第3話 詰所にて
詰所では、皆、俺の身を案じていたようで、わっと俺へと集まってきた。
「どうだった?」
「大丈夫だったか?」
「姫に殺されなくて良かった」
矢継ぎ早に猫たちは尋ねてくる。やはりアイリス姫が今まで指南役候補を殺めた事を知っている様子だった。
その中で一人、壁に寄りかかったままの猫がいた。目深に被った羽帽子で顔は見えないが、微かな怒りを感じる。
「ボクを振って姫になびいた癖に。死んだ方が良かったんじゃないか?」
「怒るなよフランシス」
と、俺が声をかける。
「どうせ口だけ──って、シャルル。記憶が戻ったの?!」
「あぁ、まだ前世の記憶と混濁しているが、お前の事は真っ先に思い出したよ」
この猫の名前はフランシスと言う。稀少価値の高いオス──オス、と言っても性別がないのだが──の三毛猫で、何より俺に惚れている。勿論俺にその気はないので、叶わぬ恋なのだ。フランシスはわなわなと肩を震わせたかと思ったら、俺に駆け寄り、そうして抱き締めた。
「良かった!」
もふもふ同士が抱き合っているなど、人間が見れば癒しにしかならないだろう。少なくとも絵美はもふもふの動物が大好きだったので、喜んで飛び込みに来るだろう。
ちょっと、それも考えものかもしれないが。
「いやぁ、良かった」
こん棒を肩に担ぎ、マウロが言う。待ってください、銃士ってマスケット銃を持っているから銃士なんですよね? まぁ、俺も他の隊員もレイピアを腰にはしているのだから文句は言えないだろう。
「ねぇ、それよりどうする?」
俺に抱き付いたまま、フランシスが言った。
「どうする? って?」
「飲みに行くんだよ。折角命拾いしたんだ。葡萄酒の一杯でも奢ってやるよ」
と、近付いてきたサバネコ──ダミアンが言った。
「しかし、王からの返事を待たなくて良いのか?」
「流石にすぐ返事は来ないだろう。心配ならお前の従者に伝言を頼めば良い」
そう言えばそんな存在もあった気がする。名前は確か──
「エタンですよ、ご主人」
背後から声が聞こえる。声の主はぬっと俺の前に顔を出した。闇にまぎれそうな黒猫だ。
「どうしてお前がここにいるんだ」
俺が驚くと、
「もしご主人が姫様に殺されてしまうような事があったらあっしが食いぶちを失います。それでご主人の家の一階に住む大家の女将さんに留守を頼んでここまでやって来たんですよ」
「そうだったな。お前はそう言う猫だったな」
俺はため息をつく。
「ともかく、無事でなによりです。伝言でも電報でもなんでも承りますから、生還の祝杯でも上げてきて下さいよ」
「わかった。ありがとう──じゃあ、飲みに行くか」
フランシスを引き剥がし、俺は皆を見回した。
「おう!」
口々に猫たちは言う。そうして、わいわいと外へ出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます