かのじょのかんがえ

バブみ道日丿宮組

お題:限りなく透明に近い嘘 制限時間:15分

かのじょのかんがえ

 落ちていく意識のなか、薄っすらと見えたのは笑った顔。

 彼女の見たこともない表情だった。

「……おはよう」

 再び意識が戻った時、僕はベッドの上で彼女に見下されてた。

「何が起こったの?」

 意識が落ちる前の出来事がわからない。

「なにもただあなたが眠っただけ」

「そうなの?」

 うんと頷く彼女はいつもの彼女の笑顔。あの時見た表情ではなかった。

「疲れてたんでしょ。教授にへんな薬でも飲まされたんだよ?」

「そんな記憶はないけれど……」

 研究室では教授はこなかったはず。それに研究室には他に誰もいなかった。僕が知らないだけで誰かが隠れてたとかいうのであれば違う……がそんなスペースがあるとも思えないし、隠れたとして何の意味があるのか。

「じゃぁ私の入れたコーヒーに細工があったのかもね」

「細工……? 睡眠薬とか?」

「そう。学校にはいろんな薬があるからね。そういったものが混入したのかもしれない」

 そんなはずはない。

 彼女と住んでるこの部屋にそんなものが紛れ込む要素が見つからない。第一に彼女が入れたコーヒーはスティックタイプ。洗ってあったカップに入れてくれたもの。

「どうしたの? 怖いの?」

「そういうわけじゃない。君が僕を眠らせる必要はないと思うし……」

「そうかな? 実験サンプルのために眠らせたってこともあるんじゃない?」

「……?」

 今日の彼女は一段とおかしい。

 いつも変わった遊びや、面白いことをいうのはわかってるけれど、こんなに笑う女性だったろうか?

「実験って楽しいんだよ。新しい発見があったりね」

 そういうと彼女はベッドルームから出ていった。

「……なんだろ」

 起き上がってみれば、僕は裸だった。

 脱いだ記憶もないし、行為に及んだ感覚もない。

 ただ身体が重い気がする。熱でもあるのだろうか。いや……体調には気をつけてたはずだ。

 まぁ……朝食を作ってくれてるだろうし起きよう。食べながら考えるか、彼女に問いただせばいい。もっとも彼女はきっとまともに応えてくれないだろうが。

「一段と今日は豪華だね」

 フルコースというのだろうか。ローストビーフに、味噌汁、サラダに、秋刀魚の塩焼き。どれがメインなのかいまいちぴーんとこない。

「栄養をたくさんとらなきゃいけないことになったんだ」

「そうなの?」

 口端を嬉しそうに彼女はあげた。

「うん、だからあなたも覚悟しててね。そのために寝てもらったんだから」

「ん? そうなの?」

 わけがわからない。だけど、彼女のことだ意味があるのだろう。

「食べたら病院に付き合ってね。逃げたらダメだよ」

「わかった。病気とかじゃないんだよね?」

 ふふと笑うと彼女は朝食を食べ始めたので、僕もそれ以上は追求しなかった。

 まぁ、病院についたら詳細はわかるだろうと考えたからだけど。

 彼女のいう覚悟がそれでも僕にはわからなかった。

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かのじょのかんがえ バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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