ネコ・ネコ・ネットワーク

もんしろ蝶子

NNN(ネコ・ネコ・ネットワーク)


 あなたは、どこかで聞いた事があるでしょうか? 


『ネコ・ネコ・ネットワーク』通称、NNNという組織を。


 この組織は一度NNNに所属(?)している捨て猫を拾った家には、何故か次々に猫がやってくるという不思議な事象を、誰かが研究したのかしてないのかは分かりませんが、猫と暮らす一部の方の間でひっそりと語り継がれている組織名なのです。


 この組織の怖い所は、このNNNに所属している猫を一度でも飼ってしまうと、もう二度と猫との縁が切れないという事です。


 NNNはあの手この手でどうにか組織の猫を飼ってくれそうな家に潜り込ませ、その猫が天寿を全うすれば、新しい猫と入れ替える。時には様子見しながらほぼ同じタイミングで猫を送り込んでくる。


 そういう事を平気でしてくる、猫と人間を無理やり結びつける組織なのです。

 

 ここで一つ、私の体験談をしましょう。


 うちには現在、六匹の猫が居ます。皆、手を変え品を変えやってきた猫たちです。


 自分から里親に名乗り出たりした事は一度もありません。ただ、やってくるのです。どうにかして。


 初めて猫を拾ったのは小学生のときでした。親にせがんで夜のカブトムシ探しドライブに連れて行ってもらった時の事です。カブトムシの代わりに、子猫を拾ってきました。ヤマネコの子かと思う程大きな子猫でした。


 次に拾ったのは中学生の時です。

 ご丁寧に箱に『拾ってください』と書かれていました。箱の中には四匹のネズミ状態の子猫が入っていて、その日からミルク地獄でした。

 へその緒も取れていないつるっぱげの猫を見るのが初めてで、試行錯誤しながら育児をしてどうにか四匹とも大きくなり、その時は既に先住猫が居た為、一匹を残して他の三匹は素敵な家族の元に引き取られていきました。 


 次に拾ったのはそれから数年後の事でした。夏祭りに行く道中でした。いつから外に居たのか、見た目はほとんどぼろ雑巾でしたが、ミルクは自力で飲んでくれたので手間はかかりませんでした。この子は今日も窓辺で生のササミとマグロに舌鼓を打ちつつ外を眺めています。もう相当におばあちゃんです。


 さらに数年後、車の行き交う交差点のど真ん中で三匹の子豚ならぬ三匹の子猫を拾いました。車にはねられては堪らないと思い、保護してそのまま家にやってきました。


 そして数年後、離れて暮らす叔父が買い物帰りに家のドアを開けたら、どこからついてきたのか、まるで我が家にでも帰ってきたかのような顔をして子猫がズカズカと家に上がり込み、そのまま居ついてしまったと言うのです。


 しかし叔父は一人暮らし。猫など到底飼えない。こうしてこの厚かましい子猫は我が家にやってきました。


 そしてまた数年後、おやつが切れた為、よせばいいのに車でコンビニにおやつを買いに行って、おやつと路肩で蹲っていた瞼の炎症を引き起こしてエイリアンみたいになった子猫を拾いました。


 そして今年、どこから入り込んだのか、気付いたら見知らぬ子猫が家の中に居ました。


 ここまで来るともう呪われているのではないかと思う程です。この頃になると、私はきっと前世で何か相当猫に悪さをしたのだろうと思って諦めていました。


 ですが、猫を拾う家というのは、何故か大体同じ家の人なのです。理由は分かりません。誰に話してもそんなに捨て猫にしょっちゅう出会わないと言いますが、しょっちゅう出会う人は本当にしょっちゅう出会うのです。


 そして皆さん、ここで何かに気付きませんか? 具合的な年数は明記していませんが、猫たちは皆、数年空けてやってくるのです。まるでタイミングを見計らっているかのように!


 一番初めの子が天国に旅立つと、見計らったようにミルク地獄。ミルク地獄が終わってホッとしていた所にぼろ雑巾。ぼろ雑巾が少し大人になった頃、三匹の子豚ならぬ、三匹の子猫。三匹が大きくなってやんちゃ盛りを過ぎた頃に厚かましい猫。ミルク地獄と三匹の子猫のうちの一匹が虹の橋を渡り、エイリアン。そして去年、三匹のうちのもう一匹が天国に旅立ったタイミングで見知らぬ猫。


 そう、これこそがNNNの計略だったのです。


 一匹でもNNNの猫を家に上げたら、必ず数年後にまた違う子猫がやってくる。


 都市伝説だとばかり思っていましたが、どうやらそれは本当のようだと私はこの時認識しました。何故なら、猫を拾う時には、必ずいつもと違う事を突然思い立ってしていたからです。

 

 まるで何かに導かれるようにいつもの散歩コースを変えてみたり、たまたま道が混んでいて迂回した先であったり、普段慎重な叔父がその日に限って買い物後少しの間、ドアを開けっぱなしにしてみたり、いつも買い置きしているオヤツが無くなったからと言って急遽コンビニに出向いてみたり……。


 思い起こせばゾッとする事ばかりなのです。これはもう、NNNの存在を認めない訳にはいきません。


 それでも私はこの事実を今まで誰にも言いませんでした。そりゃそうです。こんな話を誰がまともに聞いてくれると言うのでしょう。


 ですが、私はついにこの事をこうしてエッセイとして発表する事に決めました。

理由は、もう我慢が出来なかったのです。


 何故なら一昨日、父がまだ目も空いていない子猫を拾ってきたからです!!


 外に満足に出られない昨今、運動不足の解消にと近所に普段しない散歩に行って、どこで見つけたのか、またミルク地獄を拾ってきたのです!!!!


 タイミング的にもとても良かったのが災いしました。奇しくも私はテレワークに切り替わり、一日中家にいる身です。


 そう、ミルク地獄がやってきたとしても、面倒見れてしまうのです!!!!!!!


 どうやら今回はそこをNNNに目をつけられたようです。


 テレワークをしている、もしくは何らかの理由で家にいらっしゃる方で、なおかつ既に不思議な出会い方で子猫を拾った皆さま、どうぞお気をつけください。


 もしかしたらNNNは、次はあなたの家を狙ってるかもしれません。


 冷静になる為にも、次のミルク地獄まで少し寝ようと思います。


 ここまでお付き合いくださって、ありがとうございました。

 















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ネコ・ネコ・ネットワーク もんしろ蝶子 @monshirocyouko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