第77話 『たかじょ』とヘタレ
6人は2次会を別荘ですることになり、山里の道を下って行く。
「景色いいですね」美由紀ちゃんは嬉しそうに眺めている。
別荘に到着すると美由紀ちゃんは室内を見渡して「私が早く来たかったなあ」ボソッともらす。
「ゴメンね私が早く来ちゃって」綾乃ちゃんが笑っている。
「残念です家出娘さん」美由紀ちゃんも笑った。
別荘の和室にはボンペリが置かれて、先輩は嬉しそうに飲んだ。
「新さん、マサキには入社しないんですか?」松本君が聞いて来る。
「荷が重すぎるよ、今の会社で十分さ」
「でも、いつかは綾乃さんが社長になるかもしれないんですよね」
「えっ、私だって荷が重いから嫌よ、新さんなんとかして」
「無理だよそんなの」苦笑いした。
「新が社長になってオレも入れてくれよ」先輩はかなり酔って来ているようだ。
「入ってもらうなら留美さんの方がいいです」俺が笑うと留美さんも笑った。
「しかし、社長も綾乃ちゃんには頭が上がらないいんだなあ」先輩が思い出したように漏らす。
「そうですね、綾乃さんは優秀な『たかじょ』ですからね」松本君が答える。
「『たかじょ』?…………なるほど、意識の高い系の女子なのはわかるなあ」俺は納得した。
綾乃ちゃんと松本君は顔を見合わせて「プッ」と吹き出した。
後の4人は少し不思議そうな顔で二人を見ている。
やがて夜も更けてきた。
女子3人は和室で寝る。男3人はリビングの畳の上で肩を寄せ合って横になる。
「先輩はマサキに入りたいですか?」
「そうだなあ……今の会社はじわっと売り上げが落ちてるからなあ……」
「そうですか……」
「お二人ともマサキに来てくださいよ、僕はそのほうが嬉しいな」
「………………」
俺は将輝社長が留美さんに仕事の事を熱心に聞いていたのが気になったが「まさかね」そう思って眠りについた。
翌日みんなは天空カフェで名水コーヒーを飲むとそれぞれにっこり手を振って帰っていった。
夜になると綾乃ちゃんは、意識の高い『たかじょ』からヘタレの綾乃ちゃんに戻っていた。
コタツから首だけ出して座椅子にもたれて「ねえ新さん、会社の仕事は減ってるの?」と聞いて来くる。
「そうだね……少しずつ減ってるかもね……」
「そうなの……どうしよう」
「畑でもやって自給自足で節約生活を目指すか!」
「それいいね、綾乃も手伝うよ、じゃあ早速畑仕事ができる服を買わなくちゃあ」そう言ってネットショッピングを始め、マウスをコチコチ鳴らした。
「うーん……なんか違ってるような……」
しばらくして寝落ちした綾乃ちゃんの手からマウスを外すと、そっと起こさないように布団へ移す。
横に添い寝して綾乃ちゃんの顔を見ながら思った。
いつかこの細い体に大きな重圧がのし掛かってくるんだろうな。
「今のうちに思いっきりヘタレておいていいよ」聞こえないよう綾乃ちゃんに言った。
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