鑑定大好き エリザさん!!(裏)




「――ませんわー……」

「なにか仰いましたか、お姉様?」

「ふふっ、空耳じゃないかしら?」


 やってられませんわーって言ったんだよっ、あああああああああああああああっ!!

 どいつもこいつも、見てください見てください見てくださいって……眼球かなっ!? アタシは、アンタらクソ貴族様の、お目目のフォローをするために生まれてきた眼球かな?


 んなわけあるかアアアアアアアアアアア!


 そりゃ声も裏変わるわ、裏はこんなに腹黒いもんっ、って……媚びた声なんか出させんじゃ――


「今日も美しいね、エリザベート」

「そんな美しいだなんて……エリザ、信じちゃいますよ、侯爵様……」


 だ、だだだ、出させんじゃねえよ、バカかよー……鳥肌おさまんなくなんだろがーい!!


 ああぁあぁあああぁぁ…………やってらんなーい…………ホンッッッットやってらんないわ、特等級鑑定師……なんでっ、アタシがっ、こんなにっ! イライラしなきゃなんないのよっ!!!


 そりゃあね、アタシだって、ご先祖様のことは誇りに思ってるわよ。


 異世界16英傑、最速と呼ばれたアタシんちのご先祖様――ホーク=B=ウィロウ。他の英傑と一緒に、最凶最悪っていわれてたらしい傲慢の破壊神を討伐して世界を救ったとか、すごすぎるわよね。相手、神よ? しかも、きっとなんでも破壊しちゃうタイプの神、そんなん倒しちゃうとか、すごすぎるわー。

 そりゃさ、偉大なる英傑様の末裔であるこのアタシに、ご先祖様が活躍してた頃は、みんな持ってたらしいコレ、今の時代では、100万人に1人しか到達しないコレ。


 アタシが、この世で一番嫌いなクソスキル、その最高ランクの『鑑定 極』。


 こんなスキル持ってたら、そりゃあアタシの人生、純隕鉄アダマンタイト並みに、ガッチガチに固められるにきまってるじゃーん……そんなところで、大事な大事なアタシの運をつかうんじゃないわよ、うわあああんっ!?


 あー……お婆ちゃんのカレー食べたい。


「お嬢様、本日は、デラルスレイク産魚介のアクアパッツァだそうですよ?」

「あら、それは楽しみね」


 あっさり美味しいアクアパッツァアアアアアア嗚呼……いや、別に嫌いな訳じゃないのよ、むしろ好きな方よ、ましてやデラルスレイク産だし。

 でもね、今日は違うの……お婆ちゃんが作る、フランクという名の超高速適当調理で作りすぎちゃう、しかも毎回味が変わる、こってり美味しいで何故か味がまとまってる素敵カレーで、エルフライスをかっこみたいのよ、アタシは!!

 そうよ、アタシはこってりメシが大好きなのよ、文句ある? あってもいわせないわよバーーーカ!

 うぅぅぅ、お婆ちゃーん、心がひもじいよぉ……そりゃ、アタシがワガママだっていう自覚はあるけど、迂闊に表には出せないのよ、ストレス溜まるのよ、公爵令嬢なめんじゃないわよ!!

 せめて……せめてこってりなナニかにしてほしかったのよおおおおっ!! 食事くらい楽しませてよー……もうやだ、おうち帰る――


「――無事に到着しましたね」

「ええ、そうね。じゃ、行きましょうか」


 ――やだあああああ、いきたくなあああい、ひきこもりたいよおおおっ!!







 はあ…………帰りたい。


「相変わらず綺麗なところですね」

「ええ、そうね――」


まあ、確かに……さすがは、デラルスレイクといったところよね。

 第2の方は平民出身の騎士しかいないようなものだから、設備周りにあんまりお金回せないって聞いてたけど、デラルスレイクは例外みたいね。

 もういっそ、第2騎士団は王都にこだわんないで、こっちを本部にしたほうがいいんじゃないかしら。あの本部、あと何ヶ月保つのかな……いや、ホントにヤバイのよ、あそこ。


「ところでお嬢様――

「……今のところは見当たらないわね」


 チッ……あー、うっざいわー。その気持ち悪い出しながら、アタシに近寄んないでほしい、ホント嫌になる。あんまり調子に乗ってると、脳内舌打ち100連をお見舞いするわよ?


 だいたいアンタみたいな奴にいわれなく、たっ、て……って、えっ……ちょ、なにアレ!?


「……何かありましたか?」

「ん、何もないわよ?」


 なんなの……なんなの、あのオジサン!?


