思い出すなら4日後に
染谷絃瀬
めざめ
目が覚めた。
何かが足りない。心に穴が空いたみたいにどこか虚しい。
戦争のドキュメンタリーを見た後のような、「不合格」の文字を前にしたときのような、虚無感。
これはどこからくる感情か。
寝ぼけた頭を起こしながら記憶を辿る。
特に何もない。
夏休みに入り早くも15日経っている今日は、
ここ2週間気合を入れて山のような課題を一気に片付けようと
それまで奮闘しすぎたせいか、すごくよく眠れた。
しかし寝すぎたのか。
どこかに何かを置いてきてしまったのか、そんな焦りとそこはかとない虚しさが僕の心に居座っている。
これ以上考えても何も出てこないと思った僕は天井を眺めるのをやめ、起き上がった。
部屋を出てリビングに行くと、8月の最後の週しか夏季休暇がもらえなかった父さんは出勤前の新聞チェックをしながらコーヒーを飲んでいた。
母さんはキッチンで父さんの食べた食器を洗っていた。食卓には僕の分のトーストと目玉焼きが置かれていた。
「おはよう」と頭をかきながら言うとそれぞれから
「んー」や
「おう」とおざなりな返事が返ってきた。
席に着いて朝食をささっと食べ終えると僕は顔を水で洗い、パジャマのズボンだけ変えて家を出た。
家を出ると言っても行き先はマンションの隣の部屋なのでもう自分の家同然なのだが。
ドアに手をかけるといつも通り鍵が開いていて、僕が
「お邪魔しまーす」と声をかけると奥からおばさんが
「おはよー」とだけ返してきた。
僕はそのままリビングの端にある小さな仏壇の前に正座した。
線香を二つに折り、ライターで火をつけ香炉に立てる。
手を合わせる。
僕の幼馴染、
原因は運転手の居眠り運転だ。
どこの漫画かと疑いたくなる。
幼い頃から兄弟のように家族ぐるみで仲良くしていたので
亡くなったと母から聞いた時は情けないが膝から崩れ落ちて泣いた。
それから一年、莉紗に線香をあげるのは僕の日課になった。
学校の日も、休みの日もだ。だからおばさんも僕がくる少し前に玄関の鍵を開けておいてくれる。
「莉紗、おはよう」
僕は立ち上がり、
「それじゃ」とおばさんに声をかけて自宅に帰ることにした。
その一連の動作を見ていた莉紗にそっくりな妹、
トーストを齧りながらこちらを不思議そうに見ていた。
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