名探偵 エリザ −助手が優秀すぎて困るのよっ!?− 中編




 まず着手すべきは、現場の不可解さの検証である。


 とはいえ、これに関しては、非常にわかりやすい疑問点が存在する。


 先代枢機卿の遺体は、部屋奥の机の真ん中に、、部屋の天井を見上げていた。

 そして、し、柄だけが見えている鉄製のショートソードによって、ノドを貫かれていた。


 遺体の周りにも、にも血痕は残されていた。しかし、そのいて、不自然に開いていたの前まで続いていた。

 そして、にある獣人族の男の遺体があった。


 宗茂が気になったのは以下の部分だ。


 後頭部をピッタリくっ付けながら

 机の天板を貫通

 部屋の中

 血痕は扉の外の廊下にまで続いて

 窓

 殺害現場の部屋の真下

 中庭

 すでに息絶えていた


 では、要約しながら解説しよう。


 後頭部をピッタリくっ付けながら

 机の天板を貫通

 部屋の中

 血痕は扉の外の廊下にまで続いて


 これらは全て、遺体の血液に関する情報だ。

 さて、宗茂の感じた疑問を記していこう。




 ――後頭部をピッタリくっ付けながらということは、かなりの膂力で頭を机に押し付けていたはずだ。正面からは体勢に無理がある。ならば左右のどちらかだろう。利き手で左右どちらから押さえつけたのがわかるはずだ。

 ともあれ、右利きであれば、左手で頭を押さえつけて、ノドへ向け、剣を振り下ろしたはずだ。

 天板を貫通しているのに、机がまったく壊れていないというのは、膂力同様に剣と身体の使い方を熟知し、かなりの勢いで貫いたからだと伺える。

 ここでストップ。

 さて……少し考えてみよう。

 机にぴったり後頭部を押さえつけ、無防備なノドに、机に影響を与えないほどの剣速で、柄しか見えないほどほど深く突きを終えた時、果たして

 さらに言えば、机との高低差があるため、血が飛び散るとしても相当に偏ったはずなのに

仮に、彼の足裏に血液が付着していたといても、とてもではないが廊下の窓まで歩いて行くまでに残っているほどの量の血液が、その時点で部屋に存在しているようには思えない――




 この推理を聞いたエリザは、あまりの驚きに口をポカーンと開け、呆けながらこんなことを考えていた――な、なんでわかるのっ!?、と。


 特等級鑑定師であるエリザは知っていた。


 部屋に散乱している血液のほとんどがのものだということに。


 部屋の中の血痕の多くは獣人族のものである。

 宗茂も同じように推察し、その結論に至っていた。ただし宗茂とエリザでは、そこに至るまでのアプローチが異なっている。

 エリザは『鑑定 極』、だが宗茂は推理。だからこそエリザは驚いていたのである。

 宗茂は、残りの疑問点から推察し、推理に至る結論を導き出していたのである。


 では、残りの疑問点を並べてみよう。


 窓

 殺害現場の部屋の真下

 中庭

 すでに息絶えていた


 これらは全て、その後に起きた、獣人族の結末を想像するための鍵である。




 ――さて、殺害される前の獣人族の動きを考えてみよう。

 彼の遺体は中庭にある、ならばそこから逆算するとしよう。

 先代枢機卿を殺害後、彼は部屋から廊下に出て、すぐそこににあった窓を開いてジャンプ、そして中庭に落下し、事切れた。

表向き、彼が命を落とした経緯はこうなるわけだが、これは明らかにありえない。

 いくつか言いたいことがあるが、まず初めに断言しよう。


彼がこの窓から落ちても、よほど打ち所が悪くないかぎり、死ぬことはない。


 いいか、彼は人族よりも頑強な獣人族であれほどの鋭い突きを放てるほどに研鑽を重ね積み上げてきた武人、この程度の高さで致命傷になることはないし、ましてなどあり得ない。

ん……なぜ、即死といったか、か……この映像をもう一度よく見てみろ……いいか、彼の遺体にはし、遺体の周りも特段荒れてるようには見えない。

 もし彼に少しでも意識があれば、痛みにのたうちまわり、地面が荒れ、血液も飛び散るはずだが、そんな風には見えない。

これはねつ造が難しいんだろ?

なら、間違いなく彼は、中庭に落ちた時点で即死していなければおかしいということになるわけだ。

 だがさっき言った通り、彼ほどの男が、この程度の高さで死ぬわけがない、まして即死など絶対にありえない。

 だが、実際の映像では彼は即死したと思わせる状況で死んでいた。


 さて、この矛盾、どう思う――




 その推理を聞いていたエリザの表情は、宗茂やティアナが見たことがない、怒りとも悲しみとも判断のつかない表情であった。

 エリザがなにを思っているかわからない宗茂ではあったが、決して前向きな感情ではないのはなんとなく察していた。


 だから宗茂は、無言でエリザの頭を撫でる。


 ハッとしたように顔を上げたエリザが見たのは、いつものいかつい表情をわずかに崩し、わずかにエリザから視線を外していた宗茂の姿。

 そんな宗茂を見たエリザは慌てたように顔を伏せ、とても小さな声で――ありがとう、と伝えていた。

 そして、勢いよく顔を上げ、


「ええ!! ムネシゲのいうとおりよ、こんなの絶対にありえない、ありえないんだからっ!」




 いつもの満面の笑顔でビシッと指を宗茂に向けるエリザの姿があった。








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