第10話 Little Romance(10)

「この前。 浩斗の服を洗濯しようと思って。 ちょっと浩斗の手え触っちゃったの。 そしたら。 なんだか・・ドキドキした、」


ひなたはこの前のことを思い出して言った。



「え・・」


志藤は少し驚いたような顔をした。



「今までそんなこと思ったこともなかったのに。 それから何となく・・浩斗のこと気になるってゆーか。」


ひなたはうつむいてそう言った。



それは・・


恋!?




志藤は大いに動揺した。



「ま、今までとおんなじなんだけどね。 だけど・・ああ、男の子なんだなって・・・たまに思う。」



「そ・・そっか・・」


志藤はグラスのビールを一気に飲んでしまった。



「でも! ななみもね、浩斗のこと好きみたい。」



と言ったので、ビールが逆流しそうになった。



「はあ?」



「ななみ、浩斗のこと話してるとき、顔真っ赤にしちゃって。 すっごい恋しちゃってんのかなあって、」


頬づえをついてためいきをつくひなたに



「ほんまか!?」


志藤は大げさに驚いた。



「あたし、ななみよりぜんっぜんわかってないってゆーか。 なんかショック受けちゃった。」



おいおい


この年で姉妹で三角関係かよ・・



カンベンして欲しい・・



志藤は本気で思った。



「ひ・・ひなたは。 まだまだ楽しいこといっぱいあるやろ? 恋とかはそんな本格的にまだのめりこまなくてもいいと思う・・」



半ば呆然として志藤は言った。



「そうかァ。 そーだよね。 あたし、友達と遊ぶのも楽しいし。 学校も楽しいし。 ダンスも楽しいし。 ま、勉強は大して楽しくないけど。 それでいいのかなァ・・」



身体は大きくなっても


ひなたはまだ同じくらいの子供に比べて精神年齢は低いようだった。



それが


少しホッとしたりもして。




「は? なにソレ・・」


家に戻った志藤はゆうこにひなたとの話を打ち明けて、呆れられた。



「も・・いろんなところから汗が噴き出てな・・」


志藤はくら~~く言った。



「まったく、生意気ばっかり・・」


ゆうこはため息をついた。



「子供がどーやったらできるかくらい知ってる!とか言うわりに。 男と女がつきあうってことがどーゆーことなのかはさっぱりわかってへんみたいやし。」


志藤はベッドの端に腰掛けた。



「まあ、そこが子供なんですけどね、」


ゆうこはドレッサーの前で髪をとかしながら笑った。



志藤はそんな彼女に近づいて



「異性を好きになったら。 まず・・こうして近づきたいやんかあ、」


と、手を握った。



「そんで。 こーして。 手を握りたいとか。・・抱きしめたい、とか。」


その通りに彼女にしてみた。



「そしたら。 相手に触れたい。 キスしたい、とか。」



「もー・・なんなの、」


ゆうこは笑ってしまった。



「それが。 恋やんかあ。 そんなんしてひなたが進んでしまったら・・どうしよって!!」


志藤はがっくりとゆうこに抱きついた。


「まあ。 いつかは。 そういうときも来るでしょうし・・」


「いやっ! まだ早い!」



志藤はもう


始まってもいないひなたの恋に


ものすごい嫉妬心むき出しにしていた・・




ところが。



「まて~~!! ちょっと! 涼太郎!」



「おれじゃない、おれじゃないってばあ!」



二階ではひなたと涼太郎が追いかけっこになっていた。



「ぜったい涼だっ! シャーペンこわしたのっ!」



「さいしょっからこわれてたんだよっ!」



逃げ回って両親の寝室に入って行った。



「ウソだっ!」


ひなたはそこにあったクッションを涼太郎に投げつけた。



しかし、涼太郎はすばやく身をかわし、代わりにサイドボードにあった小さなグラスにソレが当たった。



「あっ・・」



ひなたが驚いている間に涼太郎はぱーっと逃げてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る