三月十九日 深夜 呉にて
【艦霊】というモノは人の形をしているだけで人ではない。なので人の法やルールを無視しても、特に何の構いもしない。ただ、こんな深夜に人影を一般人に見られると、あらぬ疑いをかけられてしまうというだけだ。「見つかったっておばけで通せばいいんだよ。 似たような物だし」というのはこの港を母港としている某掃海母艦の言である。
「のとじま」
重工のすぐ横の岸壁に繋がれた艇に向かって、その艇のかつての名前を呼びかける怪しい人影。もちろん廃された艇は応えることはない。人影……【すがしま】は切なそうに顔を歪め、慣れた動作でひょいと艇に乗り移った。まだ使える部品のすべてを取り、寂しくなった掃海甲板の上。剥げてひび割れたペンキと所々露わになった木目がとても痛々しい。
「のとじま」
【すがしま】は事故で抉れへこんだ所に手を当てもう一度呼びかける。抜け殻の艇は何も語らない。
「そうだよな」
【すがしま】の呟きに同調するように、どこかの桟橋が軋む音だけが寂しく響いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます