7話「ボウフラ入りの水」

喉が渇いたのでお茶を頼んだら、若いメイトが壊れたかけたティーポットにボウフラのわいた水を入れて持ってきた。


この家の使用人はろくな奴がいない。


メイドは私の部屋を見ても眉一つ動かさなかった、メイドにはボロボロの部屋に見えているようね。まやかしの魔法はちゃんと効いているようだ。


これがかつて赤い魔女と言われ大陸中で恐れられた私の実力よ。


時を戻す魔法をかけてティーセットを新品にし、ボウフラのわいた水も新鮮な水に戻す。


炎の魔法でお湯を沸かし、魔法袋から取り出した茶葉を入れる。


アールグレイの香りが鼻孔をくすぐる。


「美味しい……けど何かが違う」


そこそこ美味い、でも最高ではない。


「エミリーの入れてくれたお茶と、エミリーが焼いてくれてお菓子が恋しいわ」


アップルティーにアーモンドクッキー、カモミールティーにマカロン、オレンジペコにパウンドケーキ、ダージリンティーにシフォンケーキの組み合わせが懐かしい。


婚姻届には侯爵とローザの名前を書いた、執事長が城に婚姻届を出せばあの二人は夫婦。


エミリーが侯爵家に嫁に行くことはない、私が子爵家に帰ってもなんの問題はない。


ただひとつ知りたいことがある、侯爵家の人間がエミリーにどんな嫌がらせをしようとしていたのか確認する必要がある。


虐めの程度によって、奴らへのお仕置きの仕方も変わってくる。


奴らの命までは奪うつもりはない。


顔中をニキビだらけにするとか、頭痛や腹痛や腰痛で苦しめるか、幻覚を見せたり、幻聴が聞こえる程度の呪いに留めるつもりだ。


エミリーに化けた私にどの程度の嫌がらせをしたかによって、呪いを継続する期間を変える。短くて一年、長くて一生。


エミリーの焼いたお菓子を思い出したら、お腹が空いてきたわ。


「そろそろ夕食の時間ね」


【白い結婚物】の小説だと、腐ったスープとカビの生えたパンを出されるのが定番だ。侯爵家ではどんな食べ物が出てくるのかしら? 楽しみね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る