け入られて虐められ、教師や上司などに相談するといつも「弱さを見せるほうも悪いのでは」とお叱りを受けていたので、どうやって弱さをメリットにすることができているのか、本当に謎です。
すごいなあ。
さて、今回のテーマである「死にたいという言葉は、生きたいという最大の叫び」ですが、これは前述の被害者ヅラの天才達――すなわち俗に言うメンヘラの人達を見て思ったことです。
自分は不幸だ、死にたい、そう口々に言い、他人に不幸マウントをとる様はずる賢く、それでいて強かに見えました。
少しでも自分の方が〝不幸ではない〟という危機に陥ると「私程度で不幸ヅラしてるなんてダメだよね」などという言葉で周りの同情を誘うその機転のきかせ方、とんでもねえなと思ったものです。
私は人生において、弱さを見せることが許されなかったぶん、そのやり方を知りません。
知らないからこそ、羨ましくて――妬み嫉みを含んで見てしまう。
私はそんなすごい人達のことが――
――本当に本当に、とてもすごく、
――大嫌いです。
私だってそうなりたかった。
泣きわめくことも出来ないまま大人になった私の、嫉妬心からくる話でした。
ありがとうございました。
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