プロローグ




 魔法種アデイラ


 それは、神秘なる力を身に宿して生れた魂。

 生れながらに魔法という力を持つ、

 人間であり、人間に非ざる種族を示す。

 




   ◆



 プロローグ



 小さく掠れた声が、鼓膜を震わす。うっかり聞き漏らしてしまえば二度と掬えない声。海の波間に散りゆく粉雪のような、ひどくか細い呟きを耳が拾った。


 差し込む月明かりに縁どられた姿。窓辺に腰かけ肘をつく彼女は、白くぼんやりと輝いて見える。


 彼女はその言葉を無意識にうちに溢したのだろう。心の雫が思いがけずぽろりと、いとも容易く落ちてしまったのだろう。


 問いかけたタンザナイトの視線はずっと窓の外に向いたままで、大きさの違う二つの月を眺めている。


 そこには束の間に儚く消え去りそうな雰囲気がまとわり、静謐な横顔には人間味の欠片さえもない。幻のようで、この世のものではないくらい、美しくて。


 ――わたし、死んだらどこへ行くのかしら。


 魔法種アデイラという種族が、全ての終わりを人間と同じ様に迎えることは無い。ある者は石のようになって砕け散り、またある者は花びらに、紙吹雪に、砂に、泡になって――そして、消えゆくのだ。


 どのような最期になるのかは、誰にも予想することはできない。ただ、そこにただ一つ、輝く小さな石の欠片を残すことだけ。それだけは、確かなこと。


 彼女は答えを求めているのに、答えに期待していなかった。


 だからその問いかけに対する言葉も見つからないまま、その言葉が、心の奥底に隠そうとした彼女の感情が、いつまでも脳裏に焼き付いて――離れなかった。





 

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