[6章1話-2]:ヒントはわたし!?




『佳織、ルート作りお願い!』


 そんな茜音の無謀とも言える頼み。でも、佳織も親友の気持ちは十分に理解できたから、それに応えると約束をした。


 期間は期末試験が終わった翌日から、採点休みや週末、場合によっては学校を休んでまでの強行軍とした。


 菜都実や佳織も参加を申し出たが、さすがに学校を休むことを覚悟するだけに、直接関係のない二人を巻き込むわけには行かない。


「まぁ、大体のルートは決まったけどさ。今回はローカル線も多いから、1本逃したらアウトってとこも多いから注意しなさいよ」


「うん、気をつける」


 残留組二人は仕方なく、逐次茜音から送られてくる情報を元に、次の指示を出す役目に回った。これであれば、たとえ学校にいたとしても休み時間の間にも茜音に最新情報を渡すことができる。


「それにしても、ここまで手こずるとは思わなかったなぁ」


 菜都実は笑っているが、一番それを痛感しているのは、当然茜音本人である。


「そうだねぇ……。もうちょっと早くから探しておけばよかったなぁ」


 そうは言うものの、さすがに、ここまで全国を飛び回る旅はこの歳になってようやく許されたものだ。


「そういえば、佳織に一つ聞きたいことがあったんよ」


「なに?」


 時刻表を睨んでいた佳織に菜都実が声をかける。


「どうして、最後に東北を残したわけ? 前から佳織、本命の地区だって言ってたけど」


「そういえばそうだね」


 昨年の夏に探し始めた頃は三人とも場所の検討もつかず、これまであちこちに足を延ばしたけれど、今年のゴールデンウィークを直前にして、突然佳織は東北に重点を置き始めた。


「もっと、早く気づけばよかったの。茜音の目的地が多分東北だって」


「ほえぇ。どうやって?」


 佳織は、茜音の頭に手をやって続ける。


「茜音がいた施設は、おそらく関東のどっかだからだよ。それも結構南部だと思う」


「なんでぇ?」


 茜音自信も自分がどこの施設にいたのか、はっきりと覚えていない。それが分かるだけでもかなりのヒントになったはずだった。幼かったことと、今とは違い土地勘もなかった。残念だけど仕方のないことだ。


「それはねぇ、茜音の言葉で気がついたのよ」


「ふえぇ?」


「そんな情報聞いたこともないっ!?」


 驚く二人。もちろん、当の本人もそこにヒントがあるなどとは夢にも思っていない。


「私も、最近になって気がついたんだけどね。茜音って口癖はあるけど、言葉の訛りっていうか方言はないのよ」


「確かに……」


「そうかなぁ?」


 仕方ない。言葉の訛りなんてものは自分では気にしているようなものではないから、第三者でないと気づけない。


「あっちこっち旅して分かったんだけど、茜音の発音はそうなのよ」


「んでも、茜音んちは厳しいからそれで矯正されたんじゃないの?」


「最初はそう思ったんだけど、でも、茜音ってあの夏までは当時の自宅と施設で育ったんだよね?」


「う、うん」


 まだよく理解はできないものの、事実なのでうなずく。


「だったら、それまでに覚えた言葉ってなかなか直らないと思うよ。少なくとも茜音が津軽弁とか関西弁を話したことって無いでしょ?」


「確かにそうだわ」


 菜都実も腕組みをしてうなる。確かに自分たちが関東の言葉を話している中で、もし茜音が地方の言葉を発していれば、出会った当時にかなりの違和感を感じたはずだ。


「そうなると、比較的癖がない関東で、茜音の家の躾だとすれば、不自然さはないわけ。そんで、夜のうちに出発して、朝方人気のないところを走れる鉄道の路線となると、東北ならいくらでもあるわけよ。東海道方面は結構大都市が多いから」


「なるほどぉ。もう少し早く気づけなかったもんかねぇ」


「そもそも東北のローカル線は怪しいなと思ってたんだけど、それに確信が持てなかったのよ。最後の手段かもしれないけどとは思ってたけど」


 そんな佳織の説明も、結局は「100%の自信は無いけどね」というものだった。


 それでも、どんな些細な情報、ヒントでもかまわないというのが今の状況だったから、方針として1つ固まったのは多少の気休めにはなる。


 もちろん、これまでにも協力してくれたメンバーや、ネットからの情報をベースに全国の候補地をつぶしていくということは必要だったから、それは残留組の仕事だと菜都実は押し切った。

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