第3話  教室

教壇に目元がキリっとしている女性が立っている。

俺の担任の先生だ。その目が俺たちを見回す。感慨深そうに。


「お前たちは今日で卒業だ。そして明日からはダンジョンの挑戦が認められる。

だが、気を緩めるなよ。ダンジョンには思いもよらないことが待ち受けている。

心して挑むように。」



ここで、クラスのお調子者が声を出す。


「そんなことわかってるよ、リタ先生。

それに俺たちならダンジョンなんて楽勝だよ。そんな事よりリタ先生・・・」



お調子者ともう一人リタ先生に向かって歩き出している。

そして周りの奴らも立ち上がる。



「ねぇ、ロガは立たなくていいの?」



レクスが聞いてくる。

いつもなら空気を読まず立たないところだが、

今回ばかりは立ち上がる。面倒くさいが。



「な、なんだ、なんだ⁉お前たち急に立ち上がって。」



先生も困惑しているみたいだ。いや、内心何が起きるか何てわかっているだろう。

何でだって?だって先生の目の奥が笑っているから。



「リタ先生これ。みんなで寄せ書きを書いたんだ。

3年間ありがとうございました。」



そしてもう一人の生徒が花を渡している。一言を添えて。



「先生、本当に今までありがとうございました。

先生に教えて貰ったこと絶対に忘れません。」



部屋中に拍手が沸き起こる。



「お前たち。ありがとう嬉しいよ。・・・ん⁉」



先生は何か違和感を覚えたらしい。こちらを見つめてくる。

何だ。何だ。俺なんかしたかな?



先生が少し溜息をついたように見えた。



そのあとは、みんな先生と歓談し、学校最後の時間が過ぎていく。

まあ、俺は机に突っ伏してたけど。

レクスは俺の頭に乗っかってきている。重いったらありゃしない。





いつの間にか寝てしまっていたのか教室には誰もいなくなっている。

背伸びをして体を起こす。



「ふあああああ。って首痛っ。」



頭に重みがある。

どうやらレクスはずっと頭の上に乗っかっていたらしい。


「おい、いい加減降りろ‼」



「ん?もうご飯の時間?」



レクスも寝ていたっぽい。それに寝ぼけている。

ちょっとイラついてレクスを鷲掴み遠くへぶん投げる。



「おりゃああああ」



「ひやあああああ」



レクスが奇声をあげている。徐々にその声は遠のいていく。やっと軽くなった。

そんなことをしていると足音が近づいてくる。カツッカツッ。見知った足音が。



「ああ、やっぱりここにいたか。ロガ。」



さっき教壇に立っていた先生だ。俺は敬礼をして言う。



「先生か。お疲れ様です。」



「”お疲れ様です。”じゃないだろう。お前はみんなと写真を撮らないのか。」



写真?何のことだ。窓の外に目をやると、

さっきまで教室にいた奴らが黄色い声をあげて楽しんでいる。



「俺は別にいいですよ。それに俺今忙しいんです。

教室で懐かしさに浸っていますから。」



先生は溜息をついている。諦めというか、なんというか。



「はあ、お前は。まあいい。もう終わりだからな。

それよりお前本当に挑むのか。」



「はい。絶対に攻略して見せます。」



「そうか、誰が何と言おうと私は応援しているからな。

・・・ただ、無理だけはするな。約束してくれ。」



「・・・善処します。」



「・・・ああ、頼むぞ。じゃあ、私はもう行くからな。気をつけて帰れよ。」



先生はそういうとまたカツッカツッと音を立てて去っていく。



窓の外に目を見やる。



「もうちょっとここにいるか。」



何かものすごい勢いで近づいてくる毛むくじゃらがいるけど気にしない。



「ロガぁぁぁぁぁ‼」ドンッ‼



「っ‼あっぶね。」



寸でのところでその物体を避ける。



「ひどいじゃないか。投げ飛ばす何て。本をそんな風に扱ったらダメなんだぞ。」



「そうだな。本はそんな扱い方したらダメだよな。それはよーくわかったよ。」



そこには、無残な机の姿があった。






教室にもうちょっといようと思ったが、

あんなところにいたらまた面倒なことになる。

さっさと面駆らないと。荷物を持って教室を出る。




校門にはまだ人だかりが出来ていた。クスクスっと笑い声が聞こえてくる。


「ねぇ、ロガごめんね、ボクのせいで。」



何でかレクスは申し訳なさそうな顔をしている。何を気にしてるんだか。



「何が、それよりさっさと帰って、旅支度しなくちゃいけないからな。」



「・・・うん。」



やりづらい。調子が狂う。俺は駆け出していた。



「ほら、早くしないと置いてくぞ。」



「えっ⁉ちょ、ちょっと待ってよー。」

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