「財産目当てに子爵令嬢と白い結婚をした侯爵、散々虐めていた相手が子爵令嬢に化けた魔女だと分かり破滅する〜」完結

まほりろ

1話「屋根部屋の魔女」

「ここが貴様の部屋だ!」


乱暴に扉が開けられホコリが舞う。


メイド長に案内されたのは、長年使われた形跡のない屋根裏の物置部屋だった。


あちこち床がめくれ、壁紙はボロボロ、カーテンには穴が空いている。


家具は扉の閉まらないクローゼットと、ホコリだらけのベッドと、壊れかけた小さなテーブルとイスのみ。


これが侯爵夫人の部屋とはね、子爵家では使用人だってもっとましな部屋を使っていた。


「旦那様とローザ様の真実の愛を金の力で引き裂いた女狐が! 貴様にはこの部屋がお似合いだ!」


メイド長はそう言ってドアをバタンと締めて去っていった。






私は魔女、名前はアダルギーサ、年齢三百歳。


ただいま嫁ぎ先で使用人に虐げられている最中だ。


なぜ魔女の私がこんな生活を送っているかというと、話は数日前に遡る。   





☆☆☆


 




「魔女様の為にクッキーを焼くのは今日が最後になるかもしれません」


悲しげにまつ毛を伏せエミリーが告げた。


「いきなりどうしたの?」


三百年生きてきたけど、その中で一番衝撃的な告白だった。


「私…………お嫁に行くことになりました」


「私を捨てる気?!」


十年前私は悪竜と闘っていたが、あと一撃というところまで追い詰めたとき、負けを覚った悪竜が自爆した。


辛くも転移魔法で逃れた、転移した先が子爵家で、戦いで疲弊していた私はそのまま気を失ってしまった。そのとき助けてくれたのが八歳のエミリーだった。


私は一週間眠り続けた。エミリーの献身的な看病がなければ目覚めたかどうか。


目覚めた私は恩に報いるため、エミリーの願いを一つ叶えることにした。エミリーは「お父様の足の怪我を治してほしい」と言った。


子爵は馬車の事故で足を怪我し寝たきりだった。魔法でパパっと子爵の足を治すと、子爵とエミリーから感謝された。


子爵は「魔女様はわしの大恩人。我が家の守り神として末永く滞在していただきたい」と言ってきた。


旅から旅の生活に疲れていたので、一箇所に留まるのも悪くないと思えた。


それ以来エミリーは父親を救った私を崇拝している。


あれから十年私は子爵家の屋根部屋に住み着き、三食昼寝とおやつ付きの快適な生活を送っている。


もちろん世話になっているので時折子爵家の為に働いている。頻度にして一年に一、二回。


日照りの年に魔法で雨を降らせ、増え過ぎた魔物を間引き、突然変異で凶暴になった魔物を狩るという超ゆる〜〜い仕事。


子爵家の人間はたったそれだけのことで「魔女様は我が家の守り神です!」と言って崇めてくれる。


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