第30話 終わらないときめき

夕方笹原さんがやってきた。


「実は近々獅子舞があるんじゃが綾乃ちゃんに手伝ってもらえんかね」


「はい、私は何をしたらいいんですか?」


「ただ衣装を着て立ってればいいだけなんじゃ」


「なら大丈夫です、協力させていただきます」


「真一もきっと喜ぶよ、その姿を見たいと言ってたからなあ」


「じゃあお祖父ちゃんが喜ぶように頑張ります」


別荘上の集落で祭りが始まる。綾乃さんは青い着物を着て赤い袴をつけた。頭の上には花笠の飾りをつけ広場に立つと、その周りを三体の獅子が躍った。

笛や太鼓が集落に鳴り響く。

遠くから写真を撮りに来る人も多く、綾乃さんは美しさを発揮して多くのシャッターを浴びた。

広場は綾乃さんのためのランウェイのようだ、キリッとした目で来た人たちをうならせた。


「いやあ〜綾乃ちゃんはとっても美人だからみんな獅子舞より綾乃ちゃんばっかり撮ってるね」みつ子さんが笑った。


 祭りが終わると『なおらい』と呼ばれる飲み会がもようされる。僕と綾乃さんもそろって呼ばれ、集落の人たちと飲んだ。」


「あんたらはいつ結婚するんだい」あるおじいちゃんが聞いてきた。


「そのうちに」綾乃さんはにこにこしながらそう返事をしている。


「兄ちゃん、早く結婚しないとよその人にとられるぞ、今日は大変な人気だったからな」


「そうだそうだ、早く結婚しちまえ」集落の人たちにはやし立てられ、僕は頭をかきながら目を泳がせる。綾乃さんはそれを見てクスクス笑った。


 別荘に返ってきた二人はコーヒーをいれてテーブルで向き合った。


「綾乃さん僕たちは婚約者みたいになってますけど……」


「いいんじゃないですか、悪いことじゃないし」


「なんか集落の人たちをだましているみたいで気がひけます」


「いっそのこと結婚しますか?」


「何言ってんですか、付き合ってもいないのに」


「でも好きで、いつでも胸に飛び込んでよくて、帰りたくなるまでずっといていいんですよ、それってほとんど婚約してるようなものですよ」


「だから、ラブではなくてライクですってば」


「限りなくラブに近いんでしょう?」


「うーん……頭が痛くなってきた」


「飲みすぎましたか?」


「そうじゃなくて、この状況にです!」


綾乃さんはにこにこしながら僕を見ている。僕は冷めたコーヒーをズズッと飲んだ。外でフクロウが「ホーッ」と鳴いいる。

今日の綾乃はとっても綺麗だったよ、とお祖父ちゃんが言ってるかもしれない。

その夜、僕はときめきが止まらずなかなか眠れなかった。

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