第39話 陽だまりのような君

キッチンからの物音で目が覚めたが、なかなか布団から出られない。

気持ちいいしまだ寝ていたいと思った。

朝食の準備をした綾乃さんは小さな声で『行ってきます』そういうと頬に触れて出て行く。

僕は目をとじたまま頬に残る感触が何か分からず考えてしまう。

「指で押したのかな?しかし指で押したにしては柔らかかった」よからぬ妄想が膨らんでしまったためとび起きた。あわてて洗面所に下り冷たい水で顔を洗う。


「うーんヤバイ、完全に彼女のとりこになりつつある、どうしたらいいんだろう?」


キッチンに用意された朝食をリビングに持ってくると手を合わせ食べ始める。

相変わらず美味しい、とてもやさしい味で「おはよう」って言われてる気がした。

食べ終わるとパソコンを立ち上げ、全てを忘れるように仕事に没頭した。


お昼近くになってスマホが鳴った、綾乃さんからの電話だ。


「新さんお昼は天空カフェにきて食べて、それからパソコンのこともよろしくね」


「はい、今から行きますよ」ノートパソコンを持ってカフェへと向かう。


お店はバイクや車が多数駐車していてにぎやかだ。綾乃さんは忙しくちまきや飲み物を運んでいる。

僕を見つけると「ここに座って」そう言って店の中へ入っていった。

指定された景色の良いテラス席に座る。しばらくすると『給食セット』を持ってきた。


「お昼の人気メニューよ」そう言って微笑んだ。


そしてまた忙しく走り回っている。

お昼も過ぎ少し落ちついてくると、店の中へ案内される。


「千草さん、パソコンの症状を説明してください」


「ありがとう来てくれたのね、なんか立ち上がらなくて変な画面になるの、見てくれる?」


「ああ、これですね」僕がキーボードをたたくとすぐにいつもの画面が立ち上がった。


「どうしたらこうなるの?新君ってすごい」


「大丈夫です、なんかの不具合でセーフモードになったんでしょう」


「なんのこと?」千草さんはポカンとしている。


「僕がパソコンをメンテしてきましょうか?」


「そう、ありがとう助かるわ」


パソコンを閉じて持って帰る準備を始めた。


千草さんは綾乃さんに「なかなかの優良物件だわ」と耳うちしている。


「でしょう」綾乃さんが答えている。


しかし僕には正確な意味が分からなかった。


僕は隅っこのテーブルで仕事をしている。3時を過ぎたころ、なれなれしく綾乃さんに話しかけるお客がいた。僕は一瞬キーボードを打つ手が止まってしまう。

それを見た千草さんはクスッと笑った。


夕方二人は帰る支度をしていた。

千草さんは綾乃に何か耳うちしている。綾乃さんは嬉しそうに微笑むと小声で何か言ってる。


「また明日よろしくお願いします」二人は別荘に向かって歩き出した。


「千草さん何か言ってたね?」僕は気になって聞いてみる。


「新さんが可愛いって」


「何それ、意味が分からない」


「大丈夫、私が分かってるから」


「何それ」


綾乃さんは坂道を駆け出した。


「危ないから気を付けて」二つのパソコンを抱えて急ぎ足で後を追いかけた。


もう目の前まで冬の気配が近づいている。里山の空気は少し冷たくなって来ているが、何故か心はポカポカしている。坂道を下っていく二人の頬を風が優しく撫でた。

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