短編小説集(異世界 婚約破棄・悪役令嬢など)

葉柚

もふもふ好きな王子に婚約破棄されたので、魔女にお願いして猫耳と尻尾をはやしてもらいました

もふもふ好きな王子に婚約破棄されたので、魔女にお願いして猫耳と尻尾をはやしてもらいました

「ミーニャリア、僕は君との婚約を破棄しようと思う。」


凍てつくような冬の季節が過ぎ去ろうとしていた日、ミーニャリアは婚約者であるクリスハート王子に呼び出された。


そこは、王城の庭園だった。季節外れのバラが咲き乱れているその場所に呼び出された時、嫌な予感がしていた。


そして、ミーニャリアの嫌な予感は当たった。婚約者である王子に婚約破棄を言い渡されたのだ。


「なぜです?」


おおよそ理由は予想できていたが、念のため確認をする。


「私はもふもふが好きなのだ。君はもふもふではない。だから、私は君との婚約を破棄させてもらう。」


……やっぱり。


私は大きなため息をついた。


このクリスハートという王子、極度のもふもふ好きなのだ。


この国には、いやこの世界には獣人などいない。世界中のどこを探しても。


だが、この王子は信じているのだ。おとぎ話に出てくる獣人の話を。


「後悔いたしますよ?」


「後悔なんてしないさ。もう父である国王には婚約破棄の件は了承をもらっている。」


「そうですか、わかりました。」


国王陛下もとうとうクリスハート王子の極度のもふもふ好きに嫌気が差したのだろう。


私以外の適齢期の女性など高位貴族にはいないと言うのに。


でも、それも愚かな王子が招いたこと。私はさっさと王子に見切りをつけることにした。


「あとでもう一度私と婚約したいと言っても私は頷きません。それでも構いませんか?」


「ああ。もちろんだ。」


言質は取った。


私はバラの植え込みに向かって声をかける。


「私はなにがあっても、これから先クリスハート王子と婚約はいたしません。よろしいですね?王子の言葉も記録しておいてくださいませ。」


「はっ。かしこまりましたっ。」


植え込みの中には国王陛下直属の隠密部隊の隊長がいたのだ。おおかた私のことが心配で国王陛下がつけたのだろう。


私は、そのままクリスハート王子の元を去った。そうして、クリスハート王子をみかえすために、功名な魔女の元に向かったのだった。






☆☆☆




「ミーニャリア。僕が悪かった。もう一度僕と婚約をしてくれないかっ!!」


魔女の元へと行った私は、王子に復讐するために王子の大好きなもふもふにしてもらったのだ。


もとい、魔女に期間限定で真っ白でふわっふわな猫耳と尻尾をつけてもらったのだ。


「嫌ですわ。クリスハート王子。貴方様はおっしゃいました。私との婚約は破棄されると。私と今後一切婚約することはないと言いましたよね?」


「そ、それは確かに言ったがっ!!王子である僕が婚約者になれと言っているのだ!なぜ逆らうっ!!」


クリスハート王子はもふもふな猫耳と尻尾を持つ私に激昂しました。


でも、クリスハート王子が力で私をねじ伏せてくるようなことはありえない。なぜならば、すぐそばに国王陛下がいるからだ。


「私は国王陛下とお約束いたしました。私は二度とクリスハート王子の婚約者にはならないと。国王陛下とのお約束があります。なので、そのお約束を破るわけにはいきません。」


私はそう宣言する。それを聞いた王子は顔を真っ青にした。


「それが許されると思っているのかっ!!」


「思っております。クリスハート王子?あなたは国王陛下よりも偉いのですか?国王陛下との約束を反故するだけのお力がおありですか?」


「ふぐぅっ!!」


クリスハート王子は自分の分が悪いと思ったのか、口をとざした。


「わかっていただけたのなら、結構です。私は失礼いたします。」


私は、クリスハート王子の元から去ろうとして背を向けた。


真っ白な尻尾が王子を誘うように左右に揺れる。


「せ、せめてその尻尾をさわらしてくれ!!もふらせてくれ!!」


「嫌です。」


王子は私の後ろで絶叫した。


曰く、理想の女性と婚約できないんだったら、王家なんて出ていってやる。と。


そして、それを国王陛下はふたつ返事で了承した。


王太子は別にいるから困らないと。そして、世界を見てこい、と。


こうして私の王子への異種返しは成功したのでした。



めでたし。めでたし。

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