まち

バブみ道日丿宮組

お題:生かされた町 制限時間:15分

まち

「いつ戻ってくるんですか?」

 私の声に、彼が立ち止まる。でも……振り返ってもらえなかった。

 門という壁がわたしたちを拒絶してた。

「わたしたちはあなたに感謝しています。それと一緒に生きていきたいです」

 門番さんがわたしに強い視線を向けてくる。

 話しかけるな、呼び止めるな、そう言いたいのだろう。

 ……彼を町の外に追い出す決定はあっても、外にいる彼と話していけないという決まりはない。

「わたしたちも追いかけます」

「……やめておけ。外は人が住める場所じゃない」

「じゃぁなんで出てっちゃうんですか。それはあなただって同じじゃないですか」

「町のざわめきを消すには誰かを犠牲にするのが一番だ。その役目はもともとこの町の生まれでない俺がふさわしい。外は庭のようなものさ」

「人が住めない場所じゃないんですか」

 風が冷たくふいた。

 彼とわたしたちの間にある門よりもずっとずっと深い溝がそこにあるように感じた。

「俺は人じゃない。そう町で決まったろ?」

「そんなことをいうのが人じゃありません。お互い助け合ってくのが人だと思います」

 雪がつめたくわたしたちを空気ごと変えてく。

「そう。そうやって生きてくのがこの町のルールだ。君はそれに従えばいい」

 彼は一歩前へ歩いた。

 わたしは門を掴んだ。

「いやです。一緒にいたいのにどうしてわかってくれないんですか!」

「その気持ちには答えられない。一緒にいたら、幸せを感じてしまったら、何かを奪ってしまったら、犠牲とはよべない」

 また一歩彼が進む。

「姉さん。行こう?」

「なにをしたの……?」

 声に振り返れば、妹が門番になにかしたあとだった。

「死んでない。眠ってもらっただけ、ほら鍵」

 しゃがんで妹は鍵の束をとると、門の鍵をあけた。

「追いかけよう。ずっとずっと一緒にいるためにも」

 温かい温もりとともに、わたしは門の外に出た。

 冷たい風はもう感じなかった。妹が消し去ってしまったみたい。この暖かさを彼に与えたい。簡単に決まりをなくせる人の力を。

「……っ! 逃げないで」

 走り出したわたしたちは、彼の両手を握りしめた。

「ずっと一緒だから」

 

 あるき出したわたしたちが彼と話せたのは見知らぬ土地にたどり着いたときだった。

 それまで彼はずっと泣いてた。

 なんで泣いてたのかはわからなかった。でも、彼といられるならそれでもいい。なんでもいい。

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まち バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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