2 Vintage アメリカ オレゴン州

ビザ取得という作業

『ピノ ノワール ウィラメット ヴァレー

 2017

 クーパー マウンテン ヴィンヤーズ』


 クーパー・マウンテン・ヴィンヤーズは、アメリカ合衆国オレゴン州ビーバートンにある。

 州最大の都市ポートランド都市圏に位置し、クーパーマウンテンという死火山の西側斜面にワイナリーを構えている。


 クーパー・マウンテンで生産されるワインは、全てバイオダイナミック農法による自社の畑で育てた葡萄を使っている。


 今回のワインは、ピノ・ノワール、オレゴンはアメリカのブルゴーニュと言われるほど世界的なピノ・ノワールの銘醸地である。

 比較的冷涼な山地のため、ブドウの完熟感はありながらも、しっかりと酸の乗った伸びやかなピノらしい余韻を十分に感じさせてくれるからだ。

 しかしながら、近年の気候変動で少々スタイルが変わりつつあるのが現状だ。


 詳しくは次話以降に語るが、僕が実際に働いたワイナリーである。


 では、コルクを開けようではないか。


 暗めの濃い色合いだが少々オレンジがかっている。

 ブルーベリーのような濃厚な果実の強い香り、樽を使った木の香りもする。

 味わいも濃厚なベリー系で、やや刺激的なスパイシーさもある。

 果実の甘さも感じられるが、酸味が味わいを引き締める。

  

 カリフォルニアの濃厚なピノ・ノワールに比べれば、飲み口は優しい。

 しかし、軽やかなイメージはなくどっしりと重みがある。


『ピザトースト』


 始めは本格的なピザにしようと思ったのだが、お手軽に作れるピザトーストにしてみた。

 冷蔵庫の肥やしになりつつあった、ケチャップとマヨネーズを上手くブレンドしてソースを作り、ベーコン、薄切り玉ねぎ、ピーマンをカットし、バジルとチーズでこんがりと焼く。

 トーストの焼ける香りが食欲を掻き立てる。


 すぐに完成し、一口頬張る。

 単品で食べれば、悪くはない。

 これはこれで1食としては充分満足だ。


 これとワインを合わせても多分良いのではないか?

 だが、この考えは甘かった。


 ソースが少し甘かったため、ワインと合わせるとお互いの甘みを打ち消し合い、尖った酸味が際立ってしまった。

 お手軽さを目指したら、とんだしっぺ返しを食らってしまったのだ。


 手抜きは良くない。

 できる限り、やるべきことをやらないといけないのだ。


 人生もまた同じく甘い考えでいるとどんな目に合うのか分からない。

 人のふり見て我がふり直せ、と思ってもらえれば良いと思う。


☆☆☆


 ニュージーランドでの旅が終わり、僕は一時帰国していた。

 何をしていたのかというと、とあるリゾート地で季節労働をしつつ、次の旅への準備をしていた。

 次の目的地はアメリカ・オレゴン州だ。


 僕はニュージーランドでの仕事をしている間に次の行き先を決めていた。

 冒頭のワイナリー、クーパー・マウンテン・ヴィンヤーズだ。

 クーパー・マウンテンはアメリカのワイナリー仕事を探すサイトがあり、調べて応募していた。

 

 クーパー・マウンテンとは色々と連絡を取り合い、履歴書や職務経歴書などの必要書類をPDFで送り、面接をすることになった。

 ニュージーランドとアメリカでは距離が遠すぎるので、Skypeでのオンライン面接だった。

 もっとも、遠隔地ではオンライン面接が主流になっている。


 当然、時差があるため、僕は夜明け前の午前4時に臨んだ。

 

 その日は寝ぼけ眼で仕事をして苦労したが、その甲斐したもあり、無事に採用されることになった。

 しかし、アメリカのビザはなかなか厄介なもので、取得するまでに時間とお金がかなりかかった。

 

 僕は一応インターンという名目なので、ビザもそれ専用のJ1ビザというものになる。

 やることは普通の季節労働者と同じなので、3ヶ月間だけの期間限定の就労ビザだ。

 もちろん、日本の外国人研修生という名の奴隷制度とは違い、給料も現地の白人並みにまともに貰える。


 だが、このビザには仲介業者を通さなければビザが下りない。

 その料金も決して安くなく、闇の癒着があるのではないかと勘ぐってしまうのだが。

 そのようにして、書類も大量に集めて書き上げ、仲介業者にPDFで書類を送った。

  

 書類に不備がなければ、やっと大使館にオンラインビザ申請を行う。

 申請が無事に通れば、申請料の支払い、そして東京にあるアメリカ大使館で面談となる。


 アメリカ大使館は警備が厳重で、毎日人数制限があり、オンラインでの予約をして時間通りにきっちりと行かなければならない。

 そうしてやってくると、金属探知機を通り、荷物も事前に駅のコインロッカーに預けて所持可能な物だけで、やっと入場となる。


 順番が来るまでひたすら待つ。

 こちらの都合など関係なく、予約通りの時間なのにそこから先の待ち時間も長いのだ。


 順番がやってくると、ようやく英語での面談となる。


 英語とはいえ、簡単な質問で、動機や何の仕事をしてどのくらいいるのかなど、本当に基本的なことだけだった。

 もちろん書類チェックが有り、僕は不備があって書類の再提出を郵送で行った。

 

 この時に、隣からの面談の様子が聞こえてきた。


「だからぁ! 現地のおばさんのところで働くからぁ、大丈夫だってぇ!」


 大学生ぐらいか新卒ぐらいの若い女性が、なんとも間の抜けたような日本語で答えていたのである。

 

「英語はぁ、TOEICではできたけどぉ、会話はできないのぉ! でもぉ、行けば話せるようになるからぁ……」


 僕は聞いていて呆れ果ててしまった。

 こんな甘えた考えで国外で働こうというヤツも世の中にいるんだな。

 だから、こんな形式だけの面接も必要なのかとしみじみと納得した。


 僕は色々とあったが、無事にビザは降りた。

 仕事が決まってから、ビザ取得まで約3ヶ月、長い道のりだった。


 そうして、ロサンゼルス経由ポートランド行きの飛行機へと乗り込んだ。

 しかし、本当の戦いはこれからだった。

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