推理力のない探偵団
巽 圭一郎
プロローグ
男は来た事もない雑居ビルを見上げていた。
このところ、いつも誰かに見られているような気がした。
この「鍵」を手にしてからだ。
でも、いつも結局は何もないのだ。
そう。今だって、気のせいに決っている。
つけられてる…
そんな事をされる人生を歩んではいない。
そんな事をされるのはその「理由」を持った人間だけなのだ。
自分にはない。何もない。
ともかく、辺りは静かだ。ひと気もない。
男は、大きく一つ息をついて、雑居ビルに入った。恐怖心からか。その「誰」かに目的があって入ると思われたかったのか。あてもなく雑居ビルに入ってしまった。
男はエレベーター横の表札を見た。
2F THE UDON LOUNGE
3F R18探偵事務所
4F For Rent 〜入居者募集中〜
5F BAR 保健室
その「誰」かに威嚇になると思ったのか。
男は迷わず「3階」のボタンを押していたのだ。
──3階に着くと男は迷わず入口ドアが空いている方を目指して歩いていた。戸は開いたままになっている。中からは見えないくらいの所で立ち止まり、躊躇していた。用事もないのだ。
「うちに用事なの?」と、急に背後から女が話しかけて来たのでぎょっとしてしまい。表情がこわばってしまった。 体が動く間もなかった。一気に迫って来たその女の手が真直ぐに伸びて来て、男の腕をがっしりとつかまえた。声を上げようになった瞬間、女のもう片方の手がゆっくり口に当てられた。わずかな香水のいい臭いがしたと思った瞬間、近づいて来た女の顔そして女の目がカッと見開いた。「やめときなさい。何があったか知らないけどここに相談してはだめ。」男の耳下にささやいた。二人は、小走りに階段へ向かい一緒に駆け下りた。「うどん好き?」とにっこり微笑み「あそこにお金払うくらいなら私にうどんご馳走しなさいよ、話しくらい聞いてあげる」と2階にあるスナックかクラブのような派手な内装のうどん屋に2人で入った。
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