顔
バブみ道日丿宮組
お題:蓋然性のある表情 制限時間:15分
顔
「……笑うって楽しいかな?」
「うーん……。笑うことが既に楽しいという前提に近いって、僕は思うかな」
「でも、ずっと笑ってる人いるよね? 人が死んでも、何があっても」
「そういう笑いもあるんだよ。楽しいとか以前にね。悲しくたって笑いたいことはあるんだよ。笑って忘れるというのが人間の仕様としてあるんだ」
「そんなものなの? 私も笑ったほうがいいのかな」
「どうだろうね。僕はあくまでも付き添いできただけだから、笑うのは不謹慎だし……。そう考えると君は身内だし笑ってお別れというのは一つの選択かな?」
「ふーん。身内っていっても私はほとんど交流なかったよ。ずっとあなたの家に押し付けられてたわけだし」
「それはそうだね。僕も君に妹がいるだなんて、お葬式で知ったくらいだ」
「私は嫌われたからね。ほんとだったらここに呼ばれることもなかったと思う」
「……そうかな。妹さんはこうして死んだ時にようやく会えたって話だし、これから君は家に戻れると思うよ」
「私は戻りたくないな。あなたのいる場所がいい。あそこには私の居場所なんてない。笑っても、それは偽物。本心じゃない。そんな場所楽しいはずがない」
「だけど、君を呼んだのは君の親さ。確かに妹さんの遺書にあったけどさ」
「写真でしか見たことのない両親を両親って呼ぶのは変。あなたのおばさまが私のお母さんなんだから、いまさら両親ぶっても信用できない」
「それは母さん聞いたら喜ぶと思うな。ただ……ほら、君を見てる人が多いだろ」
「嫌な視線にしか思えない。跡継ぎなんて他の人がすればいい」
「そういう遺書だから、少しは考えてもいいんじゃない?」
「どうして? 楽しくない場所なんて窮屈でどんな顔したらいいのかわからない」
「普段僕といる表情でいいんだよ。そうすればきっと向こうから心をひらいてくれる」
「あなたといるのが好きだから私はそうしてるだけ。あなただけに見せる顔なの」
「そっか……嬉しい」
「うん。だから連れて行かれないように私をちゃんと掴んでてね」
「わかったよ。君がそういうなら、僕も覚悟を決めるよ」
そうして、彼女は僕の妻となった。彼女は楽しそうに笑ってた。
顔 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます