第44話 恋の罠ワナワナ

「それに新さんには別の女性がいるみたいなんです」綾乃さんはすました顔で言った。


「おい新!お前ってやつは……いったいどこに」僕の袖を引っ張る。


「僕はいませんよそんな人」顔を横にプルプルとふった。


「でも昨日新さんのスマホに『まだいるの家出娘は?』ってメッセージが届いてましたけど」口を尖らせた。


僕と先輩は一瞬顔を見合わせた、そして同時に吹き出して大笑いした。


「新、お前まだポケキャバやってたんか?」息を切らして笑った。


「綾乃ちゃん、そのスマホのメッセージはポケキャバって言って1回100円で会話できるゲームみたいなやつだよ、相手は全く分からない人でもしかしたらオッサンかもしれないんだよ、見た目はアニメのキャラクターみたいなアバターが相手だけど」先輩は涙目で笑いながら説明した。


「新さんそんなことやってたんですか?」への字口でにらんだ。


「はい、一人で別荘にいたら寂しくて死んでしまうかもって不安だったんで……つい……」下を向いた。


「でももう寂しくないでしょう?」綾乃さんは睨んだ。


「でも綾乃さんが帰ってしまったら僕は寂しくて耐え切れないかもしれません。だから怖くてやめられませんでした」


「そこまで思ってるんだったら、ちゃんと付き合ってくださいって言えばいいのに」瑠美さんが呆れている。


「でも僕みたいなパッとしない男が綾乃さんとは釣り合わないと思ってしまうんです」


「確かになあ、ハードルはとてつもなく高いよなあ」先輩もうなずく。


「それに美人薄命って言うし、付き合えたとしても先が不安でした」


「ちょっと新君!見損なったわ」瑠美さんの逆鱗に触れてしまった。


「もし綾乃ちゃんがあと3年しか生きられないとわかったら、新君は逃げるわけ?どうしてその3年を全力で幸せにしてあげようとは思わないの」


「………………」僕はしばらく考えた。


「そうですよね、もし綾乃さんが3年の命だとわかったら、一分一秒無駄にしないように必死に幸せになれるように頑張ります」


「じゃあ答えはヒトツよね」瑠美さんは僕に圧力で促がした。


「あのう綾乃さん、もしこんな僕でよかったら付き合ってください」心細そうに綾乃さんを見る。


「はい、しっかりと告白を受けました、喜んでお受けします」ペコリと頭を下げた。


「瑠美さんステキ!私尊敬しちゃいます」綾乃さんは瑠美さんの肩に抱きつく。


僕は「はっ」とわれに返った。


「しまった、はめられた!」くやしそうにひざをたたく。


「新君取り消しはなしよ」瑠美さんは勝ち誇った笑顔で僕を見ている。


「はい……」くやしかったがハードルを越えられた事は瑠美さんに感謝した。


「よかったじゃん新」先輩は美味しそうにビールを飲みほす。


「あっ、昨日の夕食がとっても辛かったのは、ポケキャバのメッセージを見たからですか?」綾乃さんを見る。


「大正解!」綾乃さんは笑った。

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