777世(トリプルセブン)の大魔王 僕らの愉快な世界征服

みけ

第1話 おやおやおや?



――どうしてこうなったのだろうか。何が悪かったのだろうか。



 視界が捉えたのは、覇気を纏った男と、血肉を分けた兄弟の無残な姿。


 男が右手に持つその剣は輝きに満ち溢れていて、この世の全てをその光で消滅させてしまうのではないかと思い込んでしまうほど眩しい。


 激情に駆られ、憎悪を込めて男の名を叫ぶ。


 目の前の男こそ、僕らが倒すべき相手。あの、史上最強の勇者――



 『アレクサンダー・アインホルン』だった。





◇◆◇◆





「跪きなさい」


 どうも。僕の名前は瀬戸崎 和音 せとざき かずね、16歳。

 今、僕は悪魔のような男に見下ろされている。そして、悪魔は僕に言った。


「バエル様の御前ですよ。頭を下げなさい」

「ははぁっ」


 先ほど悪魔のような男と表現したが、それは決して比喩ではない。その男の目は普通なら白い部分がなんと真っ黒で、中央に黄色の瞳。それに、褐色の肌で、背中には大きな黒い翼が生えている。


 何のコスプレか僕には分からないが、大層力を入れているご様子。役になりきっているのか、男の纏う雰囲気が怖いので、僕は黙って男の言うことに従う。それっぽいセリフもおまけして。


――ん……? あれは……?


 頭を下げていると、視界の端で捉えた茶髪の頭が目に止まる。あ、あの頭は――


将冴 しょうご君!?」


 将冴君は僕の斜め後ろで倒れており、僕は急いで彼の元へ駆け寄る。


 将冴君は僕の双子の兄。僕と違ってやんちゃな彼は学校にもあまり顔を出さない、所謂ヤンキーと言うやつ。兄弟間は悪くないが、僕から見ても将冴君は何を考えているかよくわからない。


 そんな将冴君が地面に伏している。あの、喧嘩つよつよの将冴君が、だ。これはただ事ではない。


 というか、ここはどこだ? コスプレ男のインパクトが強すぎて周りをよく見ていなかった。ここはまるで……、王座の間? もしかして、撮影用に用意したの?


 いやいやいや、気合入れすぎでしょ。カメラとかどこにあんの? 僕カメラに映るのはちょっと事務所通してもらわないと。マミーに一本、ご連絡いただけますか?


 悪魔はもう既に跪いていない僕を一瞥し、何も見なかったことにして恭しく話し始める。


「バエル様。異世界から例の魂を持つ人間を連れて参りました。ご査収ください」


――え? 何言ってんの? この人。ご査収って何???


「え……? バエル様? ……いやですねぇ。何をおっしゃっているのですか! そんな、私が、まさか! 私が育児放棄したいがために、人間を連れてきたわけではありませんよ。えぇ、そうです。はい、わかっています。そのために、最も『邪悪な魂』を持つ人間を連れて来たのですから」


――さっきから、このコスプレ男は何をブツブツと独り言を言っているんだ……?


 男は誰もいない王座に向かって話しかけている。何? 怖いんですけど。え、危ない人なの? 将冴君とは違う意味で危ない人じゃん。


――ん……? 待って……? おや? おやおやおや?


 よく目を凝らしてみると、王座に白い布が乗っかっている。その布は微かにユラユラと揺れていた。


 押さえられない僕の好奇心が一人でに動き出し、足が自然と階段を上り、王座の元へ進んでいく。


「あっ! あなたっ! な、何をしているのです!?」

「ふっ……ふぇっ……」


 僕の目に映ったのは、真っ白な布に包まれた、真っ白で柔らかそうな――





「おぎゃあああああああああああああああああああ」





 赤ちゃんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る