神によって異世界に導かれし者、ここにあり

ぴぴ

第1話 創世神は導く



 突然だが、俺はみんなの前で話すこととか、物事をまとめて整理してだとか、そういうのは得意ではない。だからこそ高校の文化祭クラス委員を決める際だけは何が何でも逃れてやろうと思っていたのだが、クラスの重圧に負けて結局やることになってしまった。

 しかし嫌でも選ばれた以上やるしかない、と思っている。

 俺はやると決めたらやる男。その名も神崎裕太かんざきゆうた

現在、夏休みだというのに委員として呼び出されている。


「んじゃあもう帰るわ〜」

「えっと、まだ終わってないんですけど……」

「友達とカラオケいくから、後よろしくね〜」

「……」


 さっきまで目の前にいた生意気な女子生徒は、本田とかいうクラスの一軍メンバーである。俺は基本的に(根暗だから)クラスの女子と関わることも少なく、話すのは一日多くて二言くらい。

 始業式が終わってもう三ヶ月以上経つのに、俺はクラスで数名の名前しか覚えていない。こんな俺が今日、一軍の本田と会話しただけでも良い方だ。……会話と言えるかは別だが。

 ていうか本田のやつ、同じ文化祭担当のくせに仕事もろくにせずさっさと帰りやがった……。クソっ、毎回俺だけ拘束させられるのもこりごりだ。

 夏休みだって後一ヶ月も無いというのに、クラスのやりたいことは全然まとまらないし、仕事は押し付けられるし。


「あーあ、つまんねぇ夏休み。もっと楽しいことねーかなあ」


 俺はぐっとその場で背伸びをし「ぐぁー疲れた」と横目で窓の方をみた。

 小さく見える芝のグラウンドには列になって走る野球部の姿がみえる。

 うむ、今日の最高気温はたしか32度だったそうな。──いやいや、余裕で干からびて死ぬレベル。

 俺のような、24度に設定したエアコン部屋で布団に潜りぬくぬくとゲームをするのが趣味な人間には、外の世界で息をするだけでも至難の業だというのに。

 という感じの引きこもりダメ人間な俺だが、意外にも体育は得意である。特に走ることに関してはそれなりにチヤホヤされてもいいレベルだと思っている。まあ、一番重要な誰かに見せる機会がないんだけど。

 そんなことを思いながらぼけーっと眺めていると、練習が一段落したのか次々に野球部達が散っていくのに気づいた。そろそろ休憩時間か。

 俺もさっさと自分の仕事に戻ろうと姿勢を戻しそうになるが、その瞬間、窓の外の違和感に気づいた。

 動きをやめ、それを凝視してみる。


 「なんだ……あれ」


 およそ先程から存在していたとは思えないほどの存在感だ。というのも、はとてつもなく明るく煌めいているからだ。 しかし視線を動かした先に既にあった。今現れたとも思いにくい。

 うむ。の正体は分からないが、光源が全く見えないほど発光しているのだから、何かの実験物が失敗して落下しているのではないか、と勝手に考察してみる。

 にしてもこの非日常感……この夏休みで一番楽しいことがついに訪れたのかもしれない。


 「どうせだし、どうなるか見とくか」


 俺は軽い気持ちでそれを眺めていた。

 ──が、突如は先程までのとは比べ物にならないぐらいの強い光を放つようになる。

 

 「な、なんだ?!」


 光は更にこちらへ接近し、もはや目も開けられなかった。

 俺は必死に手で遮ろうとする。しかしその努力も乏しく、意味をなさないほどに光は強くなっていく、

結局俺はそのまま光に飲み込まれ、だんだんとあたりは静かになっていった。



 ◆ ◆



 んで、ここはどこだ? 見渡す限りただの白い空間。俺は何故か光に包まれた後、この場所で目を覚ましたようだ。体はフワフワと無重力空間にいる感じである。

 しかし本当に何も無い。一言で言えば虚無ってやつ。

 すると何処からかコツ、コツ、とヒールのような音が聞こえてきた。さらにコツ、コツ、コツと音の刻みが早くなる。

 なんだ? どこぞのホラー映画のような展開か? 特にホラー映画は苦手じゃないが実際に体験してみるとこれは意外と恐怖だ。どこから迫ってきているのか分からないところがまた……


 コツ、


 最後にその音が、自分のすぐ横で鳴り響くと、


 「やあ、少年」


 突如、耳元でそんなことを囁かれた。それも中性的で男とも女とも捉えられる声をしていた。一体こんなことをするやからは誰なのか。

 俺は不意打ちの一言に驚き、ぐああと言うような酷い叫び声をあげた。


 「そんなに驚かなくてもいいじゃないか」

 「……」

 「ボクが誰かって顔してるね? そうだよね! うーんボクはね一言で言えば、この宇宙の神様! てとこ。よろしくね、少年」


 振り向いてそこに居たのは、自らを神と名乗るだった。しかも服装は二度見するレベル。恐らく話を聞かないやつだろう。

 一見してみると、見た目は華麗な少女で髪は銀髪のロングヘア。瞳は晴れた空のように青い。少女程度の背丈で、身にまとっている服はプリ〇ュアを連想させるような、魔法少女系のコスプレ姿だった。靴は厚底で、本来の身長とはだいぶ異なりそうな。

 ……ん? いやいや、全くこの発言と身なりからは神に思えないのだが?

