第11話 Little Romance(11)

そのグラスは、少しだけ開いていた窓の隙間からあっという間に落下してしまった。



ヤバ・・



ひなたは慌てて窓を開けて下を見た。



二階から落ちたそれは裏の塀との間の薄暗い隙間に落っこちて見えなくなってしまった。



アレ


ずっと前からパパたちの部屋に置いてあった。



小さなグラスの中にガラスのカケラみたいのが入ってて。



うんと小さかったときに


「これ、なあに?」


ってきいたとき



ママは



「パパとの思い出のものよ、」


と笑うだけで、あんまり話をしてくれなかった。




それ以来


気にすることもなかったけど。



きっと、だいじなものなんだ・・


それだけはひなたはわかっていた。





「ほらほら、こぼさないで。 よそみしちゃだめでしょ。」



夕飯の席も


ひなたはなんだか食が進まなかった。



いつものように騒がしい食卓だが、ひとり沈んでいた。


すごく悪いことをしてしまった気がして



まだ、ゆうこに言えずにいた。



「ごちそうさま、」


ひなたはあまり食べずに席を立った。



「え、もういいの?」



「うん。 これ・・涼太郎にあげる。」


残ったコロッケを差し出した。



「お、ラッキー!」


何も知らない涼太郎はそれに箸を伸ばした。





黙ってたら


わかんないかな。



ううん。 絶対に気づくし。


それで


ママはきっと必死になって探したりするんだろう。



ひなたは自分の机の上で悶々と悩み続けた。






志藤も帰ってきて、風呂上りに寝室で本を読んでいた。


その時部屋にノックの音がした。



「はい?」


ゆうこが返事をすると、ひなたがパジャマ姿で立っていた。



「まだおきてたの? もう12時よ・・」



ひなたはうつむいて、小さな声で



「あのっ、 そこにあったグラスにガラスが入ってたヤツ。 今日、涼太郎とふざけてて・・あたしが・・外に落としちゃって、」



正直に言った。




「え・・」


ゆうこと志藤は顔を見合わせた後、それがあった場所を見た。



確かに。


それはなくなっていた。



「ごっ・・ごめんなさいっ!! 下、おっこっちゃって・・見えなくなっちゃって・・」


ひなたは必死に頭を下げた。



子供が必死に謝っているのに


ゆうこは何だか身体が硬直してしまって、何も言えなかった。



はっとした志藤が


「・・そっか。 しゃあないやん。 わざとやないし、」


ひきつった笑顔で言った。



「パパ・・」



「塀と家の間に落ちたんやろ。 あそこに落ちたらもう取れへんやろし。」


と、ひなたの頭を撫でた。



しかし


ゆうこは呆然としたようにそれがあった場所に手を置いたまま動かなくなってしまった。



「ママ・・」


その様子にひなたは驚いた。


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