第67話 質素な別荘
綾乃さんのスマホが鳴った。
「ねえ、パパが遊びにきたいんだって」
「別にいいけど」
「えっ、今日?……今から?……もう近くにきてるの?、じゃあもう断れないじゃん」綾乃さんが急いで着替えるとすぐにチャイムが鳴った。
「もうパパ……早過ぎるでしょう……えっ……誰?」
「秘書課の秋山さんだ、新くんにお礼が言いたいと言うのでお連れした、新君は?」
「もちろん中にいるけど……」綾乃さんは不思議そうな顔をして二人を中へ案内している。
「よう新君、この前はありがとう、秋山君が是非お礼が言いたいというのでお連れしたんだよ」
「えっ?そうですか、仕事ですからお礼なんていいんですよ」僕は恐縮する。
「まあいいじゃないか」将輝社長は妙にニコニコしている。
僕は違和感を覚えて少しだけ首を横にした。
綾乃さんはコーヒーを用意して二人に出した。
ミホさんは部屋を見渡して不思議そうにしている。
「新さん先日は本当にありがとうございました」深々と頭を下げた。
「社長のお嬢様がいる別荘だと聞いてたので、とても豪華な別荘かと思ったんですけど、意外に質素……いやシンプルな別荘なんですね?」
僕は思わず吹き出した。
「質素でいいですよ、何しろ150万円で買った別荘ですから」そう言って笑った。
「これでも自慢の愛の巣ですけど……」綾乃さんは口を尖らせる。
「いつでも二人で高崎の家へ来ていいんだぞ」
「いやですう……ここが楽しいんですう……」綾乃さんは尖らせたまま言った。
「ほら、やっぱり高崎の家には来てくれないだろう?」将輝社長はミホさんに言った。
それを見て、なるほどそう言うことかと僕は納得する。
「社長、気にせずに進めてください、早い方がいいですよ」
社長はビクッとして「そうか……そうなのか?」僕を横目で見た。
「二人なんか変」綾乃さんは眉を寄せて二人を見ている。
「二人はいつ頃結婚する予定だ?」将輝社長はよそを向いたまま聞いた。
「社長、そんなの待たなくていいですよ」
「いや……しかしだな……」
「いったいなんなの?パパ、ハッキリ言ってよ!」
「綾乃さん……だから……」そう言って僕は二人を目で誘導した。
ミホさんは恥ずかしそうに俯く。
「ええ……パパ……ええ……!まさか……」
将輝パパは社長と思えないくらいに小さくなっている。
「え〜……もうママのことを忘れたの?信じられない!」
「そんな訳ないだろう」社長らしい大きさにもどった。
「綾乃さん、ママはもう前のパパの所へ行ったんだよ、今のパパの一分一秒を考えてあげようよ」
綾乃さんは頭を抱え込んで「うーん」とうなっている。
「ねえ、もう二人は付き合ってるの?」
「そんな訳ないだろう、ただママがいなくて心にポッカリ穴が空いて寂しいんだよ」将輝パパはうつむいた。
「あのう……私はできるだけ社長をお支えしたいと思いまして」ミホさんもうつむいた。
「だからさあ、綾乃さん、喜んであげようよ」
「そうね、寂しくてパパがちっちゃくなったら嫌だし……ミホさんパパをよろしくお願いします」頭を下げる。
「よかった、じゃあ早速どこかで食事でも」パパは喜んだ。
「今日はいや!」綾乃さんは少しむくれた顔だ。
「じゃあまた今度……」二人は帰っていった。
「ねえ新さん、私が死んだらすぐに他の人と結婚するの?」
「僕はすぐに綾乃さんの後を追いかけるかもしれないな、綾乃さんのいない人生なんて全く考えられないもの」
「えっ、追っかけてきちゃだめ」そう言って僕に抱きつく。
僕は綾乃さんを強く抱きしめた。
「ママもパパの幸せを考えてあげてねって言ってるかなあ」
「そうかもしれないね」
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