6章 Final Approach

[6章1話-1]:あの日まで、あと1か月…

【茜音 高校3年 6月】




「このルートだと、こっちの線に乗れないしなぁ……」


「こっちは幹線だから、可能性としては低いと思う。航空写真見てもそれっぽいのないし」


 喫茶店ウィンディの閉店後。茜音、菜都実、佳織の三人が地図帳と時刻表を広げてすでに約1時間が経過している。


 時刻は夜11時を回っているけれど、土曜日の夜でもあったので、閉店作業はマスターである菜都実の父親に任せ、ウエイトレス役の三人はテーブル上の備品や掃除などの仕事をひととおり片づけると、店の一番奥にある三人が勝手に会議室と名付けた四人がけのテーブルに集まって、タブレットを手元にさっきからひたすらメモを書いている。


「ふわぁ。なかなか難しいねぇ」


 ガタンと椅子をならして立ち上がった茜音は、仕事の時間からつけっぱなしだったエプロンを外し、大きく伸びをした。


「信越と東北って列車の本数が少ないから難しいんだよこれが」


 時刻表から顔を上げた佳織も一息をついた。


「正直、これが最終戦だからなぁ。多少の無茶は承知なんでしょ、茜音?」


「うん。もう学校休んだどうこうとは言ってられないし」


 高校3年生となり、春休みやゴールデンウィーク、果ては修学旅行を使ってまでの茜音の旅は大詰めを迎えていた。


 とにかく雪の多い地区は避け、西日本、九州をやむなく一部手分けをして駆け抜け、そのほかの地区も四国を千夏に、信州と中部地方を理香と清人、北海道を家族旅行で回っていた萌、箱根や日光など関東の山間などは真弥にお願いしたり、それ以外にもSNSの力も借りながら情報を集めた。


 その結果、残る地域は東北地区だけとなっている。


 それは佳織の意見としても、一番可能性の高い地域でもあり他人任せではなく、直接回れる時期が来るまで最後に残したのだという。


 残されている時間はあと1ヶ月。1学期の期末試験を終えれば夏休みに入る。あの写真に印字されている日付では、この年の夏休み3日目があの日から10年となる。


 現実的な話、高校3年生となった三人とも目前に迫る期末試験の対策に抜かりはない。放課後は店の夜の部ギリギリまでは佳織を先生とする勉強会が開かれている。


 その後の夏休みの間には最終の進路決定もしなければならない。


 しかし、茜音はたとえそれらを考える時間や寝る暇を削ってでもしなければならないことがあった。


 自分に与えられている時間はわずか1ヶ月。平日は学校があり、祝日もなく動けるのは週末だけという6月になっても、まだはっきりとした手がかりをつかむことができない状態では十分な時間とは言えない。


 そこで茜音が考え出した最後の手段は、フットワークが軽く、多少の無理もできる一人旅で、これまで回ることができなかった未踏破地域の一掃を行うことだった。

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