第8話 Little Romance(8)
ひなたは電車で20分ほどのダンススタジオに今は一人で通っている。
レッスンが終わったのが6時だったが、何となく思い立ってそのまま志藤の会社まで一人で行ってしまった。
「あの~~。 志藤ですけど、父はおりますでしょうか、」
受付でおそるおそる言うと、受付の女子社員は
「えっ・・」
一瞬驚いたような顔をした。
「し・・志藤取締役の・・お嬢さんですか?」
「はあ・・」
「え、志藤さんこんな大きなお子さんがいらっしゃったんですか?」
若めの方の社員が驚いて隣の先輩社員に言った。
「あたしも初めて。 ていうか。 ソックリね。 お父さんに、」
呆れたように言われた。
「『あの』志藤取締役が~??」
本当に驚いたように言われて
パパって会社でどう思われてんのかな・・
ひなたは一抹の不安がよぎった。
そこに
「あれ? えっと・・志藤さんのとこの・・」
外出から北都と共に高宮が戻ってきた。
「あ、えっと! なっちゃんのカレシ!」
ひなたは嬉しそうに指差した。
「・・ひなたちゃん、だっけ?」
「当りっ! ね、パパはいますか?」
人なつっこい笑顔で言うと、
「確か。 今日は外出で7時ごろ戻るって言っていなかったか?」
後ろにいた北都が時計を見た。
「は・・はあ。」
するとひなたはいきなり
「あっ! 社長さんだ!! ええっと、いっつもパパがお世話になっています!!」
ペコリとお辞儀をした。
物怖じしない彼女に北都は思わずふっと笑ってしまった。
「とにかく。 帰ってくるまで応接室で待っていてもらいないさい、」
高宮にそう言った。
「ありがとうございます!」
ひなたは元気に返事をした。
制服のままのひなたに
「え、学校の帰り?」
高宮は言った。
「ううん。 今日はダンスのレッスンがあって。」
「ダンス?」
「ヒップホップ! もうけっこう上級クラスなんだよ~、」
ひなたはエレベーターの中で踊り始めた。
「ここで踊るなよ・・」
高宮は後ろの北都を気にしてハラハラした。
「ねえねえ、なっちゃんといつ結婚すんの? 結婚式、いつ?」
「く・・9月。」
「そっかあ。 なんかさー、またパーっとやりたいよね、」
「パーッとって・・」
いっぱしの口をきく彼女に、後ろで北都は押し殺すように笑っていた。
「え? ひなた? どしたの?」
南が顔を出した。
「あ! みーちゃん!」
ひなたは意味もなく南とハイタッチをした。
「なんか、パパに会いたくなっちゃって!」
「会いたくなっちゃってって、いつも会ってるんちゃうのん?」
「家の外で会うとまた違うじゃーん、」
「何が違うんだか。 なんか制服だと大人っぽいね。 また背も伸びたみたいやし、」
「そお? もうみーちゃんも抜かしちゃったしね、」
背比べをして笑った。
そして
「あ、みーちゃん、携帯貸して! ママにここに寄るって言わなかったから、」
「え、あんた携帯持ってへんの?」
「うん。 パパがまだ早いって・・」
「ほんま過保護やなあ。」
と、仕方なく携帯を貸した。
そうこうするうちに、
「ひなた??」
外出から戻ってきた志藤は驚いた。
「あ、パパ!」
ひなたは嬉しそうに立ち上がった。
「なんやねん、いきなり・・」
「そのパパの『なんやねん、』ってのが聞きたかったの!」
と、彼の腕を取った。
「意味わからへんて。」
「なんか。 おいしいもの食べにつれてって!」
娘にそんなことを言われて、志藤もまんざらでもなく・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます