第83話 新な場所高崎

穏やかな日々が戻ってきた、外に出ると駐車場で綾乃ちゃんが棒を持ってミミズを突っついている。


「ツンツン」効果音を自分で入れながらミミズを見ている。


「うおーっ!!!動いた……」綾乃ちゃんは少しだけひるんだ。


俺は近くの棒を取って綾乃ちゃんのお尻を突っつくと「ツンツン」と言ってみる。

綾乃ちゃんは大きな目を見開き、ゆっくりと棒を俺に向ける。

ニヤッと笑って「新!私にもツンツンさせろ!」ジリジリ詰め寄ってくる。


「その棒はミミズを突っついたやつだろう、ジーンズが汚れるからやめて?」

手を合わせ頼んだが「洗濯するのは私よ!」と許してくれない。

和室まで逃げたが、結局綾乃ちゃんはあきらめなかった。ツンツンされたジーンズを脱がされて着替えていると先輩からのメールが届く。

リモート回線を開くと難しい顔をした先輩の顔が液晶に映し出される。


「新、会社が買収されたぞ、話を聞いてるか?」


「えっ……何も……どこの会社に?……」


「そうか、聞いてないのか、会社はマサキグループの傘下に入ることになった」


「ええ〜!!!……」


「オレは週に3日本社勤務になるから、高崎に通うことになる」


「そうなんですか……思ったより早かったですね……」俺は頭をかきながら眉を寄せる。


「お前だって火曜と木曜は本社勤務らしいぜ」


「そうですか……まあそうなるんでしょうね……」


「なんだよ、知ってたのか、だったら早く教えてくれよ」眉を寄せている。


「いえ、ただ予感がしてただけなんです……しかもずっと後の事だと思ってたんで」


「マサキグループに入った事で早速仕事の依頼が来てるらしいぜ」


「恐るべし、マサキグループ!ですね……」


「何のんきに構えてるんだよ」


「まあ会社が潰れるよりいいじゃないですか」


「それにまだあるんだよ、留美がヘッドハンティングでマサキグループに行くことになった」


「えっ……今の会社を辞めてですか?」


「ああ、今の会社の倍近い報酬だってさ、喜んでたよ」


「将暉社長は留美さんの会社を知ってましたっけ?」


「この前天空のバーベキューの時に名刺を交換したんだってさ」


「なるほど……やはりあの時は瑠美さんの面接も兼ねてたんだな」俺は納得した。


「なんかさ、お前が綾乃ちゃんと付き合った事でオレの人生まで引き込まれていく感じだよな」


「そうですね……すみません」


「お前が謝ることでもないさ」


「なんか最近人生が思わぬ方向へどんどん進んでいく感じなんですよね」頭を抱えて下を向く。


「まあ良い方に行ってる気がするからいいんじゃないか?」


「先輩のその前向きなところが心強いですよ」


「そうか?まあ高崎もいい所らしいし、新な場所で頑張るか」


「そうですね」


やがて先輩は液晶からスーッと消えた。

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