 信じらんない、なにこの魔力、てか、あれ……ちょっと待って……いやいや、ありえないでしょ…………嘘嘘嘘、こんなの……まだ……まだ――なの!?


 あれ……この名前って……まさか――


「お嬢様――」

「集中するので静かにしてください」

「っ!? 誰を……ああ、聖女候補様ですか……かしこまりました。終わりましたら、お声掛けください」

「ええ、わかったわ――」


 ナイス聖女ちゃん、グッジョーブ! あ、まだ候補だったわね。

 なんにせよ、アタシは、あのオジサンに集中しなきゃ、って、あれ……なんかお爺ちゃんの若い頃に似ててちょっとイイ感じ……って、オイオイオイオイオーイ、エリザベートちゃんよーい! よそ見なんかしてると、乙女が他人に見せちゃいけないヤベエ特技堂々1位――失神、口からヤベエのどしゃああああ付き!? ――を食堂のみんなに披露することになるぜ、食道を行進してきたアタシの中のみんなをなっ! アーハッハッハ!! って、ちっがーう!?


 現実逃避してる場合じゃないでしょうがああああっ!!


 エリザはできるできる、アタシならできる、大丈夫、お婆ちゃんも褒めてくれたじゃん! 思い出しなさいエリザ、思い出して…………うわあーん、お婆ちゃーん……じゃ、なーい! はぁはぁ、ホント未装着って厄介ね、ぐぬぬぬぬ……あああああああ、もうー、なんなのこれ、んだけどもー!?

 責任者出てこーい、こらー! お婆ちゃん直伝の喧嘩殺法――あ、デザートは先にお願いします、あ、はい、アタイだけで――が火を噴くわよっ! ただねぇ、アタシ、デザートは食後派なのよ。 アタシもお婆ちゃんと同じ、こってり様アイシテール教信者だから、食前に食べれば、そのあとの食事に集中できるっていうのは理解できるんだけど、美味しいものは後にとっておきたい。

 ホント、これだけはお婆ちゃんと気が合わないのなんなんだろ……あ、開いた、って、うわぁ……これはアレだね、このオジサン、かなりヤバイわ。


 初期ステで星銀ミスリルの平均値越えってなんなの、しかも、魔物側よ、魔物側。


 あ、わかった、きっとヘンタイさんねヘンタイさん、お爺ちゃんもいってたもんね、男の八割はヘンタイさんだって、だからきっとこのオジぶほおおおおっ!?


 う、うっそでしょ?


 ふぅぅぅ……オーケー、エリザベート=B=ウィロウ、心を落ち着かせるんだー。アタシは海、アタシは海、アタシは海……あああ、手の震えが嵐ってるじゃないのよ、落ち着けええええーい……オーケーオーケー……もう一回ちゃんと見るわよ、上から順に。

うわぁ……このスキル、ヤバすぎるでしょ……このステに、このスキル……なんだろう、このオジサン――魔王にでもジョブチェンジするのかしら? いや、出来るかは知らんけれども。

うわすっご……近接戦闘のシナジーが、アタシの知る限りならほぼ満点……だけど……んー……ん、んー、ん……んー……やっぱりどう考えても、アタシが創造できる完成形に、これ、いらないわよね。


――『料理 極』。


 んー、ま、いいわ。とりあえず全部――、いざって時にはなんとかなるっしょ!

 さすがアタシ、天才かなー? はいっ、知ってまーす。アッハッハッハー!!


「ふう……帰りますよ」

「かしこまりました」


 兎にも角にも夜だ、一瞬でこのクズ女をまいて、あの2人に会う。

 おそらくだけど、現時点で到達しうるのは、あの2人だけだ。なら、ちゃっちゃと味方になるべきだよね――

 今日だけは感謝してあげるわよ、クソスキル。おかげで、あのオジサンを見つけることができた。


 アタシにとっては間違えようもない、完全無欠の救世主になってくれるであろうオジサンをね。


 アタシの、大嫌いで大好きなクソスキルは、頭がおかしいんじゃないのかなーってレベルで取得者が少ない、ノーマルスキル。

 しかも、何故かスキルボードの1番下に表示されるのよね、あの仕様だけは、未だによくわかんないわ。

 まあ、でもいいわ、今のアタシはすこぶる機嫌がいいから。


 なんでかって?


 オジサンのスキルボードの1番下に、『鑑定 極』って書いてあったんだから、そりゃ機嫌も良くなるってもんでしょ!




 いやー、オジサンへの好感度、グングンですわー、アッハッハッハ……あとは性格が良ければ……お婆ちゃん、アタシに幸運を運んで頂戴っ!!










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