第10話 オリヒメとヒコボシ①

 昔々、まだ魔物たちが森や海に跋扈していた頃のお話です。


 オリヒメとヒコボシという、どちらもとても見目麗しい男女がいました。


 2人は恋人同士で、とても愛し合っていて、結婚することになりました。


 結婚式の前日になりました。


 オリヒメは、「これが結婚式でお互いが一緒に食べ合う、トコヨの実よ」と言って、ヒコボシに見せました。


 トコヨの実は、とても甘い芳香を放っていました。


「早く食べたいね」

「そうね、早く食べたいわ」


 2人は、食いしん坊でした。


「ちょっとだけなら、誰もわからないし、いいかな?」

「そうね、ちょっとだけならわからないし、いいかな?」


 2人はどちらからともなく、その実をかじってしまいました。


 すると、どうしたことでしょう?


 2人の間には横幅の大きい、川が出来ました。


 2人は川の左岸と右岸に離れ離れになってしまったのでした。


「オリヒメーー!愛してるーー!」

「ヒコボシーー!愛してるーー!」


 そう言った瞬間でした。


 2人の間に横たわった川は、ゴーゴーと唸りを上げ急流となり、その川の上だけには雨雲がかかって、激しい雨を降らせるのでした。


 それでも2人は毎日のように岸辺に立ちました。


 そうして1年が経ちました。


 いつものように、岸辺に立つと、川は穏やかになり、雨は止んでいました。


「オリヒメーー!愛してるーー!待ってろよーー!」


「ヒコボシーー!愛してるーー!待ってるわーー!」


 ヒコボシは、小舟をこいで対岸のオリヒメのところまでやってきました。


「会いたかったよ、オリヒメ!」

「会いたかったわ、ヒコボシ!」


 2人が手を伸ばして、その手が重なろうとした時、ヒコボシの乗った小舟は元のところまで押し戻されてしまいました。


 2度目はオリヒメのところまで行くまでもなく押し戻されてしまいました。


 3度目には、もう小舟を浮かべることすらできませんでした。


「オリヒメーー!愛してるーー!待ってろよーー!」


「ヒコボシーー!愛してるーー!待ってるわーー!」



 そう言った途端に、また川は、ゴーゴーと唸りを上げ急流となり、その上には雨雲がかかって、激しい雨が降りました。



 ヒコボシは、オリヒメのところへ行くことが出来るのでしょうか?


 つづく

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