ラーメン大好きおっさんは、異世界に連れてかれてもブレない。 −ラーメン大好きベルセルクの異世界無双−
如月コウ
その男、歴代最強につき
本多 宗茂という男
トントントンとリズム良く、新鮮なネギが刻まれると、その新鮮な香りが、彼女達2人に届く。
先に届いていたトロトロに仕立てたスペアリブ――チャーシューの香ばしいそれと共に、彼女達2人の食欲を大いに刺激していた。
彼女達の視線の先にある、2つのどんぶり。そこに透明な液体が投入され、次いで、白濁色の芳しい香りを放つ液体が注がれる。
そして、縦にも横にも大きい鍋、
どんぶりに向かっていく、てぼ。その中身が――麺を、どんぶりの中にそっと沈める。
てぼを寸胴へ戻し、代わりに握ったのは細長い木の棒――
とはいえ、材料調達もままならない、
彼としては少々不本意ではあるものの、それでも及第点であることに違いなく、誰かに振る舞っても恥ずかしくない出来となった、それの正体とは――
「これが、2人が初めて味わう食べ物だ――」
彼女達の前に置かれたそれは、この世界で――異世界の素材を元に作られた、言葉通りの、最初の一杯。
その日、この世界の人々を熱狂させることになる食べ物――ラーメンが、異世界にて初めて振る舞われたのである。
これは、彼が異世界に連れてこられたことで発生した、今はまだ誰もが知らない物語。
異世界にて、第2の人生を歩むことを決めた彼と、そんな彼が心から愛する食べ物が語られたる喜劇。
この物語は、後世へとこのように伝えられる。
――喜劇的な英雄譚、と。
これは、彼が異世界に来る前の話。つまり、彼にとって、地球最後の記憶。
とある異国の戦場にて、傷ついた仲間を逃がすために
彼の名は、
その大男、悪魔や鬼、果ては化け物と、敵対する者から
味方の逃走を見届けた宗茂は、即座に
だが、不運にも、想定外のトラブルが、宗茂に襲いかかる。
宗茂に油断はなかった。
ただただ運が、タイミングが悪かった。
撤退戦である以上、逃亡するための足は不可欠。
起こりうる
場合によっては、危険な状況になるかもしれない、1週間ほど、住民をつれて避難してほしい――作戦実行前、集落の長達に謝礼金を手渡し、言い含めておいたセリフであり、約定の内容だ。
つまり、宗茂が向かっている漁村の住民は、前もって避難している、その筈だった。
ところが、誰もいないはずの村に、1組の親娘が残っているのを宗茂は知った、知ってしまったのだ。
ごく最近、その村に引っ越してきた親娘は、村の外れに暮らし始めた。
引っ越してくる際に、充分な食料を持ってきていたことから、その親娘は、村
そのため、顔合わせをした村長以外の住人に、その親娘は、正しく認知されていなかった。
村長は、実質的な部下である3人の子供たちに、村人へ避難勧告するように指示。村長の息子たちは、与えられた仕事を全うしたかに見えたのだが、最近引っ越してきた、あの親娘に伝えることはなかった。
そもそも彼らは、既に引っ越しを済ませていることさえ、知らされていなかった。
それは偶然だった。
普段なら、村長と一緒にいるはずの子供達が、たまたま用事で席を外していたその日、親娘が顔合わせに来ていた。
そして、偶然にもその日の夜に、宗茂が率いる傭兵部隊からの依頼が届き、小心者な村長が依頼の内容に
そんな偶然が、
本多 宗茂は、
それに対し、宗茂を追いかける者達は、反社会勢力、いわゆるテロリストであり、それも、一個大隊規模の人員を、簡単に動員できるほどの強大な組織。
そのような者たちが、民間人の殺害をためらうわけもない。
近づいてくる多数のエンジン音。
テロリストの接近を
親娘を乗せたクルーザーは村から離れ、遠ざかり、視認できない距離まで無事に進んだことを確認した宗茂は、間近に
そう、宗茂は村に残ったのだ。自分たちの都合で危険に
手持ちの残弾はゼロに等しい。
敵から武器を奪うにも限度がある。
まして、周囲を完全に包囲されている今の状況で、敵から奪いとるのは、さすがの宗茂でも難しい。
つまり、既に進退は
だが、宗茂は――笑っていた。
38年という宗茂の、物心ついてからのこれまでの人生にて、これほどの
そうなのだ。今回の危機的状況と何ら変わりない死地から、宗茂は生還したことがある。
かつて
故に、宗茂は笑う――
立花流戦場術の師範である本多 宗茂は、自他ともに認める強者、いや、絶対的強者であり、テロリスト達とでは、強さの格――純度がちがう。
20や30の兵士が相手であれば、最新鋭の銃火器で完全武装されていようと、周囲に身を隠すような
本多 宗茂という武人は、その程度のことならたやすく成せるからこそ、敵対する者たちから人外
今、この時、宗茂が追い込まれているのは、単純な物量差と体力を消耗していること、ただそれだけ。
それならば、と、
それは、強きを選別する――
戦場に
純然たる事実として、この時点での宗茂の命脈は尽きかけており、まさに絶体絶命であった。
100人超のテロリスト達の銃口が、宗茂を
次の瞬間に命を落としていたとしても、決して不思議ではない。
テロリストを率いる部隊長である彼が、命を奪えと合図を出せば、この場の闘争はすぐに終わる。
だからこそ、それは、あからさまなミス。
部隊長である彼は、のちに激しく
――76。
それは、テロリストの部隊長である彼が決断するまでの、ほんの一瞬の遅れがもたらした人的被害、その数字。
周囲から届けられる
この日、弱者に成り下がったテロリストは、その存在を知った。
敵対者として眼前で躍動するその男のことを、自分達と同じ人類とは思えなかった。
宗茂は、その指で、拳で、
全身凶器という
実のところ、宗茂の身体には、数えきれない銃弾が撃ち込まれた、確かに撃ち込まれていたのだ。
だが、止まらない。
76人目の標的となった者の
そして、77人目。
テロリストたちは恐れ、
引き金を動かせない、いや、その手に銃をもっていることすら忘れてしまうほどに、恐怖していた。
なにも考えられなくなり、宗茂を見つめることしかできない。
もし目を離せば、その瞬間、周囲に転がっている同僚と同じようになることを、強く予感していたからだ。
だが、その場に訪れたのは、
待てども待てども、宗茂は動かない。
やがて、そのことに気づいたテロリストたちは、膝から崩れ落ち、心の底から
本多 宗茂は、
これが、異世界で、食材漁りのベルセルクと呼ばれることになる男の、地球での最後。
物語は、始まりを告げる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます