一時帰国そして次の旅の準備

『ピノ・グリ

 2019

 クメウ リヴァー エステート』


 クメウ・リヴァーはユーゴスラビアから移住してきたブラコヴィッチ・ファミリーによって、ニュージーランド最大の都市オークランド近郊クメウ地区に1944年に設立された。

 当主のマイク・ブラコヴィッチは1949年と早くに亡くなったが、その後の一族はワイン業界に大きく貢献した。


 では、こちらのワインを開けよう。


 使われているぶどう品種はピノ・グリ、赤ワイン品種ピノ・ノワールの変異種ではあるが近年世界的に人気がある。

 白ワインブドウにしては、ボディが濃い目で果実味のある味わいが特徴だ。


 桃やアンズの香り、ボリュームのある味わいは心地よい余韻が長い。

 やや甘みを感じるが、1リットルあたり10gもの残糖があるほど甘ったるくは感じない。

 例外もあるが、通常の辛口ワインは4g以下だ。 


 こういうやや甘いワインはついつい飲みすぎてしまうのが難点だ。


『ポークベリーのスパイス煮込み』


 ポークベリー、豚バラの塊肉だ。

 この肉塊をしょうが、ニンニク、シナモン、クローブなどなど、様々なスパイスとともに煮込む。

 ある程度柔らかくなってきた頃に、醤油、砂糖、などなどとさらに煮込み、甘辛く味付けをしていく。

 味も染み込み、肉も脂もトロトロまでいく前に、程々に柔らかくなってきたら火を止める。

 そして、表面を軽く炙るようにオーブン代わりの魚グリルに放り込む。

 もちろんオーブンがあれば良いのだが……


 さて、実食。


 ほんのり焦げ目のついた上部の脂がカリッと香ばしい。

 柔くなった肉部分とともに口の中に放り込むと、食べごたえのある肉の厚み、芳醇なスパイスの味付けによって食欲が増幅される。


 肉を食べたことによって幸福物質が分泌されているかのようだ。

 肉を咀嚼する行動を抑えることが出来ない。


 だがしかし、ワインと合わせねば!


 白ワインと肉、ではあるが、この組み合わせは危険だった。


 ボリュームのある白ワインと豚の白身肉、スパイスの風味が絶妙に絡み合い、あっという間に肉の塊が胃袋の中へと収納された。

 ワインもまた肉に溶け合い、身体に吸収されていく。

 そして、血流とともに人体という不思議な空間を駆け巡る。


 神の血は全身をめぐり、脳へと到達、僕はいつの間にか眠りについていた。

 

 旅も同じように味わい尽くし、終わりを告げ、やがて次の旅への準備が始まるのだ。


☆☆☆


 ホットドッグの襲撃で受けた傷も癒え、僕はニュージーランド最後の街へと到着した。

 ニュージーランド最大の都市にして玄関口オークランドだ。

 オークランドは海沿いの港町であり、少し足を伸ばせば美しいビーチやハイキングができるほど自然が身近にある大都市である。


 オークランドは魅力ある都市ではあるが、僕は観光をしに来たわけではなかった。

 数少ない日本人の友人が住んでいるからだ。


 彼女とは『神の血に溺れる』以前の放浪の旅でオーストラリアで出会った。

 かなりの僻地で同じ日本人同士だったこともあり、少し話をした。

 そうしたら、共通の友人がたまたまいた事で盛り上がった。


 その後、色々と共通の友人宅で再会したり、今回のニュージーランドでも二度ほど会っていた。

 ちなみに共通の友人は、KAC20224『お笑い/コメディ』の友人である。


 残念ながらこの彼女とは男女の間柄では全く無く、スコットランド人と結婚している。

 今では2児の母となっているが、この当時は第一子妊娠中だった。

 そのこともあり、子供用のプレゼントを持って会いに行ったのだ。


 この時に、僕以外に彼女の友人も日本から遊びに来ており、様々な場所へと観光をした。

 

 ニュージーランドの北部にしか見られない珍しい巨木『カウリツリー』を見に行ったり、ビーチへ遊びに行ったりした。

 スコットランド人の旦那も仕事が休みの日に、近場のワイナリーへ一緒に行ったり、ポークベリーを食べに食事のできるパブに出かけたりした。

 そして、戻ってきてワインを飲んだりした。

 

 こうして、ニュージーランドの生活も最後には満喫して一時帰国となった。

 次の旅への準備をするために。


 第二部 1VINTAGE 完

 第二部 2VINTAGE へと続く。


☆☆☆


 ワインの道へと進み出し、30歳を過ぎて学生時代を過ごしたニュージーランドの日々、語り尽くせないほどたくさんの思い出がある。

 この章では本当にそのほんの一部分について語っただけだ。

 お世話になった人々もまだまだ本当にたくさんいる。


 この最後では、同じ日本人の友人に少し触れた。

 某疫病があり、苦労はしたそうだが、二人の子どもたちとクマのように身体は大きいが心優しい旦那さんと共に幸せに過ごしているそうだ。


 現在の世界には、ささやかな幸せすら奪われている人々がいる。

 美味しい食事とワイン、飲めずともぶどうジュースでもいいから、心の繋がる相手と食卓を囲める、そんなささやかな幸せが溢れる世界になってほしいものだ。

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