2話「跡取りのあなたがどうしてお嫁に行くの?」
「エミリーは子爵家の跡取りでしょう? どうしてお嫁に行くの?」
エミリーは一人っ子だ、子爵家はエミリーが継ぐものだと思っていた。
そのために今日まで領地経営の勉強をしてきたのではないのか?
「格上の侯爵家からの求婚で断れなかったのです」
「そんな……子爵家はどうなるの?」
「父方のいとこのギャレンが継ぎます。ギャレンにも魔女様を大切にするように伝えますから、魔女様は心配なさらないで下さい」
ギャレンは科学オタクで「魔女なんていない、魔法などまやかしに過ぎない」という考えを持っている。
ギャレンが当主になったら食っちゃ寝生活が出来ない……! 確実に追い出される!
そんな……! せっかく手に入れた三食おやつと昼寝付き、薔薇色のぐーたら生活が……!
それにエミリーの幸せはどうなるの?
「侯爵家にお嫁に行くなんてだめよ!」
「ですがもう決まったことです……」
そう言ったエミリーの顔は悲しみに満ちていた。
だめエミリーにこんな顔させられない、エミリーには笑っていてほしい。
エミリーには好きな男と結婚してもらいたい。
「フォンゼルのことはどうするの、好きなんでしょう?」
「それは……」
フォンゼルは男爵家の次男でエミリーの幼馴染。四年前騎士見習いとして王都に上がり、今は第二王子の近衛兵をしている。
フォンゼルがエミリーが結婚し婿養子になれば、私をこの屋敷から追い出されなくて済む。
「フォンゼルは騎士として活躍して手柄を立てたら帰ってくるって言ってたじゃない、フォンゼルが帰ってきたときエミリーが他の男と結婚していたら絶望するわ」
「フォンゼル様……」
エミリーが泣きそうな顔でフォンゼルの名を呼ぶ。
エミリーとフォンゼルは幼馴染で、幼い頃からお互いを特別な存在として認識していた。
男爵家の次男という身分にコンプレックスがあるフォンゼルは、騎士として手柄を立ててから、エミリーと結婚したいらしい。
フォンゼルのアホ! だからといって婚約もしないで王都に行く奴がいるか! フォンゼルがエミリーと婚約していたら侯爵家の横槍なんか入らなかったのに!
エミリーを裏切って他の女と王都でイチャイチャしていたら、祟り殺すわよ。
「フォンゼル様のことを幼い頃からお慕いしておりました。できるならフォンゼル様と結婚したかった……でも侯爵家に逆らったら子爵家は……」
子爵家がなくなるのは困る、三食昼寝付きの生活が出来ない。
「この結婚は私だけの問題ではありません、子爵家の存続にも関わっているんです」
苦しそうに俯くエミリー、なぜあなたがこんなにも苦しまなくてはいけないの?
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