培養

バブみ道日丿宮組

お題:今の誰か 制限時間:15分

培養

 人は憧れを持つ。自分にはないナニかを持ってる人に。

 とはいえ、その人を思ってもそうなれることはない。遺伝子レベルで配合をかえても、似ることはない。同じ人間が生まれることはない。たとえ双子であろうと違う人間。

 生まれることがないならと、自分のクローンを作ろうと決意してはや数年。

「失敗か」

 そっくりさん。水槽の中で泳ぐ人間。いや、魚人というべき存在は意志がない生物を見る毎日。最初の頃と比べると人っぽさはある。

「人肉は飽きたよ」

「そういうな。味は牛以上に高質だろう」

 助手がうまそうに水槽の中を温めはじめた。

「味が変わろうと見た目が変わるわけでもないし」

「それをいうなら他の動物でもミキサーされる時点でなにものこらんよ」

 過去では歯があった動物は、今では蛇のように丸呑みすることでしかエネルギーを取り込めない。襲われる生物が消えてしまったがために訪れた未来という……らしいが。

「イメージかな。口に入れるときに記憶がなくならないから……あと自分の遺伝子食べるわけだから、意識しなくても身体は反応するよ」

 自分の一部を利用して再生する。そしてそれを自分に戻す。考えなくても認識してしまってる事実は消えはしない。

「味を変えるのも手だが」

「それをしたら人間の再生なんて遥か遠くにいくんじゃないかな。私たちは食用としての人間を蘇らすのではなく、地上を動くものとして戻すのが目的として研究をしてきたじゃない」

 そうだなと相槌を打つ。

 そして水槽に新しい因子を入れ、培養を開始する。

「かといってこうして生命を無駄にするのもあれだし、他に効率の良いエネルギー摂取法もない」

 ミキサーされコップに入ったものを助手に手渡す。

「そうなんですけど、ただ長生きするのも飽きてきたかなぁって」

「娯楽も開発してみるか」

「じゃぁお互いに知られないように作りませんか」

「ん、確かにそのほうが楽しめるかもしれないな」

 じゃぁ水槽のクローンが成長するまでが期限で、とぼくたちは施設をあとにした。

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培養 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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