幼馴染

バブみ道日丿宮組

お題:空前絶後の悲しみ 制限時間:15分

幼馴染

「ねぇ……いつになったら起きてくれるの? 私はまだ何も返せてない」

 言葉は空気に浸透して消える。無意味だと私に訴えかけてくる。

 あの時幼馴染が私をかばって倒れたときと同じ。存在し続けることを否定してくる。私はその姿を見つめることしかできないのか。

「……」

 寝室のベッドに眠りにつく幼馴染の肉体は冷たい。新しい血を巡らせても温かみを持たない。血液型もDNAもきちんと当てはめたのに、うんともしない。

「私ちゃんと言うとおりにしてるんだよ?」

 優しく撫でてくれた手をとっても静かに落下する。目覚めを感じさせない。

「……」

 繰り返される機械の心臓マッサージ。それによって、心臓は擬似的に動いてる。血流も少しは流れてる。けれど、体温は依然として低い。

 私は……助けてほしかったわけじゃない。そう願ったわけでもない。一緒にいれる空間が壊されたくなかっただけ。幼馴染とずっと一緒に過ごせる世界が欲しかった。

 幼馴染は廃棄決定した私のことを身を挺して助けようとしてくれた。おかげで逃げることはできた。ただ二人とも無事というわけにはできなかった。

 私の失った身体を幼馴染はくれた。動かなくなった足、腕を入れ替えた。もともと作り物の私には拒絶反応は起こらない。自分の肉体として再構築し、形を保つ。だから、私はすぐに回復することができた。

 けれど、幼馴染は違う。

 ただの人間で、私を作った研究所の所長の子ども。人間である限り、私がもらった身体を返すことはできない。普通の移植をしなければ助からない。

「……」

 研究所も今は検挙されて、跡形もなく消えた。そのため親族を見つけて解体する時間がかかってしまった。その親族ももうあと少しで途切れてしまう。

 そうなると、新しい親族を作る以外の案が浮かばない。

 幼馴染との子どもは作れるだろうけれど、幼馴染が目覚めたときに与える影響が怖い。

 なら、私は……。

 

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幼馴染 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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