盗まれたあと

バブみ道日丿宮組

お題:捨てられたデザイナー 制限時間:15分

盗まれたあと

 もしかしたら話題のデザイナーになれたかもしれない。

「……はぁ」

 そう語ったところで事実は変わらない。私が作ったものは他人に使われてヒットした。それが悔しくないといえば嘘になるし、撤回を求めてもやめてくれなかった。

 一度流行ってしまえばその人の名前は悪くて良くても知れ渡る。

 私が別のデザインを発表しても、『○○の真似をしたいけ好かないやつ』というレッテルを貼られるばかりできちんとした評価をもらえない。

 かといって、描かないのも負けた気がする。かつての自分を超える作品をかけばいい。そうなのだけど、結局は自分の中にある主軸の線を超えることはできない。

 それは個人がもつアイデンティティ。変えてしまったら、私が私でなくなる。

 他人が私を模倣して作ったものはもちろん偽物だ。だけど、それを真似て自分の世界を広げたなら、その人の能力が高かったことになる。

 私がきちんと表に立とうとすればもっとマシな結果も生まれたかもしれない。

 今はもう遅くて、表彰されたりした状態の相手をどうにかすることができない。いや……私にする気がない。他人があげたことだとはいえ、それはかつて私だったもの。私が褒められてるのと変わらない。

 そうであるならば、外交的に行動できるその人を見つめてる方がいいのではないだろうか。

 私は……私は自分の世界に閉じ込められてる。

 そんな世界を悪い意味で解き放ってくれたのだから、感謝しなければいけないのかもしれない。

「……」

 今日もまた不採用通知が届いた。

『○○のデザインと酷似してるため、本社は問題を抱えたくはない』

 そんな理由だった。

 笑ってしまう。

 普通は、祈られるものなのにパクリだと企業が訴えかけてくる。

 私が起源であると知ったらこの企業はどんな顔を返してくるのだろうか?

 

 企業がダメなら、作品展を開くしか私には取る手段はなかった。

 首都圏に近いところにコネを使って安く開くことができて、人もかなり入ってくれた。

「……の企業で働いてみませんか」

 最終日そういって名刺をもらった。

 聞いたことのある大企業。そんな世界にいる人がわざわざ足を運んでくれたことにまずは感謝して、詳細を聞いてみることにした。

 結果的にいえば、私はそのままその人にしたがって入社することになった。やることは会社内のデザイン。働き方を場所から変えるデザインを作るという仕事だった。

 そこでは『○○の真似』という見方をする人はいなかった。手早く描くものがなんであれ、求められるのはそこから生まれる力であり、画力は求められなかった。

 だからこそ、私は奪われたデザイン力で挑戦することができた。内気な私に変わって、他の人が描いたものをくんでくれたのも良かった。

 私は基礎部分を作れる人と評価され、次第に自分でも言葉を発せられるようになった。

 そんな時、私をどん底に落としたデザイナーが不祥事を起こして逮捕されてた。


『盗品の疑い』


 また誰かのデザインを盗むという、野蛮なやり方でーー。

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