episode.3 アバター作成(保護者同伴)
「……怖い」
「いいから覚悟決めろって」
合流した椿に背中を押されて、
再び男性型AIの目の前に立つ月草。
男性は先程と変わらず、看板を掲げたまま月草に視線を向けている。
「えーと……」
「……」
「その、あの……」
「……」
目を合わせることもできず、もじもじとしながら立ち尽くす月草。
後ろで呆れながら眺める椿は、親友の絶望的なコミュ力に軽く目眩を起こしている。
(HELP!!)
(あ・き・ら・め・ろ)
保護者に助けを求めるも、こればかりは自分でやってもらわないと困る。
というかこれでつまづいていると大人数が集うVRMMOの世界に入るなんて夢のまた夢。
ここは心を鬼にして……と思った所で月草の正面で律儀に待機していた男性AIが動き出した。
「――ようこそ!輝ける冒険の世界『Life Over Online』へ!」
「ひえッ!?」
あの小声でも反応できるのかー。と呑気にその辺に胡座をかいて座る椿。
「――この度は『Life Over Online』をお買い上げ頂きありがとうございます!私はキャラクタークリエイト及びゲームのチュートリアルを担当させていただきます、男性型サポートAIのジョンソンです!よろしくお願いします!」
「は、はいィ!おおおお願いします!」
怒涛の勢いでまくし立てるジョンソンのテンションについて行けない月草は、すっかりパニックになっている様子だ。
「あー、落ち着け落ち着け。ステイステイ」
「無理ですゥ!」
「別に形だけ人間ってだけで中身は自動販売機みたいなもんなんだから力むなって」
流石に見ていられなかったのか、
胡座をかいたまま月草を落ち着かせる椿。
椿が言ったように、今目の前で満面の笑みを浮かべているジョンソンはAIの分類としては大分機械よりの思考回路をしている。
受け答えはするが、それだけしかしない。
運営はキャラクタークリエイトのサポートにそこまでリソースを割く気が無いのだろう。
それほどゲームシステムに自信があるのか、はたまたリソースを割く余裕が無いのか。
少なくとも椿が見る限り、システム面は今まで遊んできたVRMMOとそこまで変わり映えの無いものだったはず、と思考していると……
「――以上が、Life Over Onlineの概要となっております!ここまでで何かご質問等はございますか?」
「あ……」
挙動不審な月草に構わず話し続けていたのか、いつの間にか説明が終わっていた。
AIの機能なのか、説明を終えたジョンソンは両手を胸の位置まで掲げると、手のひらから『YES』『NO』と2つの選択肢を出現させる。
「あー、概要は後で公式サイトで確認すれば良いだろ。先にキャラクタークリエイトやっちゃえよ」
「わ、分かりました」
おっかなびっくりとジョンソンの右手に浮かぶ『NO』のアイコンを選択する月草。
「了解しました。では早速お客様のキャラクタークリエイトを始めさせていただきます!