 

 「あんた、本当に神なのか……?」

 「うん、神様。この宇宙を作った神様さ。そして今日、君に伝えたいことがあって来たのだよ!」


 俺はこいつが一瞬ウィンクをしたことを見逃さなかった。

 地味に可愛いのがイラッとくる。


 「……そんなの言われて信じるやついたらヤバいでしょ。だいたいそんな格好で神とか、信憑性無さすぎだろ?」


 自称神は「そう? 人間の世界で人気の衣装だと思ったんだけど……」と首を傾げながら自らの衣装チェックに夢中になっていた。

 その光景をじーっと細い目で見つめてみる。うむ、スタイルは良いし胸も大きい……が、よく見てみるとコイツ、自分の格好に見惚れてやがるッッ! 確かに見惚れるのは分からなくもないが……いやいや、こんなやつに見惚れるわけが無い。

 

  「ふ、結構似合ってる……ッッじゃなくて、じゃなくて!」

 「じゃなくて、なんだー?」

 

 慌てふためく自称神に冷たい視線を向ける俺。相手はそれを気に止めることもなく、話を続けようとする。おそらくこいつ、かなりのポジティブシンカーだぞ。


 「……ッごほん。そうだね。まずは君に、ボクが神ってことを証明して見せた方がいいかな?」

 

 そう言いながら人差し指を上に立て、顔面近くまでウィンクでそう迫ってくる。

 まさか本当に神なわけがあるまい……。


 「証明出来るもんならやってみろ」

 「ふっふーん」


自称神は得意げに笑う。


 「あ、ちなみにボクの名前はティオナ。ティオナって呼んでね! 言い忘れていたけれど、ボクは創世神だよっ」

 「創世神……? って、おい!」


 ティオナは詳しく説明もせずその場から姿を消す。

 数秒後、パチンッという指鳴らしの音が聞こえると前触れもなくその「神の証明」とやらが始まった。

 先程のアレが合図なのか、足元の白い空間の底の方から暗闇がジワジワと迫り瞬く間に、先程までの真っ白な空間から暗闇の宇宙空間へとその姿を変えた。

 ありえない……。息はできるが、ここは確かに宇宙空間だ。目の前に見えるのは太陽含める太陽系だ。

 

 「やあやあ、驚いたかな?」

 「……正直驚いたよ。本当に神となんてその言動からじゃ信じられん」

 「だろ〜? ボクは創世神ティオナ。この宇宙のことは僕がぜーんぶ知ってるよ。あれもこれも、ソレも〜♪」

 「わかったわかった……それでティオナ、初めに言ってた伝えたいことってなんなんだよ」

 「おっと、それのことなんだけど、ボクから説明する必要は無いかもしれない。多分説明しても意味不明だろうし、ね?」

 「は? ちょ、どういう意味だ──」


 話しているというのに、突如今まで浮いていた浮遊感が失われ、強制的に会話は終了させられる。

 スリープスターツ的な体の落ちる感覚が起こると、周りに映る宇宙も加速するように移動していった。

 うっ……正直吐きそうだ。この気持ち悪さと景色も合わさってさらにキツい。ジェットコースターでさえも無理なのにッッ……!!

 俺は臓物を吐きそうになりながらも必死に口を押える。

 しばらくして意識が薄くなり、全身の力も抜けて目を閉じそうになったその瞬間、ティオナが俺の体を両手で包むようにしていたことに気づく。

 俺はもがく力さえ残っておらず、されるがままにティオナと二人ずっと落ちて行く。


 クソっ……! またティオナに振り回されて……! 

 って、何してるんだ──?



 「君はこれから君が住んでいた場所とは別の世界に行くだろう。大丈夫、心配はしなくていいさ。何があってもボクがついているからね。これは君にしかできない君の使命。じゃあ、今度はあちらの世界で会おう──」


  最後まではっきりとは聞こえなかったが、おそらくそんなことを言っていた。

 なんだよその決めゼリフッ……! クソッ動けねぇ……

 結局よく分からないティオナのセリフを最後に俺は気を失った。


 そして────この身勝手で説明不足で何もかも適当な神様によって、俺は新たな“世界”で生まれ変わるのであった。

 


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