キャラクタークリエイトには1からキャラクターを作成する『カスタムクリエイト』とお持ちのVR機器で設定済みのマイアバターを使用する『シンプルクリエイト』がございます」
ジョンソンは再び両手を掲げ、先程と同じように2種類のアイコンを提示する。
「ど、どちらがいいんでしょう?」
「マイアバター持ってるならシンプルクリエイトでいいと思うぞ。確か持ってるだろ?」
「持ってます持ってます」
「じゃあそれで」
「なんか段々おざなりになってませんか……?」
適当に相槌を打つ親友に若干の不安を覚えながら『シンプルクリエイト』を選択。
「了解です。ではマイアバターの確認をさせて頂きます。少々お待ち下さい……マイアバター認証完了しました。アバターを表示します」
ジョンソンの右隣りに電子的なエフェクトと共に月草のマイアバターが表示される。
月草と同じ身長体重、同じ体型、同じ顔。
異なる点といえば数年前にスキャニングして作成したアバターだからか、髪の長さが現在の月草より少し長めだった。
「お前本当にそのアバター使ってたんだな」
「ええ、スキャニングするだけで作れるから楽だったんですよ?」
「顔バレとか気にしないのな……その辺注意しとかねぇとなぁ……」
カスタム用のウインドウが正面に出現したが、アバターの容姿に特に気にすることも無かったので変更することなく仮想ウインドウの確認完了ボタンを押す。
その瞬間。ブーーーッ!!!と甲高い音のアラームが鳴り、先程完了ボタンを押したウインドウが再度表示される。
「な、何ですか?」
「どした?」
「完了ボタン押したらアラームが鳴っちゃったんだけど……」
「ん?どれどれ〜?」
立ち上がり月草の方に寄る椿。
ウインドウを確認するとそこには『個人情報漏洩の可能性がある為、容姿の変更が必要です』と大きな赤文字で表示されていた。
「このままだと個人情報バレるからカスタムしろってさ」
「カスタムって言われても……」
「俺もそこまで変更してないから大丈夫だろ。とりあえず変えるとしたら……髪色とか、瞳の色だな」
ちょいちょいと慣れた手つきで月草の手を取りウインドウを操作する椿。
左肩に顎を乗せて寄りかかる姿は見る人が見れば百合の花が舞う空間を幻視しただろうが、もはや日常となっている2人には自然体の姿だった。
むしろ月草は普段寄りかかられることが無い為若干VRの身体の丈夫さに感謝しているまである。
「髪色は何がいい?」
「何色があるんですか?」
「色々あるぞ〜。赤青黄、金銀に虹色なんかもあるし」
「折り紙みたいなカラーバリエーションですね……虹色とか使う方いないでしょうに」
「それが意外といるんだなぁ」
「何故に……?」
「目立ちたがりは多いってことさ……で?ご希望の色は?」
「あー、落ち着いた色がいいですかね。黒とかグレーとか」
「地味だから却下。じゃあブルー系で見てみるか」
「椿ちゃんも黒髪の癖に……」
パレットを操作してブルー系の色のみを表示させる。
紫系が混じった鮮やかな青から、空色のような明るい色まで多種多様な青が広がる。
その中に1つ。月草の目に留まった1色があった。
「あ……」
「なんだ?気になる色あったか?」
「いえ、ただ……その、露草色が見えたもので、つい」
「露草色?このコバルトブルーっぽい色のやつか?」
「ええ、元々私の名前である月草は、その露草の古い呼び名から取ったんだそうです」
「じゃあ丁度いいから髪はこの色にしようぜ」
「ええ……」
「ホイホイっと」
「ああ、勝手に設定してるぅ……」
目の前のアバターの髪色が黒髪から露草色の鮮やかな青に変わる。
「んで、次は瞳の色だなー」
「派手過ぎない色でお願い……」
「髪色の対色は赤っぽいオレンジだけど流石に合わんよなぁ。淡いピンクとかが良いかもしれん」
「ああ、どんどんパレットが鮮やかなピンクに……」
「珊瑚色とかいいんじゃね?ほれ」
「……確かに綺麗だけど」
「じゃあこれで決定っと」
「判断が早い……」
そういえばこの娘通販とかもサクサク進めちゃうタイプだった……と為すがままに選択ボタンを押す月草。
アバターの瞳が、暗い茶色から珊瑚色に変わる。髪色と合わせると海のような造形に仕上がっていた。
「取り敢えずこれで大丈夫だろ。いざとなりゃあ課金して作り変えられるみたいだし」
「課金は得意ですよ。私」
「キリッとしながら言うな」
完了ボタンを押すと今度はアラームも鳴らず、カラーパレットを含めたウインドウが消失する。
余談だが月草も課金の概念は知っているし、一応親からクレジットカードを預かっている。一度椿に見せたらドン引きされたが。
「――アバターを認証しました。では続けて種族とスキルの選択をしていきましょう!」
「……一旦休憩していいですか?」
「『YES』っと」
「椿ちゃぁん!?」
まだまだキャラクタークリエイトは続くようです……
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